司会ひとりで大フィーバー!林頭吉村の鼻息で吹き飛んだモノとは【75感門】

2021/03/26(金)18:30
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最高の誕生日になるはずだった。あの男さえ、黙っていれば。

 

感門之盟初日の深夜、Zoomで作戦会議が行われていた。翌日に控えた45[破]のプランニングアワードで、本選進出を決めたチームだ。選ばれたプランは、つぐつぐアーク教室学衆・西村洋己(にしむらひろき)が考えた「『シ』に出会うミュージアム」

西村は「プレゼンのネタになれば」とおずおずと切り出した。本選当日3月14日が彼の誕生日だという。「死」を扱うプランで、「生」を祝うとは粋な演出だ。師範・福田容子は賭けに出た。「優勝コメントにとっておきましょう」

英雄は、帰還してからの振る舞いも凛々しくあるべし。西村は「最高の誕生日祝いになりました」という台本を胸のおくに隠し、本楼にいる師範代・三國紹恵、師範・福田とともにプレゼンに臨んだ。

 

▲プレゼン用のスライド。死を観察するプログラムの語りに呼応させたのは、バナナが腐敗していくコマ送り写真。

 

結果は、接戦のすえ優勝。三國、福田は安堵の表情を浮かべる。ふたりが代表して、審査委員長の和泉佳奈子から記念品の三冊本を受け取った。この次だ。西村は岡山県の自室でひとり、ヒーローインタビューを待つ。準備万端だ。

 

マイクを握った司会の吉村堅樹は、語りはじめる。息継ぎすら惜しむように、校長松岡にあやかろうとハイパー性をまくしたてる。止まらない。壇上にいる7名のプレゼンターと3名の審査員は、みじろぎすらできない。思えば西村のプランの紹介に際し、吉村は空海による『秘蔵宝鑰』を情念たっぷりに歌いあげ、「おまえがプレゼンしてどうする」と校長松岡正剛に制された。無敵のスーパーケンジュマン状態はまだまだ続いていた。

 

ふと、言葉が途切れる。そして吉村は晴れやかに手を振った。
「では、半年後にお会いしましょう」

 

西村の誕生と優勝を祝う蝋燭の炎は、吉村の鼻息のまえで春の闇へとすべなく消えた。

 

▲幻と消えたのは、インタビューだけではなかった。不測の配信トラブルにより、47枚のスライドも視聴者には届いていなかった。プレゼンまでもがあの世とこの世のはざまを彷徨う、彼岸の間際。

 

協力:福田容子

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025