頼まれれば二つ返事で引き受ける。[守]の師範・番匠を歴任したことからもそのことは分かる。遊刊エディストのスターDust記者である井ノ上シーザーは実は侠の男なのである。
45[守]の師範代が体調を崩ししばらく休むことを余儀なくされた。師範代が帰って来るまでの代行指南を快く買って出たのが井ノ上だ。その事前打ち合わせが2020年6月24日オンラインで行われた。Skypeに顔をそろえたのは学匠の鈴木康代、担当師範の石井梨香、番匠の景山和浩、そして井ノ上の4人だ。
鈴木が口火を切る。「井ノ上さんにはミメロギアの番選ボードレールから、用法3のラストを目途に指南をお願いします」。用法3後半とは「即答ミメロギア」「ルール・ロール・ツール」「ダンドリ・ダントツ」「レシピを真似る」「犬と女とカッティング」。[守]でも大物と呼ばれるお題が並ぶ。用法3の総まとめであり、用法4への橋渡しとなる稽古の山場だ。しかも番選ボードレール。学衆との濃密な応酬がいきなり求められるのだ。やはり百戦錬磨の井ノ上が適任である。
「難しいところですね。いや、やりますけどね」。井ノ上は38守「熱線シーザー教室」で伝説的とも言える教室運営を見せた。「回答は師範代への上納金」と言ってはばからず、学衆を煽って稽古熱を上げ続けた。しかし、それも開講から積み重ねた学衆とのコミュニケーションがあってのもの。2カ月が過ぎた教室に突然入って井ノ上シーザー流指南が通用するのか不安なのだろうか。それとももったいをつけているのか。「出題はわたしがやりますから」。石井も全面的なサポートを約束する。
ふと、鈴木が「先達文庫がもらえるかも」と振ると、井ノ上の顔に急に赤みが差した。「それはやる気が出ますね。校長から本がもらえるほどうれしいことはないですから」。話が急にスムーズに進み始めた。
「このことは校長にぜひ伝えておいてください」「薄い本でかまいません」「校長のサインさえ入っていればメッセージはなくても」。侠の男、井ノ上は強欲だった。とどまらないリクエストの声を聞きながら3人は早々に退出ボタンをクリックしていた。
井ノ上が代行指南を始めてすぐ、教室をのぞいてみた。「みなさん、ゴジラが口から吐く放射能を思わせるような回答をお待ちしております!」。熱線を求めるアドバイス。シーザー節は健在だった。
景山和浩
編集的先達:井上ひさし。日刊スポーツ記者。用意と卒意、機をみた絶妙の助言、安定した活動は師範の師範として手本になっている。その柔和な性格から決して怒らない師範とも言われる。
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