【AIDA】シーズン1[対談セッション]石弘之*松岡正剛*大澤真幸 Vol.3:生命の定義を変えるーー「連続的なるもの」の生命論

2022/11/17(木)09:06 img
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今年もハイパーエディティングプラットフォーム[AIDA]の季節がやってきた。「生命と文明のAIDA」を考えたSeason1から、Season2では「メディアと市場のAIDA」に向き合い、2022年10月Season3が開講を迎えた。今期のテーマは「日本語としるしのAIDA」。新シーズンの到来とともに、過去シーズンのボードメンバーからの声に耳を傾けてみたい。

 ※内容は取材時のもの


 

2020年11月14日(土)、編集工学研究所のブックサロンスペース「本楼」で行われたHyper-Editing Platform [AIDA]シーズン1「生命と文明のAIDA」の対談セッションの模様をお届けします。地球環境史に造詣の深い石弘之さんと編集工学研究所所長でHyper-Editing Platform [AIDA]座長の松岡正剛が、生命の定義に迫ります。対談の最後には思想家の大澤真幸さんも参加、人間社会のあり方の根本を考え直す議論が展開することになりました。

 

石弘之(いし ひろゆき):1940年東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問。1996年より東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。主な著書に『地球環境報告』(岩波新書)、『森林破壊を追う』(朝日新聞出版)、『歴史を変えた火山噴火』(刀水書房)など多数。

 

松岡正剛(まつおか せいごう):1944年1月25日、京都生まれ。編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。情報文化と情報技術をつなぐ方法論を体系化した「編集工学」を確立、様々なプロジェクトに応用する。2020年、角川武蔵野ミュージアム館長に就任、約7万冊を蔵する図書空間「エディットタウン」の構成、監修を手掛ける。著書に『遊学』『花鳥風月の科学』『千夜千冊エディション』(刊行中)ほか。

 

大澤真幸:1958年長野県松本市生まれ。 東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。著書に『ナショナリズムの由来』(毎日出版文化賞)など。

 

 

なにか根本的なところでわれわれの社会の仕組みみたいなものを変えていかないと

 

2人の対話の終わり頃に思想家の大澤真幸さんが参加、議論の方向が「社会の仕組みの変革」に向かっていく。人類とウイルスの関係は依然として変わらない。ウイルスを変えるのが難しいのなら、人類が変わらなければならない。でも、どのように?

 

松岡正剛(以下、松岡) ここで、ZoomでHyper-Editing Platform [AIDA]に参加していらっしゃる大澤真幸さんにもご意見をうかがってみましょう。大澤さん、いかがですか。

 

大澤真幸(以下、大澤) こんにちは、大澤です。たいへん面白いお話、ありがとうございます。ぼくから、石先生にいくつか質問があります。

 「現代社会は新しいウイルスに対して非常に脆弱だが、今後も高い頻度でウイルスの侵略というか侵入を受ける可能性が高い」とする専門家のコメントがあります。石先生はどういう風にお考えになっていますか。

 

石弘之(以下、石) だいたい100年に1回はとんでもない感染症が流行するわけですね。第一次世界大戦中の1918年に始まったスペイン風邪とか、その前にはコレラの流行もあって、やはり100万人単位で人が死んでいた。およそ100年に1回ずつ繰り返しているわけですから、そのタイムスケールで考えれば、今後もあるでしょう。20世紀はインフルエンザウイルスの時代でしたが、21世紀はコロナウイルスの時代になるでしょう。これまでもちょうど10年おきに3回、コロナウイルスの蔓延があったわけで、ということは、10年後にまた1つあるんじゃないか。

 つまり、コロナウイルスはいろいろと変異をしながら10年くらいかかってようやく人間にとりつくことを繰り返しているんじゃないかと思うと、これからまだまだ続くだろうと理解しています。

 

石弘之、松岡正剛

 

大澤 今回、ぼくらに分かったことは、たとえば政府が完全に経済活動を止めると言っても実際には数ヶ月が限度なんだということです。1年間、経済活動を完全に止めるわけにはなかなかいかない。もし、あまりに高い頻度でその都度、2ヶ月間くらい経済活動を止めなければいけないとなると、これは、とんでもないことになってくるわけです。

 

 今後もウイルス蔓延の「高い波」が断続的に襲ってくるのだとしたら、われわれの生活スタイルを根本的に変えようじゃないか、という提言があります。

 100年前のスペイン風邪はどのように収束したか。結局、みんな諦めたんです。「これは神の業だろう」とか、「悪魔の仕業だろう」と言っているうちに、だんだん感染が広がっていって、たくさんの人が死んで、それで結果的に集団免疫を獲得して、収まっていった。感染症の克服ということでは、人類はそういう歴史を辿ってきたわけです。

 

松岡 今回はワクチンとか新薬が救世主のごとく語られていますけれども、ぼくはまだ、ちょっとクエスチョンマークですね。

 

大澤 最近、人間がこの地球の生態系のいろいろな条件を決定する最も重要なエレメントになっている「人新世(アントロポセン)」という言い方が流行していますが、石先生はどのようにお考えですか。人間はここまで来てしまったら、もう、後戻りはできないわけですから、このまま突っ走っていくのであれば、それは相当の対価が必要になってくるわけであって、ウイルスもその対価の1つなのではないでしょうか。

 

 そうかもしれないですね。ただ、先ほども大澤先生がおっしゃっていたように、なにか根本的なところで、われわれの社会の仕組みを変えていかないと、自滅って言いますか、そういうことになりかねない。バブル経済と同じで、(バブルが)弾けて破局が終わってから「あれが破局だった」と分かることになるのですが、終わってから分かってもしょうがないので、そこは何か根本的な対策が必要だと私は感じます。

 

大澤 人間とウイルスの関係は変えようがありません。われわれは、現在の新型コロナウイルス禍がどのように終わるのか分からないという状況にあります。すると、やはり人類は、新しいシステム作りに着手し、失敗と成功を繰り返す以外にないのではないかと思います。

AIDAボードシーズン1の大澤真幸さん

 

 失敗を取り返せるくらいの失敗だったらいいんですけどね。その辺がなかなか分からない。まあ、破局が終わらないと、あれが失敗だったと分からない仕組みになっているのがね。終わってしまう前にいかに「それ」を見抜くかがある程度は必要になってくる気がします。

 

松岡 全然別の見方でもう1つ、今、ぼくたちが考えなければいけないのは、このような状況についての言説があまりにも乏しいことです。思想がない。日本のテレビや新聞では、国内での新型コロナ対策の話はしているけども、根本的な議論についてはほとんど何も言われていない。貧困な言説状態の方がぼくにはちょっと心配ですね。

 

 そうですね。同感です。

 

大澤 ぼくは今、松岡さんがおっしゃったことに心から賛成なんですよね。つまり、今、ぼくらが感じている事柄の大きさと、ぼくらが持っている思想とか言語とかイマジネーションの乏しさの間のギャップが極端だと思うんですよ。事柄が小さいからぼくらは考えていないんじゃなくて、事柄は大きいのに、それに対してぼくらが言えることがあまりにも少ない。

 だから、今日、石先生のお話を聞いていて、すごく面白いと思ったし、興奮したのは、そういう問題について考えるヒントがあったからです。先ほど言いましたけど、この問題は本当は、ホモ・サピエンスが生き残るとは、どういう問題なのかということなのかもしれません。ホモ・サピエンスの条件とか、われわれ生きるものとしての条件全体に関わる問題、そういう問題に関わってくると思いながら、先ほどのお話を聞いていました。

 

松岡 大澤さん、ぼくはそういう問題設定はちょっと大きすぎると思うんですよ。そうじゃなくて、もっと小さい単位に視点を定めて思想を語らないと駄目なのに、語れないのが問題なんですよ。たとえば地方創生の話、経済の話、スマートシティの話をしながら、ホモ・サピエンスの話までする、その逆はないというか、それをしないでホモ・サピエンスの話をする資格はないんじゃないかとぼくは思うんだけれど。

 

大澤 おっしゃる通りだと思います。今回自分自身でもそう思いましたけど、事柄が持っている緊急性と、それに対して応答できるものとの間に何か大きなギャップがある、そういう感じがしましたね。

 専門家の方がいろいろと教えてはくれるんですけれども、それだけでは何か足りない。そのことだけを知りたいわけじゃない。そういう感じですね。ぼくらのこれからの世界観とか、あるいは社会のあり方とか、そういうことにつながっているものが何か起きている感じがすごくするんですよ。だけど、それに対する言葉が全くないっていう、そういう感じはしますよね、やっぱり。

 

松岡 そうですね。今日は植物の話から環境、生命、ウイルス、宇宙、神、人類、社会、さまざまなレベルのテーマでキーワードが提示された議論になりました。石さん、そして最後にご参加いただいた大澤さん、ありがとうございました。

 

 

撮影:下川晋平
編集:谷古宇浩司(編集工学研究所)

 

※2021年4月5日にnoteに公開した記事を転載

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。