「それ」は土曜日のお出かけであり、ブラックホールでもある。ときに、塩となってチョコレートのうえにちょこんと乗れば、あたたかいシャワーのようにも降り注ぐ。一気に冷え込んだある晩秋の午後、Zoom画面に身を寄せる20名がいた。彼らは「それ」の技術を身につけるべく集まった。
■リモートだからこそ、熱っぽく
36[花]ガイダンス開催
リアルでの一座建立が伝統だった花伝所も、リモート化が余儀なくされて4期目。36[花]では、従来の入伝式コンテンツの一部を切り出した「ガイダンス」がオンラインで10月17日に開催された。2時間で、花伝演習のカマエから千夜千冊の読み方まで、15名の指導陣が総出で方法を伝授する花伝の高速洗礼である。
「私たちはなぜ言葉を交わすのでしょう」新花目付に就任した林朝恵(写真奥)が問い、36[花]ガイダンスは幕を開けた。林は「呼吸をするように編集を」と呼びかけ、田中晶子所長(写真手前)は画面に整列する入伝生を見つめる。
▲入伝生・指導陣、総勢35名の大所帯がオンラインで初顔合わせ。
田中が共読したのは、入伝した者しか読むことのできない「師範代のためのイシス編集学校ガイド」。社会に編集を起こす師範代を輩出することこそが、イシスの大きな使命であると熱を帯びた。
▲二人目の花目付深谷もと佳は、美容師。みずからの営むサロンからメッセージを届ける。ガイダンスは、豪徳寺ISIS館2階「学林堂」から配信された。裏方Zoom担当は律師八田英子、ビデオカメラを構えたのはデザイナー穂積晴明。
■多才な師範の多彩なメディエーション
今期の合言葉は「言葉をはなそう」。「話す」そして「放す」。プレワークの段階から、入伝生全員が集うラボではコメントが飛び交い、関係線が曼荼羅のように引かれている。両花目付も目を瞠る共読っぷりに、師範たちも火が付いた。3分の持ち時間で、いかに知をスパークさせるか。メディエーションの工夫がダンゼンだった。
異例の[守][花]二刀流師範で名を馳せた中村麻人は、今期から花伝師範へ抜擢。自宅でホワイトボードを用意し、[守][破]の稽古と[花]の演習の違いを編集工学的にクリアに解説した。
また、14[離]を退院後、5度目となる錬成師範に挑む美濃越香織は、千夜千冊第2夜『ペガーナの神々』の朗読。入伝生に目を閉じさせ、パラフィン紙のようにフラジャイルな未知の原郷へと誘う。
アナログなメディアが多様になれば、デジタルな表象も進化が止まらない。アートや教育分野でエディターとして働く牛山惠子は、オリジナルのイラストでスライドを作り、噂の花伝キャンプについて謎解き。「錬成」という花伝特有の演習方法を語ったデザイナーの阿久津健は、Zoomアプリで画面分割するという新技を見せた。テクノロジーを駆使する阿久津は、事前に録画映像をYouTubeにアップするというひとりリハーサルさえ開発する気合の入れようだ。
■指南は、土曜日のおでかけか
もちろん、入伝生は一方的に聞くばかりではない。イーガンの想像力解発ツールを携える花伝所ならでは、「対概念」で遊ぶワークも行われた。軽快な口頭指南で場を沸かせたのは、武田英裕・神尾美由紀の両師範。ミメロギアや一種合成を出題し、90秒で回答を募る。「マネージの本・イメージの擬」(入伝生S)や、「雪+旨=熱燗」(入伝生O)、「雪+跡=稽古」(入伝生M)など、さすが師範代候補生と誇るべき妙回答がチャット欄で雪崩を起こした。
ひときわ座が盛り上がったのが、「指南を何に見立てる?」というお題。「指南は、ラブレターのようだ」に端を発し、「土曜のお出かけ」「ブラックホール」「星一徹」などさまざまな見方が寄せられた。
子どものころ、家族での休日の外出が楽しみだったという入伝生Tは、はにかみながら答えた。「どこへ行くかわからないけれど、なにかが始まる感じが好きだったんです」
花伝所とは、編集コーチ養成コースだ。錬成師範蒔田俊介は、コーチの語源は「馬車」「人を望むところに送り届けるもの」と遡る。
校長松岡正剛は「日本にはコーチング・メソッドが確立されていない」と嘆く。だからこそ、世阿弥に肖った花伝所がこの国に必要なのである。「コーチングに必要なのは『知恵』と『直観』と『判断のタイミング』であって、コーチが発すべきは命令力ではなく『提案力』」「コーチングとはコーチがコーチ自らの人間性を磨き抜けるかにかかっている」 松岡は、1635夜『クリエイティブコーチング』で平尾誠二からハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]まで、これから必要とされるコーチ像を描いてみせる。
連れ去られる学衆から、誰かをさらう師範代へ。入伝生20名は編集的南を目指し、放たれた。
36期 ISIS花伝所 編集コーチ養成コース
稽古期間:2021年10月24日(日)〜2021年12月12日(日)
指導陣
校長:松岡正剛
所長:田中晶子
花目付:深谷もと佳、林朝恵
花伝師範:岩野範昭、吉井優子、岡本悟、中村麻人
錬成師範:美濃越香織、梅澤奈央、蒔田俊介、神尾美由紀、武田英裕、牛山惠子、尾島可奈子、阿久津健
※花伝所参考記事 〜入伝式前に読みたい7選〜
・「面影」ごと編集工学を継承する【35[花]入伝式】/上杉公志
・入伝式速報!花伝所の校長メッセージは「風」/吉村堅樹
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。
【多読アレゴリア:MEdit Lab for ISIS】編集術を使って、医学ゲームをつくる!?
伝説のワークショップが、多読アレゴリアでも。 2025年 春、多読アレゴリアに新クラブが誕生します。 編集の型を使って、医学ゲームをプランニングする 「MEdit Lab for ISIS」です。 ■MEd […]
【ISIS co-mission INTERVIEW03】宇川直宏さん― 生成AI時代の編集工学2.0とは
イシス編集学校には、松岡正剛の編集的世界観に〈共命(コミッション)〉するアドバイザリーボード[ISIS co-mission]があります。そのISIS co-missionのひとりが、現”在”美術家でDOMMUNE主宰の […]
【師範鼎談・後編】みんな師範になればいい!――師範だからこそ感じられる生態系
【師範鼎談・前編】の続きです。退院した師範たちは、なぜ文章が書けないと嘆くのでしょうか。そして、なぜ、それでも書きたいと願うのでしょうか。 【師範鼎談・前編】世界はそういうふうに出来ている――[離]を終えて […]
【師範鼎談・前編】世界はそういうふうに出来ている――[離]を終えて手にした世界観とは
イシス編集学校には「師範」がいます。学衆の回答に、直接指南するのは「師範代」。ではいったい「師範」とは何者なのでしょうか。辞書を引けば「手本となる人」とありますが、私たちは師範の何を手本とすべきなのでしょう。   […]
【ISIS co-mission INTERVIEW02】武邑光裕さん―ポストYouTube時代、深いものを発信せよ
イシス編集学校には、松岡正剛の編集的世界観に〈共命(コミッション)〉するアドバイザリーボード[ISIS co-mission]があります。そのISIS co-missionのひとりが、メディア美学者の武邑光裕氏です。ニュ […]