38[花]わかりにくさに怯まない 型と概念と問いのガイダンス

2022/10/17(月)00:15
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まもなく開講する38[花]ガイダンスがオンラインで開かれた。

 

たった2時間だが、師範たちが入れ替わり立ち替わり画面に現れ、今求められるカマエが伝授された。冒頭挨拶で、「花伝所と他の講座の明確な違いは、「ロールチェンジ(学ぶ側から教える側へ)」を求められる事だ」と田中晶子所長から伝えられる。「守」の卒門を向かえた時に、入伝生のHIは、「主人公は学衆じゃなくて師範代だった」と気付いたように、この場に集まった誰もが、いよいよ主人公として歩み始める時なのだ。


主人公たる入伝生たちへ、今期の花伝所を担当する師範達は熱弁を振るう。各者10~30分程度の時間配分だが、濃密なメッセージが入伝生たちへと降り注いだ。

5Mという型の見え方や持ち出し方を、めくるめく「地」の入替を尽くすことで伝えた阿久津健師範

「仮留め、意味の半径、フィードバックループ」、核となるメッセージを毛筆で踊らせ、「知の編集工学」と共に演習構成を伝えた蒔田俊介師範

自身の演劇経験をひもとき、花伝所ならではのフィードバックループを語ってみせた小椋加奈子師範

問と答のあいだにある感応が、編集の演習の奥で動く型「問感応答返」の肝であると語る内海太陽師範

開講前のプレワークで既に起こる指南擬きを、双方向に編集した、江野澤由美師範と松永惠美子師範

師範代とはどういうロールか。花伝所の先にあるターゲットを「6つの編集ディレクション」にのせてメッセージした山本ユキ師範

一貫したメッセージを持ちながらも、問いかけたりアナロジカルに伝えるモードは、花伝所が未知に向かう型を磨くための場として大切にしているカマエを体現している。

 

ところで「ガイダンス」とは、そもそもどういう意味なのか。今やあちこちで行われている「ガイダンス」なるもの。もちろん一般的な意味なら、ググればすぐに出てくる。何かが始まるとき、はじめる側が集まる人々へ伝える場といえば、昨今多くの人が「ガイダンス」を思うだろう。その場の目的やルールを、事情を知るものから、手取り足取り基本説明として伝えられるのが一般的だ。またそこではわかりやすさと具体性が重んじられる。ところがイシスのガイダンスはそうではない。そもそも、ガイダンスを組み立てるコレクティブブレインである花伝ボード(花伝所の指導チームが期中常に言葉をかわしあう場)では「分かりやすさを目的にしないこと」とさえ交わされた。ガイダンスという手引きの場でもありながら、問いが投げられる。編集的リーダーへの第一歩は「問いを持って自身へフィードバックしながらまた返すループが重要であること」と山本ユキ師範はメッセージをかさねた。何か答えを手にするよりも、方法を手にしてほしいのだ。

 

「具体的」な言葉でこそ彩られがちな「ガイダンス」。だがたとえ、新たな道へと踏み出す第一歩においても具体と抽象を織り交ぜるべきだ、というのが花伝所ガイダンスの狙いだ。編集的リーダーは、新しい編集的世界像を持つために、概念こそ再編集できる知性を練り上げてほしい。そんな願いが、ガイダンス編集へと師範を向かわせた。阿久津師範が5Mの理解を方法でバリエーション豊かに提示されたように、蒔田師範が『知の編集工学』を題材に連想のヒントも示されたりと、場を唯一のものにしていく。

 

松岡正剛校長が示す「エディティング・セルフの条件」は6つある。今日のガイダンスはその中でも入伝生の足元をぐっと「ブーツストラッピング」する場である。イチローがなぜ打席で腕をまくるのか、なぜ力士は土俵で手をつきあわせて気合いを入れるのか。武士が覚悟のたすき掛けをするように、自分のブーツストラッピングを師範代は教室で指南を通じて見いださねばならない。師範達から入れ替わり立ち替わり伝えられた花伝所に潜む方法を、入伝生が怯むことなく仮留めで編集を動かしはじめるのは、ここか
らだ。

 

文 内海太陽(錬成師範)

アイキャッチデザイン 阿久津健(花伝師範)


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