中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
井上尚弥がフルトンにTKO勝ちしたニュースに沸いたこの1週間。試合後に勝利のポイントを尋ねられた井上は、身長、リーチではフルトンが圧倒的に有利だが、自分がペースを取るために距離感を掴むことを徹底する、そのためのトレーニングをしていたと語った。厳しいトレーニングを積み重ねて大柄なフルトンに挑んだ井上のように、大きなターゲットに向かって稽古を積んできた人々がイシスにはいる。
5月の入伝式後、師範代養成コース・ISIS花伝所の入伝生たちは5Mの式目演習、錬成、キャンプと怒濤の稽古に身を投じてきた。それらを越えての今日、敢談儀は花伝所の最後のプログラムである。その名の通り、敢えて談(かた)る場だ。だが花伝所所長・田中晶子の姿が見えない。実はすこし前に交通事故に遭い、眼窩底骨折をして手術をしたばかりだった。しかしここまでの入伝生の奮闘を見守ってきた田中所長は、術後の身をおしてZoomの向こうから入伝生たちに言葉を贈った。
これまでの稽古で師範から多くの指導や指南を受け、自分の編集のクセ、思考のクセに自信を無くしそうになった人もいるかもしれない。けれど、好みやフェチや憧れや不足といった「フィルター」こそが編集契機になる。
さらに積極的なモードチェンジや編集的自己の更新も促した。
遺伝的自己、免疫的自己、血液型的自己、国や地域に属しているわたし、学校・会社・家庭に属しているわたしなど、いろいろなわたしがいる。面白かったことも辛かったことも含め、さまざまな記憶をもつわたしもいる。それらをすべて使って編集に向かっていけるように「たくさんのわたし」を見つけることが[守]の稽古の基本にあるが、師範代こそ、その方法を積極的に使ってほしい。
39[花]がはじまって間もない頃、ある入伝生が39[花]を「咲く花」と呼びはじめたという。校長松岡正剛の著書『花鳥風月の科学』には、こんな一節がある。
サキは、「先」「崎」「柵」「裂く」「割く」「咲く」「坂」「酒」などいろいろな言葉をつくっています。エネルギーがいっぱいになり、これ以上は先に進めない状態がサキなのです。先も崎も柵もそういうイメージをあらわしている。坂はこれ以上昇ろうとするとギリギリになるというイメージですし、酒はこれ以上飲むとおかしくなるギリギリの気分を示している言葉です。「咲く」という現象もつぼみがこれ以上はじっとしていられない状態のことです。エネルギーが充満し、それが破れて先に出る――それが「咲く」ということです。
充ちて破れた先には「師範代」というイシスでしか成し得ない世界編集の場が待っている。9月の感門之盟で、新師範代たちにどんな教室名が贈られるのだろうか。
アイキャッチ撮影:後藤由加里
福井千裕
編集的先達:石牟礼道子。遠投クラス一で女子にも告白されたボーイッシュな少女は、ハーレーに跨り野鍛冶に熱中する一途で涙もろくアツい師範代に成長した。日夜、泥にまみれながら未就学児の発達支援とオーガニックカフェ調理のダブルワークと子育てに奔走中。モットーは、仕事ではなくて志事をする。
母が亡くなった。子どもの頃から折り合いが悪かった母だ。あるとき知人に「お母さんって世界で一番大好きな人だよね」と言われ言葉を失ったことがある。そんなふうに思ったことは一度もない。顔を合わせばぶつかり、必要以上に口もきかず […]
申込受付中!10/26開講「山片蟠桃『夢の代』を読む」◎イシス唯一のリアル読書講座「輪読座」
イシス唯一のリアル読書講座「輪読座」。「みんなで読めば怖くない」の精神でこれまで数々の難読古典に挑戦してきました。10月26日からの新コースは、江戸後期の町人にして驚くべき大著を残した異才・山片蟠桃(やまがた・ばんとう) […]
【参加者募集】56[守]にも間に合う!10/12(日)本楼エディットツアー
アタマが固い、鈍い、動かない。もうAIには敵わない…と諦める前に、「編集術」を試してみませんか。 10/12(日)14時からの「本楼エディットツアー」では、松岡正剛の編集術を使ったいくつかの編集ワークを体験いただきます。 […]
【田中優子の「酒上夕書斎」】はご存じだろうか?5月に優子学長がはじめた読書系YouTube LIVEで、毎月とっておきの1冊を紹介している。だがオープニングが独特。「まずはひと口飲みますね」と言って赤ワインをゴクリ。本よ […]
10匹の出世魚、ただいま誕生!55[破]出世魚教室名発表【89感門】
イシスの魚はマグロだけじゃない。カワル、メトード、ほたほた・・・ふしぎな魚が泳いでいる。 [守]師範代から[破]師範代へかわるとき、EDITされる教室名を”出世魚”という。55[破]に遊撃する10匹の出世魚 […]
コメント
1~3件/3件
2025-10-29
中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
2025-10-28
松を食べ荒らす上に有毒なので徹底的に嫌われているマツカレハ。実は主に古い葉を食べ、地表に落とす糞が木の栄養になっている。「人間」にとっての大害虫も「地球」という舞台の上では愛おしい働き者に他ならない。
2025-10-20
先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。