まだ肌寒い春の日、ランドセルをぎゅうっと握って学校に向かう。人だかりのする廊下の掲示板、じりじりと近づいて自分の名前を探す。
「あの子といっしょ!」「あの先生のクラスだ!」
離ればなれになった親友と今生の別れを惜しみ、新たな友を求めて新天地の扉をあける。「教室」が世界のすべてだったあのころ、クラス替えは人生の一大事だった。
イシス編集学校は教室こそネット空間にあるが、れっきとした学校だ。校長先生もいるし、クラス替えだってある。4月19日(月曜)正午すぎ、46[破]が開講した。
学衆たちは4ヶ月間通いつめた[守]の教室を離れ、初めて出会う師範代からの点呼に応える。誰も知り合いのいない教室。しかしさすがは卒門学衆、そこにもすぐに関係線を引いてゆく。
アジール位相教室学衆Kは、「あの[守]を乗り越えて[破]を決断したとあって熱いものを感じています」と仲間とはやくも肩を組み、別院で名を馳せた学衆には「僕もUさんのお名前を見つけたときに『あっ!』と思いました」とすかさずキャッチボール。
学衆の大半は、この3月に卒門した46[守]の出身。学匠鈴木康代が「うねる期だった」と評したように、自発的に場を動かしていく学衆が多かったという。みずからが投げ込まれた場をいかにいきいきとさせていけるか。そこにこそ編集の底力は現れる。
学校のクラス分けがそうであるように、学衆は師範代を選べない。顧客満足度に汲々とする時代においては、生徒が自分好みの教師をチョイスすることもあり得るだろう。でも、イシスは決してそうしない。それはなぜか。ここにも校長松岡正剛の目論見はある。
私たちは気づいたら生まれていた。生まれる時代も国も選べずに、気づいたときには自分の名前さえ決まっている。周囲にはすでに草花が咲き、蝶が舞う。私たちのまえには、つねに投げ出された世界があった。
松岡は、編集的自由へ向かうための「エディティングセルフの条件」を6つ掲げる。
1.「たくさんの私」から「編集的自己」へ
2.私のまえに投げ出された世界
3.ブーツストラッピングするために
4.世界の再編集のために
5.エディティング・キャラクターを構成する
6.新しい編集的世界像を持つ
[破]は、未知なるものと対峙する稽古だ。4つの編集稽古を終えたとき、編集的自由を拡張する方法を手にする。その方法とは、『遊』や松丸本舗や千夜千冊、角川武蔵野ミュージアムなどハイパーな情報生命体を生み出しつづける松岡の秘術にほかならない。
そしてそのエッセンスは、松岡が「自らの最高傑作」と誇るイシス編集学校の校舎にこそ染みついているのだ。教室にはこの世にふたつとない名がつけられ、師範代や師範は期ごとに刷新され、教室をともにする学衆仲間とは一期一会。学校のルル3条にも学ぶべきものがあることを、新たな教室に投げ込まれた学衆たちは肌で感じている。
ーーー[破]に進むことを決めたきっかけは?
一言で言うと、「新たな自分に出会うため」
互次元カフェ教室の学衆Mは勇み立つ。「イシスの練りに練られたカリキュラムとシステムに乗っかり、皆さんからも学ぶ過程で何か未知なる新しい自分に出会えるのでは、と期待しています」
多項セラフィータ教室 師範代戸田由香は、天使の羽でそっと学衆の背を撫ぜる。
「すでに名前がつけられ、記述され、組織化され、何かととっくに関係づけられてしまった情報を、もう一度解き放つのに必要なのが『方法』ですね」
靴紐はキュッと結ばれた。46[破]は自由にむかって駆けだした。
※46[破]関連記事※
▼艶やかなマダム学匠がもてなす感門限定EDITBAR。あなたの教室にもあの客がいるかも。
https://edist.isis.ne.jp/cast/75kanmon_editbar/
▼[破]師範代だけに伝授された、文体編集術の実践法。千夜の共読法、一部解禁。
https://edist.isis.ne.jp/post/46ha_ecrits/
▼クラウチングスタートでむかえた開講日の様子を原田学匠が激写。
https://edist.isis.ne.jp/just/46ha_firstday/
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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