イシス編集学校と教室名を表象する「フライヤー」
「壊す・肖る・創る」という方法がある。イシス秘伝のメディエーションメソッドだ。
「コンパイル」「連想」「らしさ」による与件の拡張で既知の情報を「壊し」、属性やメディアに「肖り」つつ、ディティールにまで注意のカーソルを向けて「創る」。この三間連結を繰り返し、仕上げに向かう。このプロセスには[守]の編集術が幾重にも折り畳まれている。
3月中旬から下旬にかけて、47[守]の21名の師範代がこのメソッドでフライヤーを制作した。イシス編集学校のFacebookアカウントで完成版の一部をご覧になった方もいるだろう。守の師範代が自らの編集力を表象するにあたり、これだけふさわしいメディアはないだろう。
フライヤー制作のディレクションを一手に引き受けたのが吉村堅樹林頭。師範代からデザインが届くと、ものの数時間で林頭がディレクションを放つ。「スピードが編集を加速させることを体感して欲しい」という林頭のおもいがレスの速さにあらわれる。事実、翌朝には師範代から新たなデザインが届き、昼には再び林頭からディレクションが飛ぶ。そんな景色が日常になった。21名の師範代と林頭とのラリー。その数は10日足らずで200超。平均5回の推敲を経て21のフライヤーが仕上がった。
全教室のフライヤー紹介に先立ち、とりわけ「壊す・肖る・創る」を限りを尽くしたジャイキリ魔球教室・柳瀬浩之師範代の制作プロセスを、実際のデザインとともに紹介したい。
●初稿:読み手に「ジャイキリ」と「魔球」を見せる
柳瀬師範代が初稿で注目したのは、教室名の中の「魔」だった。
魔球のアーキタイプは、魔法・魔術。魔術のステレオタイプは、類感呪術。英語で、imitative magic。
古代人は、この類感呪術によって世界を眺め、類感呪術を持って古代社会の原始ルールを作っていた。(柳瀬)
これに対し、「『ジャイキリ』と『魔球』はやはりもっと活かしたい」と吉村はディレクションをいれる。「魔(術)」に焦点をあてたことで、フライヤーから肝心の「教室名」という与件が抜け落ちていることを見抜いてのメッセージだ。
(魔球について)現実でのナックルやパームボール、漫画での分身魔球、エビ反りハイジャンプ魔球など様々ですが、共通するのは、相手は絶対に打ち取れて、どんな変化か予想できないということ。
編集術もそれです。ずらしたり、あやかったり、もどいたり、やつしたりする。そのためのコンパイルやソフィスティケートが前段です。(吉村)
●第2稿:「肖る」ことで「らしさ」を強調する
第2稿は初稿からガラリとモードチェンジ。「編集魔球で、壁を超える。」のキャッチで、方向性が決まった。ここから「肖り」のフェーズへ。「(漫画の)『GIANT KILLING』に肖ったらどうでしょう」と吉村から一言。
今散りばめている編集術をもっとニュースにするんですよ。そして色使いはもっとJリーグ全チームばりにカラフルに。(吉村)
第3稿:与件に立ち返り「魔球」の表象へ
再びレイアウトを総組み替え(根本からの再編集をここまで加えた点でも突出していた)。柳瀬独自の見出し編集とカラフルなデザインで、下半分のモードが際立ってきた。
残るは上半分。「魔球」らしさがもっと欲しい。
魔球の軌跡や握りなどなどでいくか、サッカーと野球のインタースコアをスコアボードやフィールドやプレイヤーで表現するなど、何かビジュアルを入れたい。(吉村)
第4稿:既存のポスターに肖り、「創る」フェーズへ
【パターンB】
【パターンC】
第4稿にしてABCの3パターン(パターンAのデザインは割愛)を持ち出した柳瀬に対し、「ABC案だしてきましたねえ。この中では断然Bがいいです」と即答。パソコン越しにニヤリと笑う林頭の表情が浮かぶ。38の野球ボールの握りは全て柳瀬が考案し、自らの手で撮影をした。
パターンBとCについて、柳瀬は『日本のグラフィック100年』にある「イガラシポスターカレンダー」に肖ったという。『GIANT KILLING』のモードと、既存のポスターデザインの一種合成だ。バラバラだった要素が次々に結びつき、ここからいよいよ仕上げのフェーズへ。
あとは、柳瀬師範代の中で一押しの魔球、つまりお題を大きくしたりして下の見出しと連動させたらどうでしょう。細部へのこだわりが最後に生きてきます。(吉村)
(出典:『日本のグラフィック100年』山形季央/著(パイインターナショナル)P.119)
第5・最終稿:照合とフェチで仕上げへ
上半分の38の握りと下半分の用法を「色」で照合させつつ、一押しの編集術(4と25)を大小の対比で突出させた。
上半分の「4(地と図の編集術)」を、編集術の「王道」と位置付けました。「王道でありながら見方が大きく変わる」ことから、「ストレートでありながらボールの縫い目の向きを変える」だけで変化が変わる【ワンシーム】という魔球が連想され、それを表現しました。(柳瀬)
こうして上下のデザインが一体となったフライヤーに仕上がった。
魔球の握りの違い、大小、グルーピング。
そうそう、こういうのがフェチを感じてしびれました。(吉村)
47[守]教室・師範代一覧
最後に、定常コース(18教室)と速修コース(3教室)の全教室名と師範代を紹介する。
【定常コース(4/26開講)】
◇皆川滋 師範代 谷中エッチング教室
◇清水幸江 師範代 一客一亭教室
◇柳瀬浩之 師範代 ジャイキリ魔球教室
◇田中香 師範代 縞々BPT教室
◇中村慧太 師範代 どんでんコマンド教室
◇竹川智子 師範代 カンブリア一群教室
◇関口泰由 師範代 グッチ金輪際教室
◇北條玲子 師範代 ピアソラよろしく教室
◇長島順子 師範代 柄々八犬伝教室
◇佐藤健太郎 師範代 「象」徴ドミトリー教室
◇堀田幸義 師範代 セッケン時空屋教室
◇桑田惇平 師範代 極性アンバンドル教室
◇稲垣景子 師範代 オブザぶとん教室
◇西宮牧人 師範代 カンテ・ホンド教室
◇下田富美子 師範代 本達ビードロ教室
◇赤木美子 師範代 近々ワンダー教室
◇新井和奈 師範代 アイドル・ママ教室
◇圓尾友理 師範代 妖精アスリート教室
【速修コース(5/24開講)】
◇中原洋子 師範代 アレンジ万端教室
◇真武信一 師範代 混合ポリローグ教室
◇阿久津健 師範代 そこそこノンブル教室
47[守]定常コースはいよいよ明日開講だ。
(「速修コース」(5/24〜)は受講受付中)
<受講受付中>
イシス編集学校 2021年度 春季開講講座
◯速修コース
応募〆切:5月17日(月)
稽古期間:5月24日(月)より13週間※定常コースの募集は終了しています。
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
ISIS 25周年師範代リレー [第48期 畑本ヒロノブ 深掘りをつづける編集工学の継続者]
2000年に産声をあげたネットの学校[イシス編集学校]は、2025年6月に25周年を迎えます。第52期の師範代までを、1期ずつ数珠つなぎにしながら、25年のクロニクルを紹介します。 ◇◇◇ 2021年の秋、 […]
【第84回感門之盟】「25周年番期同門祭」Day2 公開記事総覧
第84回感門之盟「25周年番期同門祭」の2日目(2024年9月15日)が終了した。これまでに公開された関連記事の総覧をお送りする。 【84感門】「松丸本舗」を再生させたブックショップエディター […]
25周年番期同門祭記念Tシャツ・期間限定発売中!【84感門】
25周年番期同門祭を記念したTシャツが期間限定で発売決定! 今回の感門之盟メインビジュアルの熊手が背面にあしらわれています。熊手には松岡校長ISIS co-missionが七福神のように並び、編集にちなんだ […]
【第84回感門之盟】「25周年番期同門祭」Day1 公開記事総覧
第84回感門之盟「25周年番期同門祭」の1日目(2024年9月14日)が終了した。これまでに公開された関連記事の総覧をお送りする。 【第84回感門之盟】居合わせることの大切さ 〜 吉村林頭OPメッセージ 文 […]
いよいよ祭が始まった。 2024年9月14日、イシス編集学校の感門之盟 Day1 の幕開けである。 校長松岡正剛が「この名前でいこう」と言った感門之盟のテーマは「25周年番期同門祭」。今回の番期同門祭は、2 […]