連想ゲームにも編集が!? 空文字アワーで「知」を動かす【47[守]week3】

2021/05/16(日)08:00
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勧学会で連想がとまらない

 

「現状打破のために編集の『型』を学びたい」

「考えること自体を考える方法を学びたい」

「意識的なアウトプットの方法を学んでみたい」

「発想や企画の幅を広げたい」

「自分が今までやってきた中途半端なことを編集して形にしたい」

 

47[守]の教室に集う学衆の受講目的はさまざまだが、3週目に入ってからは共通して勧学会への登場が急増している。きっかけは全員参加型の特別お題「空文字アワー」だ。

 

はじめは様子をみながらおそるおそる投稿をしていた学衆も、学衆仲間や師範代・師範からの応答や想定外の物語の展開に、二度や三度の登場は当たり前。14日の時点で、30以上の回答が届いている教室もでてきている。

 

「空文字アワー」のルールは至ってシンプル。

 

1.師範代が用意したある簡単な文に(   )空白をつくる。

2.(   )に言葉を入れ、さらに別の個所に(   )を加えていく。
3.次の人も同じことをする。これを全員で繰り返していく。

 

 

知覚と対象のあいだにある「次々に先をいくもの」

 

「空文字アワー」は「連想ゲーム」の一種だ。連想については、『知の編集術』の第4章「編集技法のパレード」に詳しいが、連想ゲームの中には、いくつかの編集術的な特徴がある。

 

まずは「どんなひとつの事項からもたくさんのイメージ・オプションが想定されうる」こと。「コロナ」というと、最近では「新型コロナウイルス」をイメージしがちだが、ビールの銘柄もあるし、太陽のコロナもある。コップの使い方ひとつとっても、たくさんの可能性があるように、そもそも連想は情報を「一」から「多」に次々に派生することができる。

 

次が「たくさんのオプションのうち最初に浮かんだイメージがすばやく選択されている」というもの。連想ゲームだけでなく、このスピード感が編集では重要だ。松岡校長も同書で「編集術ではひとつの言葉の上に寝そべっていてはいけない。(中略)連想ゲームのように、おもいついた言葉をパッと言ってみるのがひとつの訓練になる。」と言っている。

 

参加型のこのお題について、どんな展開になるかワクワクがとまらない方がいる一方で、「これまで教室の皆さんがつくってきたイメージを壊してしまうのではないか」「自分の投稿のズレや逸脱が恐ろしい」と躊躇してしまう方も中にはいるかもしれない。

 

しかしそんな心配は不要だ。なぜなら「自分が連想したイメージは他人の連想とはちがっている可能性が高いにもかかわらず、そのイメージをすぐに許容して自分も次の連想にとりかかるようになっている」からである。

 

「運動会」という情報も学生の視点、親の目線、学校の立場でいかようにもイメージを拡張できるように、連想は、情報のイメージ・サークルをゆるませて、イメージ・オプションを豊かにさせる方法なのである。そもそも「どうも知覚と対象のあいだには『次々に先をいくものがあるらしい』」とも校長は表現している。

 

 

跳躍系?逆転系? 連想の飛ばし方

 

ここで勧学会で起こっている連想の飛ばし方の一端を覗いてみたい。

 

●連想型●

【師範代】近々( )出かけることはわかっていた。

  ↓

【学衆A】近々、実家の母のところに出かけることは(   )わかっていた。

こちらは近々ワンダー教室(赤木美子師範代)の学衆Aさんによる最初の一投。「『近々』から『わかっていた』という言葉のつながりになにか不穏な印象を感じ」というAさんは、「モメゴトと言えば家族だろう!」と連想を膨らませ回答したとのこと。勧学会では、その日のうちに複数の回答が寄せられた。

 

 

●跳躍型●

【師範代】「私は( )じっとしていた。」
  ↓
(省略)
  ↓
【学衆A】「2年前の今日リスを待ちながら、私はその場で( )に埋もれてじっとしていた。」
  ↓
【学衆B】「2年前の今日( )リスを待ちながら、私はその場で大勢の報道陣に埋もれてじっとしていた。」
  ↓
【学衆A】「2年前の今日( )リスを待ちながら、私はその場で大勢の報道陣に埋もれてじっとしていた。」

谷中エッチング教室(皆川滋師範代)の勧学会の一場面。学衆Bさんの「リス」から一気に飛躍した「大勢の報道陣」を受け、学衆Aさんがたった一文字で動物を人へ大変身。学衆仲間からは「一文字で、いきなりあつ森ムードがハリウッドスキャンダル風になって笑いました」との声も。

 

 

●逆転型●

【学衆A】下関出身の我輩は、とらフグである( )。
  ↓
【学衆B】下関出身の我輩は、とらフグであるにもかかわらず、( )。
  ↓
【師範代】下関出身の我輩は、( )とらフグであるにもかかわらず、梅干しである。
   ↓
【学衆C】下関出身の我輩は、一日三食とらフグであるにもかかわらず、( )梅干しである。

 

ジャイキリ魔球教室(柳瀬浩之師範代)は、一投ごとに物語が次々に逆転していくのが特徴。

まずは学衆Bさんが「にもかかわらず、」を投げ込むことで、「我輩=とらフグ」という前情報を一転させる。さらに学衆Cさんの「一日三食」の四文字で、「我輩=とらフグ」の前提すらもくつがえしてしまう。これから我輩とはいったい何者になっていくのだろうか。

 

投げ込むことで、「我輩=とらフグ」という前情報を一転させる

 

 

最新のお題「『の』の字の不思議」では、実際に「の」の字の前後の情報を動かしていく中で、学衆からは想像を超えた思わぬ変化に驚きの声があがっている。文字の入れ替えやちょっとした数文字で景色がガラッと変わるのが編集の面白いところ。「空文字アワー」でも、知覚と対象のあいだの「次々に先をいくもの」を言葉にして、「知」を動かしていってほしい。

 

 

 

ーー

補足:アイキャッチの画像は空文字アワーのモデルのひとつになったであろう『知の編集術』(P.148)にある「編集稽古12」。原文の一節を、故意に最小単位の文章から次第に増殖させて再構築させたもの。「空文字アワー」ルールにあやかり、増殖部分を「( )」で囲むと増殖のさせ方にもいくつも方法があることがわかってくる。

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。