三冊で世界をつくる、200人の高校生【子どもフィールド】

2021/08/03(火)19:00
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 「探究って、あまり楽しくないイメージだったのが、変わった」

 

 200人を超える女子高校生達の瑞々しい感想が届いた。

2019年からこの授業を重ねてきた先生方は、コロナ禍の今年も前倒しで研修会をし、オンライン併用の5コマのシナリオを組み立てた。探究型読書『Book Up!』の授業では、本は「読む」より「使う」もの。最後は三冊を棚組みして自分だけの探究テーマを一人ひとりが発見していくワーク体験だ。

 

探究型読書Book Up! ワークブック

 

三冊棚:僕らのルールを手に入れる三冊

三冊棚:僕らのルールを手に入れる三冊
 

 

 

 「まるで『やらされ探究』です」と語った男子高校生がいた。改革優先の授業に対して学ぶ当事者が疑問を示した「ありえない言葉」。彼はイシス編集学校で大人に混じって学び、ジュニアのための編集革命を夢見た青年だ。

 彼に向けて『Book Up!』を体験した彼女たちの声を届けてみたい。

 

 

■僕は「とりあえず検索」の一問一答的な思考を抜け出したい。

 先のレールがないときどうするかを学びたい。

 

『Book Up!』の授業では、たまたま出会う1冊を手に学習がスタートする。あとは意外なお題の連続だ。

「本は目次だけを読みます」「自分が気になったことばを集めます」。

 

 「正直、将来何の役にたつのかはまったくわからない」

 と、心配になる生徒もでる。しかし先生には確信がある。

 「間違えてもよいから予測・推測することは楽しい、と思えると(他の授業で)資料の読み取りの議論も盛り上がる」

 探究学習担当の先生が、学校図書館の協力のもと、担任の先生方と毎授業ごとに手応えを共有し議論を重ねられた。コロナ禍でも止めたくなかった。

 

 いま、子どもたちが育つ環境は大きく変わってきている。その中で、SNSタイムラインから情報をつまみ、わからないことはスマホ検索という学び方しか知らなければ、人類は見えないウィルスにも太刀打ちしていけないだろう。

 本というメディアに立ち戻り、目次読書という方法を持ち込むと中学生でも「情報って、次々過ぎていくものと思っていたけど、幅をもってて構造や段階があることを実感できた」というように、一気に変われる。先生方も『Book Up!』で用いる思考の型を通じて生徒たちの中に立ち上がる学びに手応えを得ていた。

 

 「文系理系問わず考えることができそう」

 「メインの事だけに目を向けず幅広く、異なった視点で見る事は、

  社会問題や新しい何かを考えるにあったって重要になってくると思った。

  何かを深く考えるのは今後に活かせそうだった」

 「編集思考素を知ったことが一番よかった!

  どんな問題でもこれで考えられるところがよい」

 「表紙と目次のみで内容を想像した時、

  ほとんど自分の知識や関心があることにつながっていて、

  後から読んだ時全く違ったのが面白かった」

 

 デバイスに狭められず、生き生きと思考を前に進める「学びの編集力」をこそ、手渡したい。

 

■大人になったとき、好きなことはできない気がしている。

 稼げるか、続けられるか、そんな視点でしか将来を見ていない。

 

 『Book Up!』の一連の取り組みの最後を「わたしの三冊棚」づくりに置いた学校もある。「本は三冊で読む」という松岡校長の読書指南にもとづいたワークだ。

 あれか、これか、でなく、三冊に組み合わせると、何が起こるか?

 

 「本選びをするときに先生のアドバイスで全然違う本を選んでみた。

  真逆のように感じた本だったが繋がりが見えたときは嬉しかった」

 「普段より多くの種類の本を見たおかげで自分の興味あるジャンルがわかった気がした。今後も多くの種類の本を読もうと思う。」

 

 手前のプロセスで、食わず嫌いの分野でも疑問や面白かったところを言えるようになった自分に気づく。次に関係づけるところがポイントだ。先生方はいち早くそこに注目する。

 

 「世界に転がっている問題をバラバラに考えるのではなく、共通点を探す、という観点を意識することで、より思考の質が向上するのではないか。」

 「ただの知識だったものが身の回りの物事に繋がる。知識同士の横のつながりも見える。知識同士の横のつながりは、受験直前に見えてくることが多いのですが探究型読書ワークをすると、授業直後に見えてくるかも、と思うと革新的です。」

 

 関係づけることで、新たな好奇心が浮上する。

 好奇心とは、「好き」と「問い」の一種合成だ。

 

 「最初は全く違う本を組み合わせて3冊棚を作るなんて難しいと思っていたけれど、その3冊の関連することを探すことで、その本が伝えたいことがより深く分かった気がして、新しくて面白いと思った。」

 「文化祭などの企画決めの時に複数の意見が出たら、どれかを切り捨てるのではなくそれぞれの繋がりを考えて複合的なアイデアを出せそうだなと思った。」

 「これから本を読む時に、内容を想像してから実際に読んでみて、想像との違いを考えてみるのも面白そうだと思いました。推測する力とつながりを見つける思考力をこれからの読書に使いたい」

 「いろんなことがわかっていない状態で自分で想像すること。何かを仮定して何か出来るようになること。」

 

 この仮説力こそ、自分がやりたいことに大きく旗を立てるために不可欠だ。

 

■「やればできる」という励ましは、大きな壁にもなる。

 多様性を認めてくれない。

 

 いよいよ三冊棚ワークに取り掛かる段階で、開発者の佐々木(イシス編集学校)もオンラインレクチャーで授業に加わった。「悩む」のではなく「組み合わせを試みる」ようにしましょう、とアドバイス。「三冊棚をつくるごとに、新しい自分・新しい世界像に出会うこと」とねらいを伝えた。

 

 ワークが始まると、三冊がさまざまに世界像を描いていく。大上段に構えなくても、本と本の関係を見つめる、その「間」にこそ世界は立ち上がるのだ。

 

 

 以下、彼女たちが描いた多様な三冊世界をプロフィールごと楽しんでみてほしい。

 

『 雪を作る話 』 中谷宇吉郎

  ┗ 『 すしの秘密 』 日比野光敏

  ┗ 『 動物翻訳家 』 片野ゆか

 

棚タイトル:自然と深く関わる

 人が自然と関わることを、身近なことから深く覗き込む三冊。

 科学者中谷の1冊の魅力が、他の2冊の見方を深めた。

 

 

『 人類を変えた素晴らしき10の材料 』 ミーオドヴニク,マーク

  ┗ 『 チェンジの扉 ~児童労働に向き合って気づいたこと 』 認定NPO法人ACE

  ┗ 『 フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ 』 森 達也

 

棚タイトル:ゆたかな文明、隠される真実

 輝かしい文明の発達に隠れた材料の話を起点に、裏の世界へ流れ込む三冊。

 

 

『 世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え 』 ジェンマ・エルウィン・ハリス

  ┗ 『 外来種のウソ・ホントを科学する 』 ケン トムソン

  ┗ 『 「発酵」のことが一冊でまるごとわかる 』 齋藤 勝裕

 

棚タイトル:科学する方法

 素朴な疑問が、素性をたどる科学、用途開発を目指す科学を引き寄せた三冊。

 

 

 

 彼はその後、持ち前の編集力で、自分で高校を移り、いまや大学生。

 大人が子どもに強いるのではなく、子どもと大人が共に学ぶ世界へ向けて、編集革命を目論んでいるにちがいない。

 

(協力:富士見中学校高等学校)

 

 

◎8/10『探究型読書 Book Up!』の体験ワークショップを開催します!

 https://es.isis.ne.jp/news/event/4314


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