「月」をおともに エディット・ツアー

2020/03/23(月)12:18
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 その日、若き音楽家はtoy pianoを携えてかけつけた。

 エディットツアーのテーマタイトルは<月から発見☆編集の世界>、「月光に肖ったワークを」と天の啓示があったとか、なかったとか。

 

 「月にあやかって、これから2時間、既知と未知を行き来してみよう」。春光が差し込む春分の日の本楼で、上杉公志師範代の32の鍵盤による「月光ソナタ」がたちまち別時間へと誘い出す。

 

 

 参加者は、自らを楽器に見立てて、「打てば響きたい琴」「あたかもなりひびいているようなエアギター」「ジャズグルーブっぽい鍵盤」「不協和音ギリギリのピアノ」などと、声を弾ませる。音楽家は自分の曲作りのプロセスにのせて、みずみずしく編集術を、イシスを語り始めた。

 


 そして、「月」である。
「ここでは深く触れないですけど」と何度も前置きしながら、音楽家は音階から音調の「らしさ」までを示すように東西のルナティックスを差し出していく。黄色、丸い、満ち欠け、満ち引き、雨、うさぎ、蛙、アポロ…知らせるもの、思い出させるもの、語りかけてくるもの…参加者は月のイメージを動かしながらサークルを広げ、「月はわれわれの未知の記憶を照らしている」というフレーズをたよりに、2万冊が並ぶ本棚の光景を楽しみながら、月から連想した一冊を選びとった。

 

 「既知の情報を未知の情報へと変える月」が潜むという本のページをめくり、合い向き合って見つけた月を交わし合い、その調べを繋いでみる。アイダに置くのはtoy piano。音楽家が “ 未知を受け入れる型 ”を示せば、全員が連想エンジン全開で語り始める。何かに憑かれでもしたようにインとアウトを総動員させることが、この日の月狙いだ。

 


 

 最後に音楽家が用意したのは、千夜千冊625夜『内なるミューズ』。「デノミネーターの消息を一緒に探しに行きませんか」と、一人ずつにイシスへの切符を手渡した。

 

 

**BGMはToy Pianoが引き出す内なる調べ
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◆次回のエディット・ツアーは4月4日 PM2時スタート、乞うご期待!

 

  • 田中晶子

    徹夜明けのスタッフに味噌汁を、停滞した会議に和菓子を。そこにはいつも微笑むイシス一やさしい花伝所長の姿があった。太極拳に義太夫と編集道と稽古道の精進に余念がない。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025