『木のぼり男爵』を読んでいる。イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの代表作だ。ときは1767年6月15日、イタリア・ジェノヴァ近郊にて、ロンドー男爵の長男コジモ(当時12歳)は、父親に反抗して食卓を立ち、樫の木によじ登った。「降りる時は、覚悟をしておきなさい!」という父の売り言葉に「じゃあ、ぼくはもう降りません!」の買い言葉。その言葉を一生守った、というお話である。
65歳で死ぬまで、コジモはずっと樹上で暮らした。一度も地に足をつけなかった。地面の上でなく、木々の上を自分の生きる世界としたのである。そんな無理なルールが守れるはずがないと思うけれど、それを成し遂げるのが物語だ。衣食住にはじまり、知的生活、経済活動、恋愛沙汰、山賊遭遇、火災鎮火、狼退治、農業指導、印刷出版などなどをいかに樹上だけで行ったのか…? できちゃうのである、ということが縷々書かれている。それだけといえばそれだけの話だが、超難しいルールをいかに乗り越えるかに惹きこまれる。ガンコな主人公に肩入れし、絶対、木から降りないでほしいと願いながら読み進める。ヘンテコなルール、無理なルール、それが物語の推進力になり吸引力になる。このこと、また師範代に伝えなくては…。
編集学校では、これまで50期にわたって物語編集術を稽古してきたけれど、まだまだ発見すべきことはたくさんあるようだ。毎期つどう学衆があらたな物語をこしらえる。師範代、師範がそれぞれの知見や経験を持ち寄り、好きな物語や話題の物語を重ねて、物語編集術の型を鍛えてゆく。型は動かないものではなくて、人に合わせ、機会に応じて、やわらかく変化する。「型を破って型へ出る」ということだろう。
[破]では、文体、物語、クロニクル、プランニングと4つの編集術を学ぶ。すべて文章による表現である。「型にはめる」のではなく「型によって動かす」感覚がつかめると、書くことが愉しくなってくる。書くための型があるということは、いつでも足場をつくれる、すぐに踏み出せるということだ。これ以上に心強いことはない。
51[破]をめざす方々にむけて、恒例のエディットツアーを開催する。取り上げるのは物語編集術。[破]でもいちばん美味しいところを味見してもらう。ナビは[破]番匠:野嶋真帆。4期で入門して以来、物語編集術を磨き続け、師範代たちにその秘訣を伝授している。物語講座の開発メンバーでもある。相方のOB師範は、当日のお楽しみ。
ワークでは「型」を使うことによって、木のぼり男爵なみに「ありえない世界」に旅立つ。物語をつくるとは、別の世界をつくること。というと大層なことなのだが、それが小さなキッカケから始まるのも物語の妙。そのあたりも愉しんでいただきたい。
[守]学衆はもちろん、未入門の方も歓迎!
■日時:2023年8月26日(土)11:00-12:30
■費用:1,100円(税込)
■会場:オンライン(zoom)
■定員:先着20名
■対象:どなたでも参加できます
■お申込み:<破>エディットツアー2023年8月26日
■申込締切:2023年8月25日(金) 12:00まで
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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