今こそ「近江」に走るとき―近江ARS TOKYO(4月29日東京・草月ホール)開催

2024/03/13(水)14:30
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 校長、松岡正剛の目が「近江」を向いている。年始のヤマザキマリラジオでは、「近江で日本仏教のヤバさを持ちだす」と一年の抱負を語った。1月中旬のWEEKLY OCHIAIでは、落合陽一氏からの「40歳の松岡正剛へのアドバイスを」というリクエストに「あのとき近江に走りたかった」と答えた。近江にいったい何があるのか。松岡が近江と対峙する方法に、「編集工学」、「編集的世界観」、そして、「方法日本」を見ることができるに違いない。4月29日開催の「近江ARS TOKYO」でその秘密が明かされる。

 

 

 近江ARSには、松岡、三井寺長吏福家俊彦のもと、近江に縁をもつ多士済々が集う。滋賀の自然に根差した和菓子作りに徹底的にこだわる「叶 匠寿庵」の代表取締役兼菓子職人・芝田冬樹、手摘み・製茶・加工・供茶までを自らの手で担う三井寺執事・福家俊孝、施主との対話を尽くして設計する建築家の三浦史朗、琵琶湖のすべての風姿を知るびわこビジターズビューロー会長・川戸良明、創業470年の歴史を持つ冨田酒造の十五代目・冨田泰伸、伝統的な「独楽撚り」の手法で和楽器の弦を作る丸三ハシモトの四代目・橋本英宗、観音への祈りと生きる湖北の人々と共にある観音ガール・對馬佳菜子、長浜が実践する暮らしの奥深さを探究しつくすまちづくりコンサルタントの竹村光雄…。舵取り役は、粘り・熱さ・速さの発起人・中山雅文と柔らかな猛獣遣いプロデューサー・和泉佳奈子だ。二人が、個にそなわっている力を余すところなく引き出す。次はこんなことをしてみたい、あの人を巻き込みたいと、集えば、そこかしこで対話がはじまり、時間が矢のように過ぎる。

 

 核となる活動は三つある。
 6回を重ねてきた「還生(げんしょう)の会」は、末木文美士氏と松岡と福家俊彦の三者が仏教を語りなおす場だ。ここでしか語られない末木氏の仏教についてのこぼれ話に、松岡が多彩なフィルターで迫る。仏教用語を使わない仏教語りに挑戦する福家が混じって、三者三様のスタイルで仏教を捉えなおす。語りに加えて、五感でもテーマを感じてほしいと、設え衆も、毎度一回限りの場づくりに腕を振るってきた。

 

 「龍門節会(りゅうもんせちえ)」は、大津大石龍門にある「寿長生の郷(すないのさと)」を舞台に、当地を本拠とする「叶 匠壽庵」の和菓子職人の職能と松岡正剛の好みを掛け合わせた節会だ。日本古来の季節の集いを21世紀スタイルに仕立てなおそうという試みである。第一回は、「遠近(をちこち)」をテーマに、遠州流茶道宗家十三世家元小堀宗実氏を迎え、入念な用意のもと、和菓子、花、軸、本とが入り混じり、場に数寄が爆ぜた。


 「百間(ひゃっけん)サロン」は、毎月欠かさず開催される近江ARSメンバーの対話の場。最初の会から既に4年近くが経つ。発足当初は、『日本文化の核心』(松岡正剛)を読み合わせ、そのフィルターを借りて近江について語り合った。対話を通して、自分たちがもっていた「近江」への見方に更新がかかる。近江というトポスからもらい受けてきた多くのものに気づき、何かしたいという想いが渦巻く。最近の百間サロンでは、各々の近江ARSメンバーの拠点を巡って開催し、見方の更新と様々な実験を試す場であり続けている。

 

 

 

 近江ARSの活動に番記者として関わって、一年半が経過した。以来、近江ARSというフィルターを通して、モノゴトに眼差しを当てていく日々だ。近江ARSの先達や仲間のフィルターを身体まるごと借りて、自らの身体でもってモノゴトに近づき、触れていく。例えば、湖北の古いお堂の中に足を踏み入れ、観音さんの前に座ってみる。靴を脱ぎ捨てて、長浜の川に入り込んで鮎を追いかけてみる。彦根のお寺で、地元の方々と井伊直弼の生き方を再び読みなおしてみるといったことだ。


 出来事を記事に仕立て終えても、「わかった」という感覚は、決してやってこない。どうしたら奥に分け入れるのか、先達や仲間と見方をもっと交わせるのかと新たな問いを得て、次の読みへと掻き立てられる。かつての日本にあったサロン、すなわち「連」とは、こういうものではなかっただろうか。「日本の場合、個人がいて、その集まりとしてのサロンがあるのではなく、個人は「場」のなかの個人となる。その意味では、場は、もはや変わらない完結した個体の寄せ集まりではない」(『クラブとサロン』「連の場」)。近江ARSにも何度となくゲスト出演している田中優子氏はこう書いている。近江ARSには、インプットと同時に場づくりというアウトプットが必ず用意されている。仲間と共に次に向かい続けていると、半開きの近江ARS状態の「わたし」が地とならざるをえない。いつしか日常や仕事でも、注意のカーソルが「近江っぽいもの」を見出す。連綿と受け継がれてきたもの、見えないけれどもそこにあるもの、語られていない大切なことをどう編集しなおせるのか、思考と試行が繰り返される。「わたし」に出入りする近江ARSという「場」に動かされるのだ。

 

 

 これまで苗代とも言える近江で育んできたカマエと方法で一日限りの「近江ARS TOKYO」に臨む。東京というトポスにどのように近江を立ちあげ、どのようなインタースコアを起こすのか。集った人々とともに、どのような「別」を見ることができるのか。いざ、近江へ走ろう。

 

 


近江ARS Tokyo|別日本があったって、いい。仏は、どこにおわします?

◎日時
 令和6年4月29日(月・祝)13:30~17:30(仮)

 

◎場所
 草月ホール|東京都港区赤坂7丁目2-21草月会館地下1階

◎出演
 松岡正剛  編集工学者 
 福家俊彦  三井寺長吏
 末木文美士 未来哲学研究所所長
 他多数

◎定員 約350名

◎お申込み
 HYAKKEN MARKETにてお願いします

◎後援  滋賀県

◎主催  近江ARS

 

*より詳しく近江ARSを知りたい方はこちらをご覧ください*
 【近江ARS】瀬戸を越えよー12/21(水)第3回「還生の会」
 【近江ARS】草木も悟りを開くー第3回「還生の会」報告

 【近江ARS】中世仏教と能に「編集日本」を見る ー近江ARS「還生の会」第4回報告と第5回案内

 近江から 日本が変わる | 近江 Another Real Style OMI ARS (arscombinatoria.jp)

 

 


  • 阿曽祐子

    編集的先達:小熊英二。ふわふわと漂うようなつかみどころのなさと骨太の行動力と冒険心。相矛盾する異星人ぽさは5つの小中に通った少女時代に培われた。今も比叡山と空を眺めながら街を歩き回っているらしい。 「阿曽祐子の編集力チェック」受付中 https://qe.isis.ne.jp/index/aso