私と世界がつながる方法 36[花]入伝式 10shot

2021/10/28(木)13:00
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森村泰昌はM式として青木繁となった。そこには「まねび」という姿勢が貫かれている。花伝所においても同じである。「まねび」とは昔から日本にあった学習方法でもあり、花伝所が掲げる大旗でもある。

先週末、36[花]入伝式が行われ「まねび」の道場が開かれた。当日の様子を10shotでお届けする。

 

日本の学びを骨法とする

「花伝所は『風姿花伝』に肖っていて、世阿弥に学びたいと思っている。模倣することがどういうことなのか、日本人はどうまねびをしてきたのか意識してやって欲しい」800人の師範代を輩出してきた田中晶子所長が口火を切る。

 

「僕は『風姿花伝』を参考にして花伝所、編集学校を作った」

能で二曲(歌・舞)を装束をつけながら行うときに大切となる「かまえ」と「はこび」について、入伝生と師範にメッセージを送る松岡校長。本楼の空間が少しずつ能舞台と重なり、聞くものの内側にHereとThereが静かに立ち上がり混じり合っていく。

»参考記事:世阿弥にまねぶ「かまえ」と「はこび」松岡校長メッセージ【36[花]入伝式】

 

 

36[花]一座建立

花目付には林朝恵、花伝師範には吉井優子と中村麻人が新たに立つ。継承と刷新を繰り返しながら指導陣たちも道場に向かっていく。

「花伝所では面をかけて表と裏で行ったり来たりしながら古を考えて深めていって欲しい」 林朝恵 花目付

 

「みんな違うけど少しずつ重なり合っている。そこにインタースコアやモデル交換のチャンスが潜んでいる」深谷もと佳 花目付

「わかる編集だけでなく変わる編集を」わかくさ道場 中村麻人 花伝師範

 

 

「編集学校の稽古は自分を変えることで相手に言葉が届くもの」むらさき道場 岡本悟 花伝師範

「いつもの私から36花へ、新しい未知を作っていきましょう」やまぶき道場 吉井優子 花伝師範

 

「擬の骨法としてその先に何かを仮想する。そこから自己を複眼的にみること」くれない道場 岩野範昭 花伝師範

師範代から師範となり、錬成師範として入伝生を指導する尾島可奈子、阿久津健、牛山惠子 錬成師範

15世紀から続く芸の道

入伝生のみならず師範代・師範の必読書『風姿花伝』。古文のまま読んで味わって欲しいと校長からも託される。

わたしと世界が混じり合う

実香連でも講師役を担う寺田充宏[離]別番による編集工学講義。落ち着いた澱みのない語り口で師範としての「かまえ」と「はこび」を背中で見せる。

3A(アフォーダンス・アナロジー・アブダクション)を基軸にして「編集的振動状態を身につけると「わせたかしい」ことが起こる」と謎めいたフセを用意し、語りの中でアケていく。

答えを先に言ってしまえば、《境》がカチカチになっていると編集状態になれない。《境》を紛らかすためには振動的状態に持っていく。振動を起こすには、言葉・分け方・速度を変えること。そうすると「わたし」と「せかい」の境界が曖昧になって混じり合う「わせたかしい」状態になる。ちなみにこの呪文のような不思議な言葉は寺田別番がつくった新しい概念、ニューワードである。

 

寺田別番こそが「わせたかしい」状態であることは講義の中で登場した人物を見ればわかるだろう。

<講義で登場した人物たち>

マルセル・プルースト、中勘助、樋口一葉、スラヴォイ・ジジェク、ポール・ヴィリリオ、佐々木正人、ジェームズ・ギブソン、梶井基次郎、ルイス・キャロル、マイケル・ポランニー、チャールズ・パース、イヴァン・ムラデノフ、白川静、リチャード・ローティ、ヴィルヘルム・フンボルト、幸田露伴、石牟礼道子、中上健次、多和田葉子、レイモン・クノー、夏目漱石、吉本ばなな、マーヴィン・ミンスキー、清少納言、村野四郎、田中泯、スチュアート・カウフマン、松岡正剛 他

これだけの人物を1時間の語りに入れ込み校長をも唸らせる講義を組み立てた寺田別番もある残念を引き取って今日に挑んだとの白状もあった。負から編集を立ち上がらせる。花伝所の方法が丸ごと詰め込まれた名講義であった。

»参考記事:[週刊花目付#20]編集的振動状態を励起せよ

 

ゴルチエ・世阿弥・本居宣長

ゴルチエのダブルジャケットを36[花]入伝式の装束として再び能舞台に現れた校長松岡。「編集工学とインタースコア」と題して、編集工学の基礎である「わかるとかわる」「たくさんの私」「かわるがわる」について、生命と重ねて手渡していく。

 

その中で編集学校の秘密も少しばかり明かされる。本居宣長は『古事記』を読むために漢字を捨て、40年かけて解釈をしたという。「この手法だと思った」この日本を使わないと西洋に負ける。《日本という方法》を守るために編集学校は守破離にした。それでも普通になってしまうからロールに花目付、番匠、別当とつけ、教室名はどこにもないものを名付けた。

 

「これはみんなに自由に方法を堪能してもらうための防波堤であり、薬であり、ファンデーションでもある」

 

自らの中に潜んでいるものが立ち上がってくるようにする「かまえ」。喜びや迷い、悲しみを消さない「はこび」。『風姿花伝』をもとにした花伝所には《日本という方法》が息づいている。舞台は用意された。花伝生は来春師範代となってこの舞台に立つ。

 

 

  • 後藤由加里

    編集的先達:石内都
    NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!