20年前の先達文庫、20年後の多読ジム

2020/08/10(月)08:32
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 井上ひさしの人気は圧倒的だ。
 宮本常一に白洲正子、朝永振一郎、メルロ=ポンティが後を追いかける。

 


1位 『文章読本』(井上ひさし/新潮文庫)…16人   
 
2位 『忘れられた日本人』(宮本常一/岩波文庫)…13人 
   『世阿弥』(白洲正子/講談社文芸文庫)…13人 

 

 

 

 

4位 『量子力学と私』(朝永振一郎/岩波文庫)…12人
   『知覚の哲学―ラジオ講演1948年』(M.メルロ=ポンティ ちくま学芸文庫)…12人

 

 

 

 

6位 『ホモ・ルーデンス』(ホイジンガ)…11人

7位 『かくれ里』(白洲正子/講談社文芸文庫)…10人

8位 『魯山人味道』(北大路魯山人/中公文庫)…9人
   『ダライ・ラマ自伝』(ダライ・ラマ/文春文庫)…9人
   『後世への最大遺物』(内村鑑三/岩波文庫)…9人
   『ムーン・パレス』(ポール・オースター/新潮文庫)…9人
   『老子』(金谷治/講談社学術文庫)…9人

13位  『サロメ』(ワイルド/岩波文庫)…8人
   『不滅』(ミラン・クンデラ/集英社文庫)…8人
   『複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』(M・ミッチェル・ワールドロップ/新潮文庫)…8人

16位  『能の物語』(白洲正子/講談社文芸文庫)…7人
   『風の王国』(五木寛之/新潮文庫)…7人
   『老子の思想』(テャンチュンユアン/講談社学術文庫)…7人

19位  『鷹の井戸』(イエーツ/角川文庫)…7人
   『一休』(水上勉/中公文庫)…6人
   『レトリックの意味論』(佐藤信夫/講談社学術文庫)…6人

22位  『虞美人草』(夏目漱石/新潮文庫)…5人 
   『遠野物語』(柳田国男/新潮文庫)…5人 
24位  『精神と情熱とに関する81章』(アラン/創元ライブラリー)…4人
   『中国古代の文化』(白川静/講談社学術文庫)…4人
   『黙阿弥』(河竹登志夫/文春文庫)…4人
   『吉原御免状』(隆慶一郎/新潮文庫)…4人
   『中島みゆき全歌集』(中島みゆき/朝日文庫)…4人
   『アンデルセン自伝』(アンデルセン/岩波書店)…4人

30位  『断腸亭日乗』(永井荷風/岩波文庫)…3人
   『幻の特装本』(ジョン・ダニング/ハヤカワ文庫)…3人
   『日々の泡』(ボリス・ヴィアン/新潮文庫)…3人
   『中国古典名言事典』(諸橋轍次/講談社学術文庫)…3人
   『中国古代の民俗』(白川静/講談社学術文庫)…3人
   『日本精神史研究』(和辻哲郎/岩波文庫)…3人

36位  『批評の解剖』(ノースロップ・フライ 叢書・ウニベルシタス(新装版)法政大学出版局)…1人
   『IT』(1・2)(スティーヴン・キング/文春文庫)…1人
   『序の舞』(宮尾登美子/中公文庫)…1人
   『禁色』(三島由紀夫/新潮文庫)…1人
   『正雪記』(山本周五郎/新潮文庫)…1人

                                    (2020年7月26日時点)


 上記は<多読ジム>season03のお題「ブッククエスト」の課題本リストからなるランキング。
9つのスタジオに集う、読衆(どくしゅう)が3冊を自由に選び、その3冊に関連する本をさらに3冊選んで本棚をこしらえていくトレーニングだ。<多読ジム>を創設した木村久美子月匠、大音美弥子冊匠(さっしょう)、吉村竪樹林頭、金宗代代将(だいしょう)を始め、多読師範やスタジオを運営する冊師(さっし)たちもひとりの読み手となる。

 

 今期の課題本はイシス編集学校20周年を記念して編集学校第1期・第2期の「先達文庫」からのラインナップが登場した。
当時は教室の師範代だけでなく、学衆にも本が贈られていたというから驚きである。

 

 さて、40冊の課題本選びからは各スタジオの特色がうかがえる。

 

■スタジオ935(浅羽登志也冊師):
『後世への最大遺物』『不滅』を3名の読衆が選び、
『ホモ・ルーデンス』が後を追う。
標高935のスタジオからエールのヤマビコは
“不滅”を“現象”のひとつと伝える。

 

■スタジオ*ローグ(おおくぼ かよ冊師):
『知覚の哲学』を3名、『複雑系』『老子の思想』が2名とつづく。
1位の『文章読本』を選んだ読衆がいないのも
このスタジオのカラーだろうか。

 

■スタジオ凹凸(景山卓也冊師):
『ホモ・ルーデンス』を3名、『かくれ里』を2名が選択。
白洲正子縛りの3冊でクエストに挑むツワモノ登場。

 

■スタジオNOTES(中原洋子冊師):
『量子力学と私』を4名、『文章読本』と『魯山人味道』を
3名がセレクト。冊師の端麗な歌声は読衆を共読のNOTESへ誘う。

 

■スタジオこんれん(増岡麻子冊師):
『ムーン・パレス』『風の王国』『老子』『かくれ里』を
それぞれ2名が選ぶ。小説と哲学、歴史本とが読衆自身の
クロニクルを重ねてスタジオをひた走る。

 

■スタジオ茶々々(松井路代冊師):
『世阿弥』を4名、『文章読本』を3名、
『中国古代の民俗』を2名が取り上げた。
滋味深い日本茶か、香り豊かな中国茶が追いかけるのか?

 

■スタジオポテチ(宮野悦夫冊師):
『文章読本』が3名、そのほか『中国古典名言事典』や
『鷹の井戸』『アンデルセン自伝』も選ばれた。
スタジオ名の通り、味付けのバラエティに富んだ選書ぶり。

 

■スタジオ印(吉野陽子冊師):
『ダライ・ラマ自伝』と『風の王国』『レトリックの意味論』を
3名が選んだ。他のスタジオで選ばれずにぽつんと佇む
『正雪記』を選んだ勇者の到来に、思わず冊師が歓声をあげる。

 

■スタジオゆいゆい(渡會眞澄冊師):
沖縄ゆんたくの賑やかなスタジオ。3名が選んだ『世阿弥』から
2名が選んだ『文章読本』『吉原御免状』、『忘れられた日本人』の
ほか『禁色』までが華麗に響く。

 

 白洲正子と中島みゆき、朝永振一郎とポール・オースターの集う世界。多読ジムで、さらにseason03でしか出会えなかった、彼らの連なりは読衆それぞれの本棚を組み立て、並べ替え、本同士のリレーションシップづくりの冒険へと駆り立てる。
幾年も読み継がれてきた「先達文庫」が編集学校創立20年を経て、様々な本を呼び起こす。

今期は、各々が積み上げた本棚を写真で撮影して見せ合う「マッスルギャラリー」イベントも開催されている。
 その行方は乞うご期待。


  • 増岡麻子

    編集的先達:野沢尚。リビングデザインセンターOZONEでは展示に、情報工場では書評に編集力を活かす。趣味はぬか漬け。野望は菊地成孔を本楼DJに呼ぶ。惚れっぽく意固地なサーチスト。