[守]の型はこう使え ようやくニューワード創文法【47[破]講義録】

2021/10/16(土)09:00
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イシス編集学校は、コーチの育成にも渾身の編集を重ねている。

講座はオンラインでのテキストコミュニケーションが主だが、編集コーチにはリアルでの研鑽機会が設けられている。

今回は応用コース[破]師範代に向けた講義を遊刊エディスト読者向けに大幅編集して特別公開。ライターの梅澤奈央師範による実践的な創文方法をご覧あれ。


■松岡校長は[守]の型を
 どう使っているのか

 

47[破]番記者の梅澤です。ふだんは遊刊エディストで記事を書いていますが、今日は記者ではなく師範に着替えて紙上レクチャーをしてみようと思います。
みなさんに質問です。文章を書くのは得意ですか。そして、イシスの[守]を終えたみなさん、38番の型はどんなふうに使っていますか。私は2017年春、39[守]で入門しました。その秋39[破]へ進んだとき、いちばん戸惑ったのは「守の型を使う方法がわからない」ということでした。今回は、そんな悩みをもつ読者のみなさんに向けて、私なりの編集術活用法をお伝えします。題して、「守の型はこう使え!ようやくニューワード創文法」です。

 

使う編集術は、「ようやくニューワード」です。[守]の稽古では、岡潔の『春宵十話』に収録されたエッセイを、《キーワード》《ホットワード》《ニューワード》で読み解きましたね。この型を、書くときに使ってみるという提案です。

 

先日の伝習座では、松岡校長が師範代や師範に向けて『インタースコア』の文章をどう書いているかという創文法が解説されました。その記事にもまとめましたが、たとえば、17ページ「学衆たちのトワイライトな反応によって、モリくじらの尾鰭はゆっくり波打った」という文章は、「夕空くじら」という教室名から連想される言葉を散りばめたということ。「トワイライト」「尾鰭」「波打つ」などがそうですね。つまり松岡校長は、教室名というキーワードと、その類語をホットワードにおいておられるわけです。

夕空くじら・森由佳師範(未知奥連 弦主)を取り上げたあとは、夕焼けつながりで「夕凪アルケミスト」という教室名をもつ渡辺恒久師範を選んだと言います。このように、文章をグラデーション状に広げていく方法が明かされました。

▲伝習座で講義する松岡校長。それぞれの師範代に贈られる教室名こそ、地に潜むキーワードでもあり、天の果てを照らすニューワードでもあるだろう。

 


■ ようやくニューワード創文法
  《元Hot》→《Key》→《新Hot》の三間連結

 

校長の実践を聞くと、「ようやくニューワード」の創造的な力がより見えてきたのではないでしょうか。私も記事を書くときは、《Key》《Hot》《New》を意識しています。ここでは、ひとつ例を挙げながら具体的に創文プロセスを説明してみましょう。
サンプルに使うのは、【感門DUST】裏の顔をもつ女 山田細香の黒いB面 という20周年感門のときのエディスト記事です。

 

この記事は、近畿大学ビブリオシアターから中継を行った山田細香師範があまりにもかっこよくて、それを伝えようとしたものでした。読んでいただくとわかりますが、ここで私は細香師範を「鉛筆」に見立て、「山田細香は黒かった」という結論を導きました。「鉛筆」というのがいわばキーワードです。ではこのキーワードはどうやって出てきたのでしょうか。その手順をリバースエンジニアリングしてみます。

 

▼手順1:元ホットワードを集める

まず、細香師範からホットワードをかき集めました。教室名はB面方眼、仕事は建築系、構造設計士。レクチャーのときには校長のレジュメを3回トレースするほどの事前準備の鬼と噂され、細身の身体にはいつもヨージ・ヤマモトの黒服を纏う……などなど。《要素・機能・属性》《インタビュー編集術》などを意識して、情報を集めます。

▼手順2:キーワードを絞る

つづいて、そのホットワードの群れをじっと見ます。その群れを束ねる《アーキタイプ》を探ります。すると、「鉛筆」というキーワードが浮かんできました。細くてシャープで、理知的な佇まいが細香師範にぴったりだと考えました。

▼手順3:新ホットワードを広げる

書きたい対象からキーワードが決まったら、そこからさらに新ホットワードを広げましょう。《連想シソーラス》の要領です。「鉛筆」から連想される言葉は、たとえば、「削る、硬い、細い、黒い、塗りつぶすと黒光り」などですね。この新ホットワードを使って、対象となる細香師範を描出します。

ここでは「山田細香は、よく削られた硬い鉛筆のようだった」「鉛筆1本をつぶすほどの準備」などに結実しました。そのうちに「山田細香は黒かった」というようなニューワードが飛びでてきます。

いかがでしょうか。キーワードを生み、そこから文章へ展開するプロセスは、《元Hot》→《Key》→《新Hot》の三間連結でまとめられます。

 

 

■ 編集はBe Here Now

 

松岡校長は、校長校話で強調されました。「うんうん考えなくても、新しい言葉は出てくる」と。むしろ、「そのような新たな言葉が出てくる状態に、情報をもっていかねばならない」とおっしゃいます。
ある道路を名付けるにしても、まっさらな状態では何も浮かばない。けれど、今この瞬間に、たとえば信号待ちをしているとか、大きなトラックが通ったとか、自分が疲れているとか、そのような状況をぜんぶ抱えた状態で道を見れば、すぐに編集は発動する。もし新しいものが出てこないとすれば、それは普通の概念に戻ってしまうからだ、と校長は強く訴えたんです。編集は「いま・ここ」から編集は動きだす。そういうことだと思います。

 

よくある紋切り型の発想を脱するために「コップは何に使える?」を思い出しながら、守の編集術を道具箱から取り出してみましょう。「いま・ここ」を広げるのが編集術です。

▲学林堂で行われた第160回伝習座のレクチャーのようす。松岡校長が腕組みして聞き、レクチャーはビデオカメラを通じて師範代に届けられた。

協力:山田細香

写真:後藤由加里

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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