4月30日、近鉄奈良駅前の啓林堂書店はまだ営業していた。
千夜千冊エディションの最新刊『大アジア』を手早く買い、自転車に乗って帰る。
「今回は口絵写真どうなってるのかな?」と長男(12)。
まず表紙をじっくり見てみようと言って差し出す。
「大アジア? よく考えると、聞いたことない言葉だ。どういう意味だろう。背景は古い地図?」
いよいよ口絵を見る。
「全然予想と違う。なにこれ?」。
私も初見だ。ページに顔を近づける。
「漫画だよね? キャラクターの目つきが怖い。どんな漫画なん? 本文に説明が出てくるのかな?」
しばらく見つめて思い出す。安彦良和の漫画『虹色のトロツキー』だ。
430夜、第三章にある。冒頭、「どうやってこの傑作の興奮を案内しようかとおもっている」とある。
校長プロフィール欄、今回は普通の写真だねと言いながら一ページめくる。
「まさかの、俳句がぜんぶ漢字」
どう読めばいいか分からない。代わりに俳句下の横書き、「手:町口覚の父君」に目が吸い寄せられた。手のクレジット?
もう一度口絵に戻って、手に注目する。
「校長の手だと思い込んでた。この人、そんなに特別な人なのかな」
町口さんの名前は憶えがある。奥付を開き、見せながら、町口覚さんは、この本の造本設計をしている人なんだよと伝える。
「自宅で撮ったのかな? 豪徳寺で撮らなかったんだ。なぜだろう」
外出自粛だから? それとも、家でぱっと撮ったら、思いがけずいい写真になったのかな。少し疑問を残しつつも、なんだか全部おもしろいという表情に変わってきた。
「そうだ。今回の裏表紙の字は、何だろう?」
亜。
「アジアの亜。これは、わかる」
背表紙を見る。L-500-15と番号が振られている。
「15冊目になるんだ。一番気になってるのは、千夜千冊エディションが、何冊まで出るのかってこと」
目次を見て数えると、今回のエディションには23夜が収められている。1740夜を23夜で割るとどうなる? 問いかけると計算機を出してきた。
「だいたい75.6。四捨五入したら76冊ぐらいだけど、まだまだ出るかもしれないよね。校長が生きていて、書き続ける限り、千夜千冊は増えていくから」
長男が読むのはここまで。
気になっていたところをチェックしたら、どこかへ遊びに行ってしまった。
伽耶、大東亜、事大主義。私は赤ペンを手に、目次にマーキングして、前口上から読み始める。
カナダの教育学者、キエラン・イーガンは、子どもの想像力を触発する15のアプローチの一つが「英雄」とのつながりを感じられるようにすることだと語っている。
千夜千冊エディションを開くことは、長男にとって「どんなモノ、ヒトからも英雄性を感じ取る」という認知的道具を刺激する機会になっている。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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