編集かあさん家の千夜千冊『ことば漬』

2024/04/09(火)08:00
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編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前読書」している。


 再読

 

 昨秋、子ども編集学校を企画・実践するメンバーと『松岡正剛の国語力 なぜ松岡の文章は試験によくでるのか』(松岡正剛+イシス編集学校)の共読会を開いた。それをきっかけに「国語力」とはなんだろうかというテーマにチームで取り組み始めた。
 子どもたちは、いつ、どこで、どのように「国語力」を身につけるのだろうかを切り口にする。就学前がカギになるのではと仮説し、2号目のZINEのサブタイトルを「こくごエディッツ」と決めた。
 ランチタイムや夜更けにオンラインで、時には京都の山をハイキングしながら、「こくご」を巡るイドバタトークを重ね、図解し、編集を始めた。が、何かが足りない。
 本棚から、千夜千冊エディション『ことば漬』(松岡正剛)を取り出した。
 令和元年の初読時、今、高1の長男はまだ小学生だった。表紙を見て「ことば漬って、変な言葉!」と笑ったのを覚えている。理由を聞くと「意外すぎる組み合わせだから。お茶漬けを連想するし」と言っていた。

 

 ジャケット

 

 「こくご」について寝ても覚めても考えている今、追伸の「言葉にジャケットを着せる」というフレーズが、以前にもまして鮮やかに飛び込んできた。
 冒頭に置かれている千夜千冊第779夜『はじめちょろちょろなかっぱっぱ』を音読する。

 

「せり・なずな、ごぎょう・はこべら、ほとけのざ、すずな・すずしろ、これぞ七草」
「松という字を分析すれば、キミ(公)とボク(木)とのさしむかい」


 伝えるための言葉、とりわけ子どもたちに手渡したい大事な言葉に、先人たちはすべからく愉快なジャケットを着せていた。

 

<言葉にジャケットを着せる>『ことば漬』追伸より

 

『七五調で詠む日本語 はじめちょろちょろなかぱっぱ』は、元の本も手元に置いている
(高柳蕗子著、集英社)

 

 俳句共読

 

 長女が10歳の半ばを過ぎたが、まだ寝る前の仕上げ磨きと本読みを続けている。読み聞かせというよりも、一緒に読む時間だ。その日の本は、第一章の2つ目に取り上げられている第362夜『小学生の俳句歳時記』にしてみた。

 

 あいうえおかきくけこであそんでる(小2女)
 ★最初からドカン! これはね、レイモン・クノーか井上ひさしですよ。

 

 俳句の部分と、星印の松岡校長の評の部分の声色をちょっと変えながら、読み進んでいく。
 いつの間にか16歳の長男がやってきて、「いいやん」「いかにも小4男子っぽい」といった具合に口頭で寸評を挟み始めた。

 

 水まくらキュッキュッキュッとなる氷(小5女) 
 ★知ってますね、「水枕ガバリと寒い海がある」西東三鬼。

 

「水枕って何? 想像もつかない」と二人がいう。熱が出た時は保冷剤で冷やすことが多くなった現代、水枕は家庭ではほとんど使われることがない。長女が生まれる前、夫が入院した時の思い出話をする。

 

 わからない句

 

 「墓まいり私のごせんぞセミのから」という句に差し掛かった時、長女が「ちょっと待って」と言った。
 松岡校長の評は、「★おお、虫姫様の戸川純だよ。まいった、参った、詣りたい」なのだが、それを聞いても長女は、この句の良さが全然わからないという。 

 長男は、「いいな。高校生ぐらいになると、スルーしてしまう」とニコニコする。
 ドギマギしながら解説を試みる。「お盆に、お墓参りをした。ふと木を見ると、枝に蝉の抜け殻があった。抜け殻ってなんだか魂の抜けたあとみたいに見える。ふとご先祖さまとのつながりを感じた…ってことかな」。
 ここまで話して、良さが伝わってない気がして、ちょうど読んでいた『露伴の俳話』の冒頭を思い出す。俳句って、一見、関係のないものを取り合わせてみると、なんだか絶妙に「その感じ」が描写できる時がある、お墓参りと蝉の抜け殻、これもそういう句かもしれないと言いなおす。
 長女は「うーん」と首をかしげる。俳句とはを説明するより、お墓参りに行った時のことを一緒に思い出した方がよかったかもしれない。

 

 一緒に読む

 

 つづきを音読しながら、考えた。「子どもたちに国語力をつける方法」を考えている大人だって、俳句が読めているかといえば、必ずしもそうとは言えない。抜け殻の句も、長女から問われて、初めて立ち止まって句の世界に向き合った。
 共に読むことで、大人の読書は息を吹き返し、子どもの読書は広がる。
 音読という方法を使えば、相当難しいテキストでも、大人と子どもで一緒に読めてしまう。
 長男とは中学生以上になって音読という形の共読はほぼなくなったけれども、新聞やドキュメンタリーの感想をちらほら交わし合う。
 日経新聞に連載されている朝井リョウの小説は、「今の若い世代の状況や心情をこんなにわかって、表現できている作品はないと思う」という長男の激賞で、読みが新たになっている。

 

 国語の成績

 

 長男は、高校1年生の学期末、小2以来となるテストを受けた。通信制高校のため、少し遠方の会場まで受けに行ったのだが、帰り道、電車を降りた後に、最初に出てきた感想が「あまり興味のない分野だと、言葉も頭に残っていないものなんだなとわかった」だった。
 体育のテストで「ナントカ飛び」が出てきた。一度は教科書で目にしているはずだし、日本語だからわかるはずなのに、どんな飛び方なのかイメージできなかったという。
「国語は大体、解けたんだけど、どうしても意味のわからない四字熟語が出てきたんだよね」
 それが、なんだかおもしろかったという。
 普段は、わからない言葉が出てきたらすぐに調べる癖がついているからだろう。
 小学校から中学校にかけて、7、8年、教科書を離れていた時間、膨大な量のウェブ上のテキストと新聞を読んでいた。遊んでいると同時に、ことばに漬かりに行っている時間でもあった。ただし、テストを受けられなかったので成績はつかなかった。
 久々に見た成績表では、かつて性に合わなかった国語にもっとも高い評価がついていた。
 
 ことばに漬かる

 

 <いつでも、言葉に漬かりなさい。ジャケットを着ている言葉に出会ったら、脱がせてみなさい。裸の言葉には、どんなジャケットを着せるか、考えてみなさい。>
 たまたま学校に頼れなかった我が家は、つまるところこれだけで、国語力を伸ばしてきたと言える。
 数年前に『ことば漬』を読んでいたことで、知らず知らず構えができていたのだと思う。
 どんなに国語嫌いでもことば嫌いの子どもはほとんどいないという確信はますます強まっている。

 編集かあさん家では、ことば遊びの用意はいつでもできている。リストアップしてみると、「つなげる」「まとめる」「くらべる」の3つの軸が見えてきた。『あそぼんvol.2こくごエディッツ』では、一種類ずつ、3つをピックアップした。近いうちに100のリストにしてみたいと考えている。

 

「編集かあさん家の遊び」ページ

 

冷蔵庫に貼られた長女のメモ「バナナケーキあるけど気にしないで」。
一年前は「食べるな」だったが、言葉にジャケットを着せるようになってきた。

 

 

info.


 

「あそぼんvol.2 こくごエディッツ」

   発行 子ども編集学校
 編集 子どもプランニングフィールド
 A5、20ページ

 1冊500円、限定300部

 購入はこちらから

 

■子ども編集学校を企画・実践する「子どもプランニングフィールド」に参加したい方はこちらから

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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