編集かあさん家の千夜千冊『性の境界』

2023/10/10(火)08:03
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編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。


 読前読書

 

 どんなにむずかしい本でも、読前読書は一緒にできる。そう思って、子どもと表紙読書を続けているのだけれど、本屋で『性の境界』を手にとった時、このテーマを15歳の長男と読むのはむずかしいなと感じた。
 それでも習慣でつい見せる。「新しい千夜千冊エディション、買ってきた。なんと字紋は漢字じゃなくて、アルファベットのQだった」というと、スマホから目をあげ、ちらりと見た。
 「ふーん。漢字というルールを貫いてもよかったんじゃないの」と、素っ気なくても言葉が返ってきた。

 

 知りたくなかったこと

 

 長男が学校を離れることになったとき、頭を悩ませたことの一つが「性教育」を受けられないことだった。
 登校していれば、小学校4年生の半ばで「いのちの授業」として性についての特別学習がある。二次性徴や出産・妊娠について知り、妊婦体験などをする。受けない場合、どう伝えたらいいのか。
 思い悩む間も、長男は変わらず庭で遊んでいた。夜明けにズッキーニの受粉をさせたり、昆虫の交尾の写真を撮ったり、ナメクジの接合らしきシーンを目撃したりした。
 だんだん、こうやって自然に知っていくのかなという気持ちになってきた。結局、直接教えることをしないうちに数年経ち、うすく髭が生えてきた。
 「学校で、そういったことを教えてもらえたら助かったかなと思ってたけど……」と遠回しに話をしたら、長男の答えは「普通に生活してたらなんとなくわかる。知りたくなったら調べる。一番、無理に教わりたくない分野だったから、自分にとってはよかった」という意外なものだった。

 

ズッキーニの受粉

 


ナメクジは雌雄同体だが精子を交換しあってから産卵する 


 「いいやん」

 

 いまだに、長男が何をどのぐらい知っているのかわからないということを思いながら、夕食後、本をめくる。
 「Q」が散らばるページデザインが心象風景に重なる。
 ドラァグクイーンが微笑むエディット・ギャラリーは長女(小4)にだけ見せてみる。
 「いいやん。おかあさんもこんな髪型にしたらいいんじゃない。一万円ぐらい出したらできるのかな」という。一万円では到底足りないだろう。

 

エディット・ギャラリーのドリアン・ロロブリジーダ


 長男が「りゅうちぇるは出てくるの?」と絡んできた。
 どうだろう? パラパラとめくるが見当たらない。
「最近の報道ではじめて存在を知って、どんな人だったのか調べただけなんだけど」
「マツコさんはけっこう、出てくるけどね。第三章の最後は『「おネエことば」論』だし」と返すと、長女が「<おネエ>とか言っていいん?」と聞く。
 ページに目を落とすと、普段は言ってはいけない雰囲気をまとっている言葉がたくさん載っている。
 少し話を変えようとおもって、「帯は美輪明宏さん。知ってる?」と長男に軽く尋ねてみると、「<神武以来の美少年>。それ以外は知らない」。ウィキペディアでたまたま「神武景気」を調べていた時に出てきたという。私が知っている美輪明宏像を伝えてみる。
 
 ジェンダー 

 長男の興味が「野菜」から広がっていく時期と、ニュースでLGBTという言葉を見るようになる時期がたまたま一致していたように思う。
 正面から話すことはないが、議員や秘書官のコメントが報道をにぎわせた時は、話題にのぼる。
 LGBTそれ自体は大事だと思うけれど、「主張する人たち」の言葉とは距離を置いていたいというのが長男の現在地のようだ。
 現在の教科書では、ジェンダーの平等は当然のお題目である。もともと、まだ関心も持ててないことについて「やってはいけません」と言われることに拒否感があったが、このところようやく割り切って教科書を読めるようになった。
 「家庭科は思想教育」という受け止めの言葉が出てきた時は、長男の変化と、家庭科の位置づけの変化の両方に、驚いた。

 世の中のコードとモード

 TBS「マツコの知らない世界」は、何年もすべて録画して見ている。そのうち日テレ「月曜から夜ふかし」も見るようになった。「下ネタ」も少なくないので最初はドキっとしたがなんとなく目をつぶった。
 世の中のコードとモードは、とうてい親だけでは伝えきれない。ホームエデュケーションをかなり助けてもらったと感じている。もうひとつあげるならTOKIOの「鉄腕ダッシュ」の存在も大きい。
 基本的に我が家ではずっとテレビ、主にニュースがついている。長女は何も言わないけれど、長男はジャニーズについての新しいニュースが出るたびに、どうなると思う?とちょっと挑むように聞いてくる。

 



■編集かあさん家の千夜千冊バックナンバーより
 『昭和の作家力
 『源氏と漱石
 『戒・浄土・禅

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  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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