先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。
膨大な記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。4回目のテーマは、編集学校の骨法「アブダクション」。この推論の方法をさてどうヨミトキ、何に見い出すか。3人の師範の「見方」ごとどうぞ。
桂大介 54[破]師範の発掘!
この文を目にしているような熱心なエディスト読者の方々は、とうぜん既に読まれているであろうから、わたしが「発掘」などと騒ぎ立てるのは誠に恥ずかしいのだが、それでも必読記事をあげよと言われれば、これを取り上げざるを得ない。[離]の香保総匠の綴る連載「OTASIS」である。
初期の記事に、文章の型を書いたものがある。王道の「起承転結」に懐疑を呈し、音楽や芸術の型に触れて、さいごに「いじりみよ」を取り上げた。文章の「転結」よりも「連結」を薦めているが、わたしはそこにアブダクションを見る。「いじりみよ」は順に考えるものではなく、直観された「予測づけ」に対して「見方づけ」を遡行的にアブダクションするものではないか。記事を読み返しながら、そんな仮説を考えている。
内村放 55[守]師範の発掘!
■電気グルーヴのテクノ情報生命―52[守]師範、数寄を好きに語る
「電気グルーヴとはシアノバクテリアだ」。大胆不敵な言い換えにギョッとする。そう幕を開けた記事を貫くのは、SNSに溢れる〈推し〉とは異なるただならぬ石野卓球愛。卓球が駆け抜ける時代ごと引き摺り出し、テクノで世界を再解釈する企みである。その先に現れたのが冒頭のカゲキな仮説だ。単なる思いつきではない。これはテクノ・卓球という情報を身体ごと憑依させる中で生まれた新たなイノチだ。ゆえに透明な〈いいね!〉にはない、スリリングな鼓動が行間に刻まれる。狂気と過剰のゾッコンこそが世界を破る。芭蕉はそれを「松のことは松に習へ」と語った。画面いっぱいの怪しすぎるイラストごと石黒好美の偏愛アブダクションに習ひたい。
村井宏志 43[花]錬成師範の発掘!
■おしゃべり病理医 編集ノート-おぐら家が「二十の扉」で遊んだら
[守]のお題が好きだ。自身の日常を手すりに、誰でも気軽に取り組めるのに、知れば知るほどその奥行きに驚かされるから。001番のコップの中には「編集とは何か」という大きな問いがなみなみと入っている。この記事で取り上げられる「二十の扉」もシンプルな編集ゲームだが、小倉加奈子析匠が軽やかな手さばきで、その深さに迫っている。無数の分岐があり得る中で回答にたどり着くには、情報の階層構造をロジカルに考えるだけでなく、アナロジカルな推感編集が必要で、アブダクティブな仮説に基づいた質問力が求められる。ん? これって、師範代が回答をどう読み解き、指南でどう伝えるかと同じじゃないか! 師範代の中で、じゅんちゃんとたくみが共存するからこそ、学衆がワクワクする指南が放たれるのだ。
『言語の本質』著者・今井むつみさんによれば、「アブダクションによって人は、知識を拡張し、因果関係を解明し、新たな知識を創造している」のだそうです。そして「AIに、このようなことはできません」とも(『人間の大問題と正しく向き合うための認知心理学』日経プレミアムシリーズ)。とすれば、AI時代を生き抜く方法こそ、「アブダクション」なのではないでしょうか。
アイキャッチ/阿久津健(55[守]師範)
編集/角山祥道(43[花]錬成師範)
◎「発掘!」バックナンバー◎
発掘!「めぶき」――当期師範の過去記事レビュー#01
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
【書評】『アナーキスト人類学のための断章』×4× REVIEWS 花伝所 Special
松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を数名で分割し、それぞれで読み解くシリーズです。今回は、9月に行われ […]
3000を超える記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。今回は、編集学校の根幹をなす方法「アナロジー」で発掘! この秋[離]に進む、4人の花伝錬成師 […]
纏うものが変われば、見るものも変わる。師範を纏うと、何がみえるのか。43[花]で今期初めて師範をつとめた、錬成師範・新坂彩子の編集道を、37[花]同期でもある錬成師範・中村裕美が探る。 ――なぜイシス編集学 […]
おにぎりも、お茶漬けも、たらこスパゲッティーも、海苔を添えると美味しくなる。焼き海苔なら色鮮やかにして香りがたつ。感門表授与での師範代メッセージで、55[守]ヤキノリ微塵教室の辻志穂師範代は、卒門を越えた学衆たちにこう問 […]
ここはやっぱり自分の原点のひとつだな。 2024年の秋、イシス編集学校25周年の感門之盟を言祝ぐ「番期同門祭」で司会を務めた久野美奈子は、改めて、そのことを反芻していた。編集の仲間たちとの再会が、編集学校が自分の核で […]
コメント
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2025-10-20
先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。
2025-10-15
『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。
2025-10-14
ホオズキカメムシにとってのホオズキは美味しいジュースが吸える楽園であり、ホオズキにとってのホオズキカメムシは血を横取りする敵対者。生きものたちは自他の実体など与り知らず、意味の世界で共鳴し続けている。