自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。
今回は、ブレグジットを言い当てたことでも話題になったロンドン在住の作家、ブレディみかこさんによる『他者の靴を履く』(文春文庫)を取り上げます。推薦者は、チーム渦の新メンバー・山口奈那さん。いわく「タイトルに心を掴まれました。私と他者、まったく真逆の2つがどう結びつくのか」。
●●●『他者の靴を履く』×3× REVIEWS
●1 自由に自分を脱ぎ捨てる
第1章 外して、広げる
第2章 溶かして、変える
第3章 経済にエンパシーを
第4章 彼女にはエンパシーがなかった
日本語では、どちらも「共感」と訳されてしまうシンパシー(sympathy)とエンパシー(Empathy)。でもここには違いがある。シンパシーは性向だけれど、エンパシーは身につけられる能力だ。ではどうやって身につける?
●2 「迷惑をかけたくない」という欺瞞
第5章 囚われず、手離さない
第6章 それは深いのか、浅いのか
第7章 煩わせ、繋がる
第8章 速いシンパシー、遅いエンパシー
他者と自分の視点を意識的に入れ替えることは難しい。でも、なぜ、難しいのだろう?
●3 32+1人の靴を履く
第9章 人間を人間化せよ
第10章 エンパシーを「闇落ち」させないために
第11章 足元に緑色のブランケットを敷く
「未来に向かう靴」をどう履くのか。なぜ履くのか。他者の靴を履くと、どうなるのだろう?
『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』
ブレイディみかこ著/文春文庫/2024年5月10日発行/825円(※2021年6月刊行の単行本を文庫化)
■目次
はじめに
第1章 外して、広げる
第2章 溶かして、変える
第3章 経済にエンパシーを
第4章 彼女にはエンパシーがなかった
第5章 囚われず、手離さない
第6章 それは深いのか、浅いのか
第7章 煩わせ、繋がる
第8章 速いシンパシー、遅いエンパシー
第9章 人間を人間化せよ
第10章 エンパシーを「闇落ち」させないために
第11章 足元に緑色のブランケットを敷く
あとがき
文庫版あとがき
■著者Profile
ブレイディみかこ/1965年、福岡生まれ。96年から英国ブライトン在住。同国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年『子どもたちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞受賞。著書に『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『労働者階級の反乱』『地べたから考える』など。
●●●3× REVIEWS(三分割書評)を終えて
人間関係に悩んだときはとにかく「あなたが変わりなさい」という本ばかりが多くこの本も同じかと思っていた。しかし、他者を理解するために「自分で選んで他者の靴を履く」。この言葉には強張った体からふっと力が抜けたようだ。頑なになっていた自分の靴を脱いで他者の靴を選ぶ。これは、私が自由になるための方法だった。(山口奈那)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。