紫~ゆかり~への道◆『光る君へ』を垣間見る 其ノ一

2024/05/31(金)11:57
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事実は一つ。であっても、それに対する解釈は無数に。「なぜ」と「どうやって」は見る人の数だけあるのでしょう。大河ドラマもまた、ある時代・ある人物に対する一つの解釈です。他の解釈を知れば、より深く楽しめるに違いない。
…と、固く書きましたが、平安時代と紫式部をもっと知りたーい。大和和紀『あさきゆめみし』で高校の古典を乗り切った53[守]師範・相部礼子ともっと深みにはまってみませんか。



 まずは今回のあらすじをご紹介します。

◎第21回「旅立ち」(5/26放送)


 前回ラスト、兄達の逮捕・都からの追放を受け衝動的に髪をおろし出家した中宮・定子。対する兄・伊周(これちか)は出家したふりをして太宰府へ行くことを拒む。これは妹ならずとも「見苦しい」と言わざるを得ないでしょう。母・貴子の説得でようやく出立したものの、一条天皇の「母の同道まかりならぬ」との仰せにより、無理矢理引き離される母子。道隆の死からわずか一年での、この没落、とかぶさる非情なナレーションが印象的でした。


 一条天皇に見放されたと感じて気落ちする定子を慰めるために清少納言が書き始めるのが『枕草子』。清少納言と、まひろ(主人公・後の紫式部)は、実は仲良しだったというのが、このドラマでの設定ではありますが、まさか「枕草子」誕生にまひろが関わっていたとは。気が強そうで、おしゃべり好きで、といったこれまでの回とはうって変わってきりりと机に向かう清少納言。「春はあけぼの…」にかぶせて、桜の花びらが一片はらりと紙の上に落ちたり、書き継ぐ清少納言、読む中宮定子の周りに蛍が飛びちがったり、という『枕草子』冒頭を彷彿とさせる演出も見事。そして袿をさらりとまとい、ゆったりと寄りかかって枕草子を読む定子・高畑充希の、またなんと美しかったことか。


 そんな女達に対して、男達は冷酷な政治の世界へ。まひろの父・為時は、越前という大国の国司になったことに喜んでばかりもいられない。新たな商いの地を、それも今までの九州ではなく、より都に近い場所へという求めをもって到来した宋人達。越前に留め置く宋人達の要求をのまず穏便に帰国させよ、とは道長の指示。これを命じる道長はもはや立派な左大臣の顔です(そして重い任務を背負って、一気に表情が暗くなるお父さん…)。


 やわらかな感情を揺さぶる女達の世界と、緻密な駆け引きと裏を読む力が試される男達の世界とが交差する回だったとも言えるでしょうか。


 総じて定子と清少納言のうるわしき主従愛に強くスポットが当たってはいましたが、道長に十年秘めた思いを打ち明け、ようやく新たな道へと歩みだすまひろの前途を祝してご紹介するのがこの本。琵琶湖を船でわたり、まひろが赴いた越前・武生は、この本の著者にも所縁の地なのです。

 

◆『愛する源氏物語』俵万智/文春文庫◆

与謝野晶子「みだれ髪」をチョコレート語訳した著者ならではの評論。『源氏物語』に出てくる 795首の和歌。これを紫式部が一人で、それぞれの登場人物になりかわりながら詠んだ、となれば、ストーリーばかり追うだけではもったいない(まぁ、実はストーリーを追うのも大変なわけですが)。冒頭に「和歌は心の結晶なのだから。それを小石のようにポンと飛び越えてしまうのではなく、氷砂糖をなめるように味わったならば、『源氏物語』の世界は、さらに豊かな表情を見せてくれることだろう」とある。そのとおり。万智さんの訳で、和歌がぐっと身近なものとなり、「愛する」源氏物語、とあるだけに、時に光源氏に対しても、愛するがゆえの辛口の評を読んでいると(須磨に旅立つ光源氏が、それぞれの女性と詠み合う歌を評した「同時進行恋愛」の章は読み応えあり、というより、中で詠まれる絶唱の深刻さと、俵さんの客観的な評のバランスが絶妙)。氷砂糖につられて、つい、オリジナルに手を伸ばしたくなる。



 

  • 相部礼子

    編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。

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