七夕の伝承は、古来中国に伝わる星の伝説に由来しているが、文字や学芸の向上を願う「乞巧奠」にあやかって、筆の見立ての谷中生姜に、物事を成し遂げる寺島ナス。いずれも東京の伝統野菜だが、「継承」の願いも込めて。

麻雀の世界には「安牌を切る」という言葉がある。リスクを避ける立派な戦略のことだ。しかし、イシス編集学校では無難な安牌を選ぼうものなら、たちまち渦は大きく、私たちに襲いかかってくる。
アガサ・クリンシティ教室(上原悦子師範代)、ナイーヴ朋楽教室(廣瀬幾世師範代)、ネクスト・キャンドル教室(土居哲郎師範代)、空耳ラブレター教室(山口奈那師範代)の4つの教室が7月13日のリアルとオンラインを繋ぐハイブリットの53[守]合同汁講にむけて、師範代はBPT、ルル三条、ダンドリ・ダントツの型を使い、フルスロットルで準備を進めてきた。
静かな水面のように穏やかな前日の夜。代本板を学林局に借りるお願いを八田英子律師に入れた。代本板とは、学校の図書室などで本を抜いた後に入れ、返却場所の目印となる板状のもので、明日のワークで用いるのだ。
これで今日のダンドリはおしまい。師範代の誰もがそう確信していた。八田律師のメッセージが届くまでは。「過去の師範代は『代本板』に代わるツールを手作りして汁講に持ってきてくれたこともありましたよ。手作りするもよし、学林局のものを使うのもよし、です」。
イシスの女神からのお題に、頭を抱えながらも手を止めないのが師範代である。画用紙を手にする者、お菓子箱を工夫する者、クリアファイルの塊を両手にコンビニと自宅を往復する私。師範代がそれぞれの代本板を手に「いざ本楼へ」。
前半の合同ワークでは名札の色ごとに分かれての、2つのワークを用意した。まずは無作為に選ばれた2冊の本の共通点を探し、本楼の壁一面、天井まである本棚から仲間になる本を探す。
▲八田律師による本楼ツアー
迷いながらも学んだばかりの型を使い、本楼を彷徨う学衆たち。用意された本とにらめっこする者、書架の前でしっかり本の中身を吟味する者、表紙で即決する者。それぞれのお稽古風景が表れている。どんな情報でも見方を変えれば必ず対角線を引くことができる。こうして見つけた本を取りだせば、ぽっかりと隙間が空く。そこに誇らしげに収まるのはあの手作りの代本板だ。
▲「代本板」になった53[守]全18教室のフライヤー
一見無関係な情報でも、見方を変えれば“対比”の情報が潜んでいる。それを意識できれば、松岡校長発案の編集ゲームの「ミメロギア」を使ったワークの始まりだ。
「オノマトペを使ってみよう」「〇〇さんの言葉をお借りして…」「合作にしませんか?」と、フルスロットルで思考は止まらない。言葉が響き合い、いくつもの潮流が本楼内の温度を上げていく。今日が初対面。教室を超えて、年齢もばらばら。しかし、型と編集術という共通言語を手にしている学衆たちには、それで十分なのだ。編集を体現していく学衆達の姿がなんとも頼もしい。
▲教室を超えて編集談話する学衆たちとナビゲートする4師範代
後半の教室汁講では、空耳ラブレター教室は2階で茶話会モードの汁講を楽しんだ。
▲オンライン参加も一緒になって日頃の編集稽古について語り合う
帰り際、学衆Yさんが階段を降りながら、壁に貼られた53守師範代が作成したフライヤーをみて、「師範代ってなんでもできるんですね」と笑いかけた。そこでハッとする。
そうか、私たち師範代は「なんでもできる」のではなく学衆の為なら「なんでもする」のだ。汁講の準備のダンドリも、前日の工作も、当日のディレクションも。すべてが学衆に編集を味わってもらいたいという一心なのだ。
「安牌を切る」なんて言っていられない編集の世界。私たち師範代は、次々と立ちはだかる問題に「なんでも」挑戦し、乗り越えていくが、挑み続ける姿を、学衆に直接見せることはないだろう。
もうすぐ「番期同門祭」が幕を開ける。53[守]の最後まで、全身全霊で「なんでもやる」師範代達の姿を見ていてほしい。
文・写真・アイキャッチ:山口奈那(53[守]空耳ラブレター教室師範代)
写真:阿曽祐子 若林牧子
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コメント
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2025-07-07
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