この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「山の山頂、ピークの先にある見たこともない風景を、みんなで見たい」。6月7日に開催された55[守]「第2回創守座」で山派レオモード教室の田中志穂師範代が熱を込めて語った。
「創守座」はイシス編集学校で教室をあずかる師範代の研鑽の場。当日プログラム『55守Nowインタースコア』では、師範代が教室運営の前半を振り返り、今後の向かう先を宣言する。田中師範代は42[花]を終えたばかりの初登板師範代。18人の師範代の一人として取組みを発表した。
編集学校では、師範代が教室ごとに独自の仕立てや運営方針を定めて稽古を進める。教室デザインの自由度は高く、とてもクリエイティブ。それだけに、どのようなスタイルで何を伝えていきたいか?という全体の設計がとても重要になる。
教室運営のデザインは、教室名の名づけと教室フライヤー制作からスタートする。山登りが大好きな田中師範代に名付けられた教室名は「山派レオモード教室」。レオモードは物理学者のデヴィッド・ボームがつくった、主客をわけない実験的な文法の名称だ。こうしたオリジナルな教室名を手掛かりに、師範代は自分の教室イメージを膨らませたフライヤーを制作する。
田中師範代はフライヤーのキャッチコピーを「遊動する?」と置いた。主客まぜこぜのレオモードで編集すれば、「山は山好きたちと遊んでいる」とも見立てられる。見方の変化によって、不動の山が楽し気に躍動しはじめる。コピーの最後は「編集の力で社会の姿はガラリとかわる。さぁ、ピークの先を目指して出発しよう。」と結んだ。
「山派レオモード教室」フライヤー
そんな田中師範代の教室は、師範代と学衆が立場を超えて対話する活発な教室となった。師範代が中心ではなく学衆同士がお互いの回答を読み合い発言する。主客を超えた学びの場が生まれている。真面目に愉しむもあり、軽やかに愉しむもあり、キュートに愉しむもあり、愉しみ方は人それぞれ。とことん編集で遊び、編集の面白さを実感できる教室づくりをめざす田中師範代の運営方針が活きている。
「僕も師範代のような文章が書けるようになりたい」。発表の場で学衆からもらった嬉しい言葉を紹介した田中師範代。型をつかって師範代に取り組む手ごたえと共に、編集の型の力を再認識したと振り返った。稽古を通じてどんどん変わる学衆のものの見方。これまで見たことのない風景をみんなで見たいと教室の向かう姿もより鮮明になってきた。
普段の田中師範代は難民支援のNPOで広報の仕事をこなす一児の母。編集を学ぶ根底には、動かない社会の境界を揺るがし、つなぎ、より寛容な世界をつくりたいとの想いがある。編集学校の教室デザインには、師範代一人ひとりが大切にしている想いや願いが滲み出してくる。デザインの自由度が高いがゆえにすべったり転んだりの失敗も多くある。ただ、権威や手続きに依ることなく学びを興すしなやかなリーダーシップはこれからの人生の大きな財産にもなっていく。次の頂を目指す田中師範代。さらに遊び心に溢れる躍動的な教室への試行錯誤が続く。
文・写真:奥本英宏
イシス編集学校 [守]チーム
編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。
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3年前の未来予想図が現実になった?! 大学の新学科として「編集工学科」が新設。 千夜千冊は2000夜間近、千夜千冊エディションは35冊目が発売。 EdistNightなう〜3年後、イシスは何を?(2022/02/25) […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。