お寺に「らくがき」するように —愛知・エディットツアー『お寺で学ぶ編集術のいろは』レポート—

2024/10/23(水)19:00
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 如来大悲の恩徳は

 身を粉にしても報ずべし

 師主知識の恩徳も

 ほねをくだきても謝すべし


 2024年9月に開催された愛知のエディットツアー「お寺で学ぶ編
集のいろは」は、恩徳讃に見守られながら始まった。親鸞聖人が仏の教えと、それを伝える師との出会いの喜びを綴ったものだ。

 

 イシス編集学校には編集の「型」や方法と、それらを学ぶ楽しさを伝える師、「師範代」がいる。会場となった放光山長善寺の住職、蒲池卓巳さんも師範代だ。
 この日は「25周年番期同門祭」でも
司会を務めた久野美奈子師範代、「イシス子どもフィールド」でも活躍中の上原悦子師範代(53[破]師範代)&ごうくんが登場。岐阜市からはカメラを携えた木村善則師範代が、豊川市からは着物姿で石黒弘晃師範代が駆けつけ、石黒好美師範代は『遊』のブートレグTシャツを着て気合を入れる。かつて千夜千冊には「中部の一角には、時なら編集的活火山があるらしい」と書かれたが、いま再び名伽マグマが沸騰している…のかもしれない。

会場となった放光山長善寺。400年の歴史を持つ。

会場に掲げられていた恩徳讃。

 

 この日の参加者の顔ぶれもさまざまだ。子育て中の方、海外から帰ってきたばかりの方、福祉を学ぶ大学院生、長善寺の由来に興味を持った歴史研究家、松岡正剛ファンや、ちょうど[守]コースを修了したばかりという方まで集まっている。編集やお寺の可能性、ここに何かがあるのではと、きらきらとした目をしている。


◆あつめてわけて、ならべかえる

 編集学校と、[守]コースで学ぶ編集思考素の説明を聞いたのち、久野師範代の進行で編集ワークを体験することに。

 

「皆さんが『今年買ったもの』を、思いつくまま付箋に書きだしてください」

 

 久野師範代から出された意外なお題に、ちょっと戸惑いつつも真剣に取り組む参加者たち。毎日している「買物」という行為も情報として取り出そうとすると意外に難しい。

 

「では、書きだしたものを『値段の高い順』に並べてみてください」

 


並べ替えた付箋を参加者同士で見比べる。中には4名中3名が今年「車を買った」ことが判明したグループも。自動車王国・愛知県らしさがこんなところにも!?

 久野師範代は「次は『自分にとって大切なもの』の順に並べてみてください」「将来、役に立ちそうなものの順では?」と問いかける。値段の順とは全く違う並び方になっていく。オーダー(順番)をつけることも編集だ。

 

「編集では、どんな軸を立てて物事を考えられるかということや、

 面白いモノサシを設定できるかが重要になります」

 

 次に、久野師範代は2人一組になって、出された付箋と「お寺にあるもの」を3つ組み合わせて「100年後に残したいもの」を考える、というお題を出した。参加者の注意のカーソルが、テーブルの上から離れて、お寺中を駆け巡りはじめる。

 

 弘晃師範代チームはお寺にあった「あやとりの紐」と、メンバーが最近買った「固定種の種」「手筒花火」から、100年後に残したいものとして「利他」をピックアップ。他のチームでは長善寺が武将・佐々成正の菩提寺であることに注目して「変化を受け入れる覚悟」としたところも。

 


 全く関係がないと思っていたことや、偶然に手にとったもの同士
にも関係性を見つけ、新たな意味やメッセージを見出していくことができる。それが編集の「型」の力なのだ。

 

 

◆お寺の編集、編集のお寺

 エディットツアーの最後に、住職の蒲池師範代が登場。今日のエディットツアーでも大活躍したホワイトボードは、なんと庫裏の障子を改造したものであることが明かされる。

 

「お寺には○○してはいけない、というしきたりが多い。

でも、僕はそれを変えていきたい。

例えば『柱に落書きしてはいけない』というルールがあるけれど、お寺は「自由に落書きできる、子どもの遊び場」のような場であってもいいのではないか。そう考えて、障子をホワイトボードに変えました」

 ホワイトボードを使って、檀家さんや地域の人と一緒にお寺の将来を自由に話し合う会もしていきたいと話す蒲池師範代。

 

「今までは昔からこう言われているから、とか、これが決まりだからと

 いう考え方で檀家さんとも話していたように思います。

 けれど、自分なりの軸をもって、親鸞聖人の教えをもっと自由に

 アウトプットしてもいいんじゃないかな、と思うようになりました。これは編集学校で学んだ影響ですね」

 

 [守]コースではルール(規則)・ロール(役割)・ツール(道具)の「ルル三条」を楽しく動かしながら、さまざまな場面をダイナミックに動かしていく方法も学ぶ。

 

 今までとは違う方法で仕事に取り組みたい人、生活を少し変えてみたいと思う人にも編集が力になる。情報を楽しく使いこなす「知」のナビゲーター、頼もしい師範代とともに54[守]で学んでみませんか。

 

文/石黒弘晃・石黒好美
写真/木村善則

 

◆イシス編集学校 第54期[守]基本コース募集中!◆

稽古期間:2024年10月28日(月)~2025年2月9日(日)

詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu

  • イシス編集学校 エディットツアーJapans

    2025年、イシス編集学校は開校から25年の節目を迎える。日本ISIS化を目指し、ISISエディットツアーJapansが、全国津々浦々で群島的編集力を引き出していくべく編集フェスを開催、乞うご期待。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。