2021年11月13日、参加する全員が「メディアと市場のAIDA」を学びあい、考えあう「Hyper-Editing Platform[AIDA]Season2」の第2講が行われた。
今回のゲスト講師は、「経済人類学」の視点から、メディアと市場についても考えている松村圭一郎さんと小川さやかさんの2人だ。
★松村圭一郎さん/エチオピアの農村社会などを研究し、くらしと市場と国家のAIDAを考える。『くらしのアナキズム』『うしろめたさの人類学』(ともにミシマ社)、『はみだしの人類学』(NHK出版)など、著書・共著書多数。岡山大学文学部准教授。松岡座長は、千夜千冊1747夜で松村さんの『うしろめたさの人類学』を取り上げている。
★小川さやかさん/タンザニアの路上商人や香港・チョンキンマンションの商人たちのインフォーマル経済を研究し、彼らの狡知(ウジャンジャ)に注目する。著書に『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)、『「その日暮らし」の人類学』(光文社新書)、『都市を生きぬくための狡知』(世界思想社)などがある。立命館大学先端総合学術研究科教授。
松村さんの講義、小川さんの講義の後、松岡座長を交えた鼎談、そしてAIDAセッションが行われた。
★★★松村さんは、「贈り物というメディア」「市場という自由の空間」「食糧援助にみる市場と非市場」について語った。●ニューギニア諸島の住人たちは、なぜ貴重そうに見えない赤い貝の首飾りや白い貝の腕輪を、これ以上なく大切な贈り物として交換するのか(クラ交換)。●クラ交換によって生まれる島々の共同体と、現代の私たちの共同体は何がどのように違うのか。●日本やエチオピアでは、贈り物と商品をどう使い分けているのか。●エチオピアの活気ある市場は、欧米や日本の資本主義と何がどのように違うのか。●エチオピア人たちは、アメリカが自分たちの都合で行う食糧援助をどう捉え、どう利用しているのか。松村さんは、自らいくつもの問いを立て、答えていった。
★★★小川さんが紹介したのは、タンザニアの路上商人たち、香港・チョンキンマンションのタンザニア商人たちの「ずる賢さ(ウジャンジャ)」と、独特のセーフティネットの築き方だ。彼らはずる賢く生きることを肯定し、特に金持ちと見れば騙して搾り取ろうとする。その一方で、困っている仲間や同胞がいたら、金を貸したり、職を紹介したりと親切にすることも頻繁にある。彼らは全員、ずる賢さと親切心を併せ持つ「グレー」な存在なのだ。そして、誰かが成功したら、親切にしてくれた周囲の人々に何かしら借りを返すのが礼儀となっている。彼らはこうして、騙し騙されながら助けあうインフォーマル経済のなかで、融通を利かせながらしたたかに生きている。
★★★つづく鼎談では、松岡座長と松村さん、小川さんが、インフォーマル経済と贈与とアナキズム(国家なき状態)をめぐって話し合った。「タンザニア商人は雇われるのが嫌いで、貯金をしない」「彼らは粋と野暮の世界に生きている」「アフリカのインフォーマル経済はリーダーを置かないから、マフィアがいない」「彼らが国家に望むことは、自分たちを放っておいてくれることだけ」「日本にも、セーフティネットとしてのインフォーマル経済領域があったほうがいい」「タンザニア人は不確実性を資源にしている」「一方で、日本社会は不確実性や死を無視している」「不確実性のおおもとは生命にある」などなど、記憶に残る言葉が次々に飛び交った。
★★★最後のAIDAセッションは、さらに座衆も加わって対話を重ねた。「以前は日本企業内にもタンザニア商人のようなアナキズムがあったが、コンプライアンスと内部統制で消失した」「タンザニア商人のネットワークのような水平的な組織と、会社のようなヒエラルキー組織のバランスをどう考えたらよいのか?」「アフリカにも王様はいたが、彼らは専制君主ではなく、規範から逸脱したら排除される存在だった」といった会話が交わされた。最後に松岡座長は、「日本企業は社員旅行や運動会、余計な部署などを、ムダなものとして捨てすぎた。横着、横柄、横取り、横議横行…。日本では『横』のイメージが良くないが、私たちはいま横とムダをあえて大事にすべきではないか」と締めた。
次回12月の第3講は、2日間にわたってとある場所をジャックし、座衆たち自身がメディアをとおして世界に発信する。お楽しみに。
米川青馬
編集的先達:フランツ・カフカ。ふだんはライター。号は云亭(うんてい)。趣味は観劇。最近は劇場だけでなく 区民農園にも通う。好物は納豆とスイーツ。道産子なので雪の日に傘はささない。
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