わいわいおしゃべりしているようだけど、イシスの学びを次世代に向けて本気でやろうとしている人たちが交わしあい、新しい仕事が始まろうとしている。その現場を「イドバタイジング」と呼ぶ。子どもフィールドの動向に寄せた松岡校長の造語だ。
9月21日に開催したイドバタイジングでは、塾を開いている人、子育て中の人、育ちの環境に関心のある人たちからリアルな声を聞いた。「遊びと学び」の現場に関わっている人たちは、何を感じ、どんなことを考えているのだろうか。佐々木局長と子ども支局の松井路代がインタビューした。
●参加者
●インタビュアー
子どもにしてあげたいことは山ほどある。何かひとつできても到底足りない気がする。そんな中で、イシスな面々が「ここ」とフォーカスしたのは?
佐々木
子ども編集学校を作っていく時の芽、ひっかかるところを探りたいと思っています。みなさんが関心をもたれているあたりをお聞かせください。
鹿間
孫ができてから、娘とは違うかかわりあい方が必要だと思っていました。それで、皆さんが子どもの学びを促進するためにどのようなことをされているのか知りたいと思いました。
林
娘の参加している森のようちえんでは、あえて導かずに、子どもが世界から遊びを引きだしてくる様子を見守ります。例えば、「たくさんの木の棒」。戦ったり、食べたり、遊んだり。それを距離をおいて見ているのはすごく面白いけど、まだ言葉が通じない子どもとのかかわり方や、遊びの引き出し方が雲をつかむようで。そこをスルスル引きだすとっかかりみたいなものを考えたいと思いました。
子どもとのかかわり方はいつも隔靴掻痒の感をまぬがれない。あと一歩先に手をのばそうとする二人は子どもフィールド全員の代弁者だ。
スタートダッシュの良かったフィールドだが、日を追うごとに回答数が減っていった。鹿間は、立場まぜまぜの面白さから最初の方はずっと見ていたが、途中からついていけなくなったと率直に漏らす。野村は自分の塾を運営している視点からプログラム構成について指摘した。
佐々木
自分でシステムを作っている野村さんは、フィールドをどうご覧になっていましたか?
野村
守や破と比べると、パッケージがフロー的だとかかわりづらさがあった。焦点が合いにくいと感じました。
子どもフィールドで自由な風をあびることはできたが、学びの夢中や加速には参加者のカマエをつくる設えが求められていることを痛感する。出題や話題の立て方、メディエーションにも編集の余地がある。この不足を「参加者の本気」にするきっかけとして転じていく。これもイドバタイジングの役割であり、チャレンジだ。
師範代のインストラクション・マニュアルのなかに「手繰る」という言葉がある。指南の手続きとしても、方法をモノにする上でも大事な要素だ。
野村は、言葉を生むために、イラストや手作業の共有フォーマットを使ったら良いという。松井も「おやこ絵本ワークショップ」をしていた時、手作業の大切さに注目していた。子どもは「手」で「たくさんの私」に出会っていく。
野村
僕の子どもは今、3歳半。「稽古」という場を作るのは難しいので、子どもから発せられた言葉から拡張してゲームにしてみたりするのですが、子どもがゲーム性で面白さを感じるのはどこだったかという交わしあいを子どもフィールドではしたいです。
佐々木
言葉が出るところ、表象化って、本当にそれをやらないと世界に出会えないとか、その先の生きるプロセスを組み立てられないといったところにもつながる話でもあります。「子どもは詩人」と言ってしまうのではなく、そこを拡張するために手を添えたいですね。
野村
最近「手ほどき」という言葉の意味は「アフォーダンス」に近いと考えるようになりました。そんな関わり方を子どもとできたらと思っています。
2014年に「一日だけの子ども編集学校」が開催された。専門の領域をもつ編集学校経験者が講師となり、学習的に触発される講座を作った。野村はそのひとコマを担当した。
「絵ふしぎの時間」
手ずから生けたお月見花が、あっという間に物語になった。
佐々木
パッケージにしてみなさんに体験してもらうプログラムを作るとき、欠かせない点としてはどんなことが必要と考えられますか?
野村
10月から再開する自分の寺子屋ではポモドーロ・テクニックという時間管理の方法を取り入れようと思っています。僕の目的は時間管理が第一ではなく、本人が集中してやったことを単位にして計るということです。それを使って、何単位進めたかというのを自分ノートに書いて、僕がハンコを押すというフォーマットを作る。内容ではなく、そういう取り組みの型が必要だと考えました。スケジューリングをすることで、何かをクリアしていく力がつくのではないでしょうか。
手ほどきしたり、手繰ったり、子どもだからこその方法談義。このあと、子育てあるあるな悩み相談へ。
松井
吉野さんは小学生の親の立場から、子どもと編集の学びの場が必要と思う点は何ですか?
吉野
息子は9歳。ゲームやYouTubeをいつ止めさせるか、という子育てによくある悩みがあります。子どもフィールドのお題もときどきやりますが、YouTubeを見るときの集中力には負けてしまいます。
佐々木
例えば、先ほどの野村さんのスケジュールツールだけ手渡されて、ポンと投げ出されたら、総力戦で何かに取り組まざるをえなくなるような気もします。
吉野
そうですね。環境作りという面でも子どもフィールドに期待しています。
学校に習い事にと表面的には問題なさそうだからこそ、引きだしにくい編集の芽。でも、学習や生きるうえでの大事なものを失っていっているような不安が常にある。そういう家庭は多いだろう。
野村は、サイバーカスケードの向こう側にいく方法として「YouTube DJ」をあげる。
野村
最近やってみて面白かったのはYouTube DJ。DJ(プレイヤー)となると、動画を「ただ見る」から「素材として見る」というように視点が変わります。例えば「どのような順番で見せるか」とか、見ている側もこのテーマなら「こんな動画を僕は知っている」とか。
また、子どもたちが見ているところに、大人がツッコミを入れて、「誰がどんな意図でこれを作っているか」というメタな視点を問うようにするというのも、情報の階層意識への手ほどきになるんじゃないでしょうか。
松井
うちでは数日前から、エディストの「オツ千」を真似してラジオをやり始めました。私が「パーソナリティの松井です」と言ったら、小2の娘が「レポーターの松井かよです」と名乗ったんです。YouTubeやラジオを聞きまくっていたら、「自分でもやってみよう」というのがうちでやっていること。
佐々木
校長もオツ千のファンで、ツッコミが良いと言っています。ツッコミが入って、えーっと、とおどろいてる間にいろいろな知識が入る。突っ込まれながら応じていく時に自分の中に起こる学びもある。
吉野家でもそういうのをアップしてくださいという松井に対し、さらなる悩みで食い下がるヨシノ。
吉野
そこに行くまでが問題なんです。親「作ってみよう」、子「なんで?」となった時に親がどうナビゲートするかというところ。親がうまく手ほどきできなければ、子どもはお客さん側に戻ってしまう。作り手側にいくための問感応答返を回すにはどうしたらいいの?という。そこに指南がほしいんです。
鹿間
たしかにそれは“編集かあさん”の松井さんだからこそできる導きであって、私にも難しいと思う。子ども編集学校の花伝所みたいなものがあれば、親も子も一緒に育つという感じでありがたいなと思います。
自宅で“子ども編集学校”ができている松井や野村のようにするには、どうすればいいのか? 子ども編集学校版の花伝所を作るとしたら、二人の方法をもっとイドバタイジングしなくては。
松井はツール使いの名人だ。特に絵本は、使った話も紹介も聞き手に響く。子どもと本をどう出会わせ、その後、どんな展開が可能なのか。
鹿間
松井さんの本の紹介で買ったんですけど、買っただけで終わってしまったので、それを活用していく方法のワークがあれば参加してみたいです。ラウンジに感想を書きこんだり。他の人の感想も見て、ノウハウも体験も参考にしたいですね。
林
みなさんが子どもと読んでいる様子を動画でシェアしてほしいです。読み方、声の出し方とか、子どもへの問いかけの仕方とか、それぞれ絶対に違うので面白いと思います。
自分と異なる読書風景に触れることは、それが新しい世界であるほど大きな体験となる。また、読書記録は、投稿者自身の変化の記録にもなる。異質な読書を独走する松井家のかたちを聞いた。
松井
うちは絵本書き込みOKにしてます。兄が書きこんで妹が読むというかたちになっています。妹が書きこんだものを兄が読むこともあります。特に、安野光雅さんの絵本は50回以上読んでいて、読み尽くしています。みなさんの家の本でも、ベースになっている本、タネ本になっているものがあれば、情報交換したいです。
野村
書きこむとモデル交換にもなりそう。誰かが書きこんだ後に読んで、一冊だけのみんなのノートができる。
松井家の書き込み絵本(『もじあそび』安野光雅著、福音館書店)
あ・いを囲ってハートマーク、や・まの囲みには山の絵と「上」が書きこまれている
本に書きこむというサイレントな交わし合い。ここにもツッコミ上等の精神があった。イシス式共読のワンシーン。
「絵本から遊びを拡張したい」という野村は、いかに拡張できるか工夫を交わすイドバタができたらうれしい、と今後を見据える。
イシス初! 親子三世代受講の鹿間家のみなさん
鹿間は多読ジムとの連携も期待する。発信することが苦手にならないためにも、小さい時から書いたことへのフィードバックがあるといいのではないかという。それに対して、野村からあるアイデアが提案された。
鹿間
孫が子ども編集学校に入ったら、発信する力、頭の中で思ったことを言葉にする力がつくといいなと。一般的な習い事では、書いたことを受けとめてフィードバックするということがあまりないんじゃないかと思います。
野村
読んでもらえるというのはいいですよね。子どもたちが書いたものを僕たちみんなが読んで、コメントをしてあげる。花丸だけじゃなくて、コメントがあればどう読んだかということが、そのままモデル交換で伝わる気がします。このイドバタがそのままオンライン塾になり、評価の場所になり、同朋衆になる。そんな場のしつらえはどうでしょうか。
佐々木
それについては、いろんなチーム化ができると思います。出張授業で子どもたちが作った本の帯のコンテストをやって、師範の人たちに評価役をしてもらって、それを学校のWEBに載せました。横綱、大関を決めて、理由も書いて。それだけで全然ちがう学びになることを先生たちも実感されていました。
「七夕エディッツ」のお土産にした七夕三冊を作った時も、依頼したみなさんが積極的におすすめの三冊を書いてくれた。編集学校のネットワークを活かした同朋衆システムは、未来の編集学校の大きな柱になるかもしれない。イドバタイジングから新しい「育ちの場」編集のかたちが芽生えた。
文:吉野陽子
イドバタ瓦版組
「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。
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