「地」を変えて、染まって楽しむナビゲーター 森川絢子の学校説明会レポート

2024/03/04(月)08:00
img

関東地方に冷たい雨の降る2月の三連休の最終日、午後2時前に次々と参加者がログインを始める。世界にひとつしかない「編集」を学べる学校とはどのような場なのか、それを知るためだ。「編集」を体験しながら学校の仕組みを伝える説明会は、2月25日の日曜日、ISIS編集学校の基本コース【守】の開講まで2ヶ月というタイミングで開催された。

 

「着替えが得意なかき氷」です。
そう自己紹介をしたのは、この日、学校説明会をナビゲートした森川絢子。現在進行中の51破の師範でもある。説明会はZOOMの画面越しとなり、PCに映る表情でしかナビゲーターの様子が伺えない。少し冷たく見えてしまうことを憂慮したのか、かき氷がシロップによって味を変化させるように、「場に合わせて何にでも着替えて染まれる、好奇心の旺盛な人」だと自己を表現した。これは、何かに「見立て」ることにより、イメージが立ち上がる編集方法のひとつでもあるのだという。

 

背には桃の花を挿し、編集の楽しさを伝えたい気持ちでいっぱいの森川は、柔らかい笑顔でやや緊張気味の参加者たちの好奇心をくすぐり始める。教室は8人から10人の受講者で構成され、「Edit Cafe」というオンラインの場で師範代と「お題〜回答〜指南」のやりとりを行うのだと案内し、過去に所属した教室を画面に投影して自身の回答を見せるなど積極的だ。そんな森川の説明会を「情報のアウトプット」に注目して、その質・間・可能性の三間連結でレポートする。


■ 編集でアウトプットの質を高める

 

「編集ってなんでしょう?」
森川が参加者に問いかけると、いくつかの答えが返ってきた。「編集学校」を知るには、まずはここから。参加者の答えは説明会への参加の理由でもあるはず。

 

・文やイメージを入れ替えて新しいものを作るプロセス。その結果、新しい何かができる。

 

・事実やアイデアを使って、目的をもってストーリーを作ること。狙いのある行為。

 

「なるほど。どちらもプロセスに注目したものですね」と応じた森川は、「編集」という語を様々に捉えた各界の先達のことばを引用してみせる。

 

 

”編集力で売上5兆円規模に”キャノン会長御手洗冨士夫


”生きるチカラ、それが「情報編集力だ」和田中元校長・藤原和博

 

どうやら、編集力は壮大な、”ビジネスも、人の人生も変えるチカラ”であるようだ。続いて、森川は『知の編集術』を確認してみましょう、と誘った。

 

ISIS編集学校の校長である松岡正剛の著書、『知の編集術』の一節が画面に映し出される。「編集」というとき、雑誌の編集などを思い浮かべることが多いが、ここではもっと広い範囲で使うのだという。参加者と一緒に読んだのは3つのキーワード「情報・編集術・編集工学」が出てくる部分だ。

 

このように、われわれのまわりにはさまざまな情報がいっぱい満ちていて、その情報がハダカのままにいることなく編集されているのですが、では、どのように編集されているかというと、これがなかなか取り出せません。

そこで、これらをいくつかまとめて取り出して、その取り出した方法をさまざまな場面や局面にいかすようにしてみようというのが「編集術」になります。また、そのようなことをあれこれ研究して、そのプロセスを公開することを「編集工学」といいます。

 

読み終わると、森川は、キーワードの言い換えを試みた。

「情報」とは、固定された住所情報のような、いわゆる「データ」だけではなく、気分、感覚、記憶、連想のような、ひとりひとり感じ方が異なる「カプタ」といわれるものも含みます。目にするもの、触れるもの全てを情報と捉えたとき、それをどう受け取って相手に伝えるか、その伝え方を方法や型にしたものを「編集術」といいます。さらに、それを社会全体に応用できる「知」にしたものを「編集工学」と言っています。その編集術を学ぶところが、イシス編集学校なのです。

 

続けて、「知」とは何か、の部分を声に出して読んでみましょう、と、参加者を促す。

 

このように、あれこれの情報が「われわれにとって有用な情報となること」をふつうは知といいます。情報をそのような「知」にしていくことが編集なのです。新聞や雑誌や映画の編集者がしていることも、そういうことです。

 

「知識」の「知」は情報のアウトプットなのだ。一方の「識」はインプット。昔は、識者が情報を知っていること=「識」に意味があった。今は、情報が容易に手に入るため、「知」の方に意味がある。だからこそ、情報のアウトプット=「知」の質を高めることが可能となる「編集」が重要になるのだという。

 

■ インプットとアウトプットのあいだに38の型がある


では、イシス編集学校ではどうやって「編集」を学ぶのか。次に森川が示したのは、インプットからアウトプットのあいだの情報編集のプロセスだ。

 

「編集」は、情報の収集、関係づけ、構造化、演出という4つのプロセスに分けられる。それぞれのプロセスで使われる「型」を身につけることによって「編集」を学ぶことになる。「型」には何があるのだろう。森川は、38の編集の型の一覧を持ち出した。それぞれの型には名前がつけられている。

 

 

学校説明会では、このいくつかを体験することができる。この日、38の型の中から、森川は情報収集の型である”「地と図」の運動会”を取り上げて、解説を始めた。情報には「地」の情報と「図」の情報がある、というのだ。「地」は情報をみる視点や背景のことで、「図」はその情報の背景のもとに立ち上がっている情報の意味をさす。これらが組み合わさってひとつの情報が形成されるのだと。持ち出したのはコップだ。

 

例えば、コップを分子に置いたときに、分母となる情報が変わると、コップの意味はどう変わるだろうか。

 

 

分子は同じコップだが、分母が変わっていくと・・・画面に映し出されるハテナのマークに、参加者からすらすらと答えが出てくる。

 

お店にあるコップは商品

 

コップが工場にあれば製品

 

コップが陶芸家の家にあれば作品


コップが洗面所にあれば日用品

 

同じモノなのに、「地」を変えると見え方がガラリと変わることに、参加者はすぐに気づいた。

「地」を意識して動かすと、情報のあらたな見方や意味の発見に繋がり、未だ見ぬ「可能性」を引き出すことができる。それが、「地と図」の関係なのだ。

 

■ 「地と図」からアウトプットの可能性を引き出す

 

「編集を学んで、仕事や生活で活かせることはありますか」という参加者の質問に答えるべく、森川は自身が仕事の場でも様々な場面で編集術を使っている例を挙げる。先に紹介した「地と図」の型もそうだ。例えば、会議中に話が合わないときなど、ズレた「地」を合わせるだけで、多くの場合、すれ違いは解消する。こうして、編集の型は日常的に使えるのだ。さらに、応用をしながら、仕事や就職活動にも活かせる、と2つの事例が紹介された。

 

〜「地と図」でD&I施策を考える〜

編集学校の外では、企業で人事を担う森川だが、多様性と包摂性を大事にしている。D&I(Diversity&Inclusion)を考えたときに、「地」を動かすことで広い範囲をカバーすることができたという。例えば、ジェンダーを「地」にして、女性活躍やLGBTへの配慮を考える、障がいを「地」にすると点字のパンフレットや字幕対応などの必要性に思いが至るなど、「地」をズラすことで、あらゆる視点から具体的な対策が考えられるのだ。

 

 

〜「地と図」で就職活動を考える〜

森川が以前、担当した【守】の教室の学衆(受講者)が、就職活動の際に、興味のあったインフラの分野を、様々な業種を「地」にして考えたと披露したのはこちらだ。インフラは生活を支える基盤で、一般には、ガス、水道、電気などを思い浮かべるが、業界によって、それぞれのインフラ設備がある。そう考えると、就職活動の範囲も、仕事の幅も可能性も広がったという。

 

 

こうして、編集のひとつの型だけでも思考の広がりを感じられることがわかる。アウトプットの可能性が広がるとは、このことだ。

 

最後に、15週間で38の型を使いこなすことができるようになるのか、稽古の時間を合わせられない日もありそうだ、という参加者の懸念に、森川は答えた。週に2つから3つのお題が出される【守】の稽古は、テンポ良く回答していくことで、それを可能にする。参加者は、ネット上でテキストをやりとりする教室で、それぞれの24時間をうまく使って、いつでも回答することができる。数日、ネットに繋がらなくても追いつけるし、海外からの受講者も多いという。

 

憂慮される個別の事情がある場合は、相談も受け付けている。「編集」が気になる方はぜひ、次の学校説明会にお申し込みを。
少人数での開催ゆえの丁寧な応接を用意して、イシスのナビゲーターが待っている。

 


  • 安田晶子

    編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。