いたるところに消毒液が置かれていて、外のものとはできるだけ距離をとって触らないようにして。
そんな時代に生まれた子どもたちは、外の世界にあるものをどんな風にみているのだろうか。
2ヶ月に1度開催される子どもフィールドの「オトナのための千夜千冊共読会」、8月の共読千夜は盛口満『シダの扉』だった。
「ゲッチョ先生」こと盛口満氏が沖縄に移住して土地の記憶と結びつくシダと出会い、シダに分け入って旅をする本だ。
今回の参加者は子ども支局メンバーの石井梨香、浦澤美穂、松井路代、吉野陽子と佐々木学林局局長。
交代で音読した後は、図解ワークに移る。
浦澤は「シダ」を中心にしたシソーラスをあげていった。
線で結ぶと、ちょっと植物っぽくなった。
石井は観察・解剖・生徒たちの対話で培われた「ゲッチョワールド」と、沖縄で見つけた扉を開けたことでさらに世界が広がっていく様を図にした。
「シダの扉」の鍵は、ゲッチョ先生が観察と探求の日々で育てたものなのだ。
松井は「何かが目の前にある→よく見る→それについての質問を投げる→疑問に対する解釈をしてみる→あらためて観察する→お題の
立て替え→調べてみる→比較する→仮説をつくる→ときに転換する→新たに観察の視野を広げる」というゲッチョ先生と子どもたちの編集プロセスを擬いた。
庭から猫じゃらしを一本取ってきて、スケッチしながらアタマの中で起こる事を記録する。
描くなかでそれぞれの部分をなんと呼ぶのか、どんな物語を持っているのか…とくっついている情報を知りたくなってくるのだそうだ。
吉野は南国のマングローブ林っぽい図解でモノと伝承がくっつく驚きを表現した。
ゲッチョ先生の方法、骨と解剖という幹を持つ木が、伝承・文化を根っこから吸収している。葉をみているとき、実は根から吸収したものたちも同時にみているのだ。
佐々木はゲッチョ・プロセスを横において、シダそのものと植物を鍵穴として扉をあけていくさまをリバースエンジニアリングした。
そして「世界と自分が遠くなっている今」だからこそ読みたい一夜だったと締めくくった。
目の前にあるものをよく見て、知りたいと思って調べて、根っこにあるたくさんの情報たちにも触れたとき、それらが自分が立っている地面とも繋がっていることがきっと感じられる。
浦澤がそう引き取ると、それを受けて松井がゲッチョ先生のエピソードを紹介した。
ゲッチョ先生がスケッチを始めたきっかけは「物覚えが悪いこと」だったのだそうだ。
「ゲッチョ・プロセス」も「うまく世界と繋がれない」という不足から出発していたのである。
うまく記憶に留めておけないというもどかしさが、観察して描くという別の方法に向かい、扉が開いた。
扉の鍵穴をみつける方法は一つではないのだ。
世界とあらかじめ遠い時代に生まれた子どもにピッタリくるものは渡してあげられなくても、それがあたりまえとなんとなく受け流してはいけないのかもしれない。
触れられない、近づけない不足は知りたいという注意のカーソルにきっと変わる。
知りたいを育てられれば、きっとどこかで扉は開く。
あらゆるものの根っこにはたくさんの情報がくっついているのだから、自分の鍵にはまる鍵穴もあるはずだ。
「オトナのための千夜千冊共読会」過去共読千夜まとめ
2021年6月 1540夜『想像力を触発する教育』キエラン・イーガン
2021年8月 772夜『ホモ・ルーデンス』ヨハン・ホイジンガ
2021年10月 1746夜『状況に埋め込まれた学習』ジーン・レイヴ&エティエンヌ・ウェンガー
2021年12月 1748夜『子どもの本のもつ力 世界と出会える60冊』清水真砂子
2022年2月 362夜『小学生の俳句歳時記』金子兜太・あらきみほ
2022年4月 1764夜『ホモ・デジタリスの時代』ダニエル・コーエン
2022年6月 1603夜『人工知能は人間を超えるか』松尾豊
2022年8月 1476夜『シダの扉』盛口満
イドバタ瓦版組
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