イドバタイムズissue.31 読書感想文ワークショップが市民講座へ【子ども編集学校】

2024/10/05(土)12:00
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イシス編集学校の「世界をまるごと探究する方法」を子どもたちに手渡す。

子どもも大人もお題で遊ぶ。

イドバタイムズは「子ども編集学校」を実践する子どもフィールドからイシスの方法を発信するメディアです。

 

 東京の西に、なだらかな狭山丘陵が広がっている。その自然豊かな地に蝉時雨の降る7月21日と27日の二日間、子ども向けの読書感想文ワークショップが開催された。
 講師はイシス編集学校子ども支局の得原藍師範。子どもフィールドの鈴木郁恵、景山卓也、鈴木恵子もサポート役として参加した。市の広報の募集で抽選に当たった小学校高学年の子どもとその保護者のペアが、公民館に集まった。

 りんごから始まる

 

 講師は「編集」という耳慣れない言葉を「連想」と「要約」という二つの言葉で丁寧に解きほぐし、手に持っていたりんごを最前列の子どもへ手渡す。
「りんごからどんなことを連想するかな?」
 読書感想文の講座なのに、なぜりんごなんだろう? とまどいながらも、子どもたちの目が輝きだした。参加者はりんごをリレーしながら弾む声を響かせる。
「酸っぱい」「硬い」「シャリシャリ」「アップルパイ」「白雪姫」「ニュートン」・・・
 講師はにこにこ頷いてコメントを挟み、ホワイトボードへ回答を書き込む。やがて気づけば「りんごの特徴」「りんごの加工品」「りんごが登場する物語」といった情報のスキームでグルーピングされたシソーラスの束が、ホワイトボードの真ん中に描かれたりんごをぐるりと取り囲んでいた。

手にりんご。ホワイトボードにはりんごのシソーラスがつながる

 

 読書へとつなげる

 

 じつはりんごは、本のキーワードの仮の姿だった。机に配られたワークシートの真ん中には、参加者が持参したお気に入りの本のキーワードを考えて書く空欄がある。書き込んだら、関連する言葉(ホットワード)を連想し、付箋に書いてはキーワードの周りに貼っていくのが次のワークだった。作業の手が止まらない子どももいれば、本をめくりながら親子で会話する姿もある。講師とサポート役のコーチは、声をかけながら各テーブルを回っていく。
 ワークのあと、講師が注目して取り上げたのは、今年の課題図書の一冊である『ぼくはうそをついた』(西村すぐり著 ポプラ社)に取り組んだ三人の回答だった。キーワードは「戦争」「うそ」「ぼくはうそをついた」と三人三様で、そこから広がるホットワードもそれぞれ異なっている。講師は「同じ本から三人が違った見方をしていたね」と語り、正解はないこと、読書は自由であり、読む人と著者とのあいだから生まれる唯一無二の関係であることを説明する。子どもたちの表情がぐっと変わった瞬間だった。

 


『ぼくはうそをついた』西村すぐり著、ポプラ社


 謎の四枚の絵

 

 休憩を挟んで始まったのは、四コマ漫画を並べ替えて物語をつくるという、意外なワークだった。
「この人は誰なんだろう? 四角いものは何かな? キラッて何だろう?」
 講師の問いが、みんなの連想のエンジンをふかす。漫画に描かれた「四角いもの」は参加者の自由な連想で、豆腐、布団、板、布などへと七変化していきながら、新しい物語を紡いでいった。講師は、生まれたてのいくつもの物語に潜む見立てやモード編集を取り出して評価し、どのような順番(構成)にするのかで、内容がまったく変わってくることを伝える。

 

 

カット編集術ワークシートより


 連想から要約へ

 

 仕上げは、連想で広げたホットワードから3つを選択し、順番を考え、本の紹介文をつくるPOPづくりの要約ワークだ。なかなか付箋を絞り込めない子どもや、紹介の文章が浮かばない子どもへ、講師とサポートコーチはテーブルを回りながらヒントをつぶやく。
「情報が似ていない3つを選んでみたら?」
「誰に紹介するかを考えて、話しかけるような言葉をPOPにしてはどうかな?」
参加者は生みの苦しみを味わいながらも、ワークを夢中で楽しんでいた。


 鑑賞会へ

 

 できあがった作品を部屋の後ろの机に並べ、鑑賞会が始まった。
 読んでいいなと思った作品には、感想を「いいね付箋」に書いて貼っていく。大人も子どもも互いの作品を熱心に読んでは、付箋へ思い思いに文字を書き込んでいる。
 やがてカラフルな付箋でいっぱいになったPOPを、子どもたちは席へと持ち帰り、宝物のようにカバンへしまう。

 

「いいね付箋」を貼っていく


 「おうちでPOPをもとに感想文に仕上げるときには、ぜひ本をはさんで親子の会話をしながら、お子さんの気持ちを引き出してみてください。そのとき、お子さんの言葉を大切に受け止めて、いろいろと言い替えながら問いかけてみると、新たな気づきが生まれてくると思います」
 講師は終わりの時間を惜しむように、とっておきの相互編集のための方法を参加者に贈った。


 参加者からの声

 

 講座のあと、子どもたちから「連想が楽しかった」「書きかたがわかったので書いてみたいと思った」といった、ワークの面白さや、これから先への意気込みを語る感想があった。
 保護者からは「うまくイメージを膨らませる言葉を子どもにかけられるヒントをもらった」「大人にとってもためになる内容だった」など、本を通して親子がともに学び、かかわりあえる喜びが伝わる感想が語られた。
 編集術を使った読み書き講座は、本とのかかわり方を変えていく方法の伝授。それは周りの世界とのかかわり方を広げ、深めていくことへと、きっとつながっている。


文:丸洋子
写真:鈴木郁恵、鈴木恵子
編集協力:松井路代

 

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  • イドバタ瓦版組

    「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025