宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

イシス編集学校の「世界をまるごと探究する方法」を子どもたちに手渡す。
子どもも大人もお題で遊ぶ。
イドバタイムズは「子ども編集学校」を実践する子どもフィールドからイシスの方法を発信するメディアです。
とてつもなくおおきいかぶ
53破突破を祝う感門之盟において、後半の「橋がかりトーク」一番手は、多読アレゴリアよみかき探Qクラブだった。
松岡正剛校長の千夜千冊1540夜「想像力を触発する教育」のイマジナティブ・アプローチを劇仕立で伝えること、15の視点の一つ目が「できるかぎり「物語」を重視する」であることが紹介された後、得原藍[師範]が、今から演じる物語のタイトルをコールする。
「おおきなかぶ。トルストイ 再話 、うちだ りさこ 訳、さとう ちゅうりょう絵」
黒い帽子、白い髭のおじいさんが舞台に出てくる。
マイクが、得原師範から小4のカズマくんに渡る。
ナレーターを務めたカズマくんと得原師範
おじいさんが、かぶの たねを まきました。
「あまい あまい かぶになれ。
おおきな おおきな かぶに なれ。」
あまい、げんきのよい、とてつもなく
おおきい かぶが できました。
おじいさんは、育ったかぶの大きさに驚く。これはとんでもない「例外」だ。「極端な事例」だ。
葉をもち、抜こうとするが、抜けない。頭をかかえる。
「謎」だ。
抜けたら、すばらしいことにつながる予感がする。
黒い帽子、白い髭のおじいさん
「対」でつながっていく
約100名の観客が注目する中、おじいさんはおばあさんを呼んだ。おばあさんがおじいさんをひっぱり、おじいさんがかぶをひっぱる。
「うんとこしょ どっこいしょ。」
それでも、かぶは ぬけません。
「対」の関係であるおじいさんとおばあさんは顔を見合わせる。
おじいさんと顔を見合わせるおばあさん
おばあさんは孫を呼びに行く。
孫がおばあさんをひっぱり、おばあさんがおじいさんをひっぱり、おじいさんがかぶをひっぱるが、まだ抜けない。
おばあさんと孫は顔を見合わせる。
まごはいぬを呼びに行く。いぬはワンワンッとやってきた。
それでも、まだ、抜けない。
いぬはねこを呼んでくる。ふわふわの白ねこがやってきた。
ねこが加わって、どんどん列は長くなるけれど、まだ抜けない。
ねこはねずみを呼びにいく。ねずみはチュウチュウッとやってきた。
対が対をよび、列が長くなっていく
うんとこしょ どっこいしょ
ねこは、ねずみを よんで きました。
ねずみが ねこを ひっぱって、
ねこが いぬを ひっぱって、
いぬが まごを ひっぱって、
まごが おばあさんを ひっぱって、
おばあさんが おじいさんを ひっぱって、
おじいさんが かぶを ひっぱって、
「うんとこしょ、どっこいしょ。」
韻とリズムとパターンの力で、みながかたずをのむ中、ついにかぶが抜けた。
おじいさんたち、勢いでしりもちをつく。
かぶが抜けた瞬間
立ち上がり、力を合わせて抜けたかぶを運ぼうとした時、ナレーターのカズマくんが満面の笑顔で飛び込んできた。
一緒に見えないかぶに手を添える。
「うおお! 重すぎ!」
「葉っぱをひっぱる方がいいんじゃないですか?」
おじいさんは、助っ人の飛び入りに一瞬驚いた様子だったが、目を細めて、葉っぱのあたりを指す。
よいしょ、よいしょと、見えないかぶが舞台袖に運ばれた。4人と3びきは、飛び上がったり、ハイタッチをしたり、「やった!」と喜びあった。
観客からもどよめきと拍手が起こった。
息をあわせて運ぶ
おじいさん、帽子と髭をとる
おじいさんの背筋がのび、黒い帽子と白い髭がとられた。
おじいさんは、よみかき探Qクラブの書民(ナビゲーター)である松井路代だった。
おばあさんは吉野陽子、孫はゴウくん、いぬは上原悦子[師範代]、ねこは青井隼人[師範代]、ねずみはよみかき探Qクラブメンバーになったばかりの高橋仁美さんが演じていた。
松井がマイクを手に、語り出す。
おじいさんを演じていたよみかき探Qクラブ書民・松井路代
「松岡校長が重視したことの15番目は、想像力を育む認知的道具の大半は<日々の生活>のなかにある、でした。かぶを抜くという「日々の生活」の中の行為で、ヒト、特に子どもたちの認知的道具が育まれます」
見えないかぶの重み
「抜けた時、喜びが爆発しました。松岡校長とイーガンは感情も重視しました。感情と学習は不可分なのです」
息継ぎして、続ける。
「認知的道具、つまり世界の見方が育まれる機会を奪わないこと、その必要性を言語化して知にして発信していくことがクラブの深い目的です」
マイクがふたたび得原[師範]に渡る。
「この劇の稽古の最中、子どもが言いました。『このカブ、抜くのも大変だったけど、切るのも食べるのも、これからもっとたいへんなんじゃない?』物語で、想像力が触発された瞬間でした」
この言葉を聞きながら、松井は、さっきのカズマくんの「重いっ」というひとことを思い出していた。
シナリオを書いていた時に予想していた以上のコトが起こったのだ。
編集視軸15「想像力を育む認知的道具の大半は<日々の生活>のなかにある」
愉快に生きるための言葉と心と体
吉野が、クラブでは、絵本と児童文学と教育・学びに関する本をクロス読みすることを案内した。
松井は、一人では、深い読書はむずかしいということをどうしても伝えたかった。
さっきの「重いっ」は、体で読書したということだ。6人のキャストと2人のナレーターが集まって、7分間にわたって物語世界をレプリゼンテーションしたからこそ、出てきたひとことなのだ。
ねずみ役・高橋さん(左)は、ねこ役・青井隼人[師範代](中央)
の教室の学衆で、クラブメンバーとはこの日が初対面
「誰かとともに読み、湧き上がった感情、よみがえった幼な心をワイワイ交わしあうことで、編集の型が自分の一部となって行きます。エディットカフェだけでなく、公民館、寺子屋など、いろいろな場で編集を起こしてきました。ぜひ、ご一緒しましょう」
愉快に生きるための言葉と心と体をつくるには共読が絶対に必要であるということが伝わることを強く念じながら、締めくくりのメッセージを観客に届けた。
A・トルストイ 再話 / 内田 莉莎子 訳 / 佐藤 忠良 画
福音館書店
information
◆イシス編集学校子ども支局が運営する多読アレゴリア「よみかき探Qクラブ」では、共読や編集術ナビゲーションの方法共有、研鑽をしています。
次期の募集は5月を予定しています。
◆子ども支局のワークショップや出張授業など「子ども編集学校」活動に興味がある方は、kodomo@eel.co.jp までお問い合わせください。
エディット・カフェの子どもフィールドラウンジにご登録いたします。(無料)
◆子ども編集学校プロジェクトサイト
https://es.isis.ne.jp/news/project/2757
文:松井路代
本文写真:木藤良沢
アイキャッチ画像協力 中村裕美
イドバタ瓦版組
「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。
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コメント
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2025-09-18
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「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
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豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。