ズラして「才」を引きだす「型」の世界への誘い【1月10日学校説明会レポート】

2024/01/14(日)20:00
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世界は偶然に満ちている。根拠のない楽観ばかりか、どんなにデータを集めて対策しても安全神話は崩れる。「まさか」は現実になると誰もが知った2024年の幕開けは「編集」の重要性に気づかされた年明けともいえるだろう。

 

令和6年能登半島地震の被災地に積もった雪が雨に変わる、そう天気予報が告げた1月10日の夜、イシス編集学校の年明け第一弾となる学校説明会がオンラインで開催された。ナビゲーターは「才」を引きだす力に定評のある若林牧子師範だ。食と農のコーディネーターとして東京で暮らす彼女は、能登半島地震で富山県の実家が揺れ、そこにひとりで暮らす母を心配したと明かした。

 

だが若林は、編集学校の校長、松岡正剛の「平時に有事を持ち込む」という言葉を引用し、こんなときだからこそ「編集」が必要だと姿勢を正す。「不測の事態である有事を創発の機会として、平時の中で引き取っていきましょう」と、凛として続けるナビゲーションに参加者は惹き込まれていく。


■お菓子で「見立て」るわたし

 

「お菓子なワタシで自己紹介をしましょう」

フレンチの達人マキコ・カジョリーヌこと若林師範らしい問いかけに、参加者は早速、自分をお菓子に喩えはじめる。自分の「らしさ」をお菓子にして自己紹介をするのだが、お菓子にはなんらかの形容詞をつけてみよう、というルールだ。早速、前のめりに回答したのは大阪からの参加者Hさん。

 

”わたしは、あんことおかきのミルフィールです”  ・・ Hさん

あんことおかきを重ねて更に層にしたという。「柔らかさと硬さを併せ持つ大阪のおばちゃんです」と、笑いを交えた自己紹介となった。

 

”わたしは、抹茶味の雪見大福です”        ・・ Tさん

外国公館にお勤めで、海外と日本の間の貿易促進を仕事としているとのことで、和洋折衷を雪見大福で表現したのはTさん。静岡生まれだから味付けに抹茶を使ったという。HさんもTさんも郷土愛に溢れた回答となった。

 

”わたしは、ミルクがつまれたブラックコーヒーです” ・・ Nさん

学校の先生だというNさんは、生徒に厳しく対峙しないといけないものの、時には甘く接することも必要だと、ご自身をミルクを積んだブラックコーヒーに喩えた。ブラックとはいえ、やはり、生徒のためにコーヒーは温かいのだろうと思わせる温厚さが滲み出るNさんだった。

 

短時間で自分の「らしさ」をお菓子で端的に表現した参加者の回答には感心させられる。圧倒されたという若林は、これは「見立て」という方法だったと明かす。松岡正剛校長が日本のイメージメイキングの王者であるとも言う「見立て」は、古来から日本の方法だった。例えば、枯山水は、白砂や小石を敷いて水面に見立てる日本の庭づくりの方法のひとつだが、「見立て」の代表といえる。松岡正剛著『見立て日本』も参照されたい。

 

全員が自己紹介を終えた頃、場の空気に変化が見えた。ZOOM画面越しにも参加者の表情が一気に柔らかくなったのがわかる。実際の講座でもオンラインで顔を合わせる機会があり、テキストだけでない交流が稽古の力になる。複数人で交わす雰囲気を感じられるようにと、身内の師範にもワークへの参加を要請したのは若林の思惑だった。

 

■「型」で生まれるアイデア

 

編集学校に入学すると、最初に【守】のコースで学ぶことになる。【守】では情報編集のプロセスを4つに分け、それぞれに使う型を38題のお題にして用意している。この型を使えば思考のプロセスが改善され、インプットされた情報を高速に、スムーズに、アウトプットできるようになるのだ。

 

 

私たちの頭の中のぐにゃぐにゃしているものが、4つのプロセスを意識して、情報の型を使うことによって、相手に伝わりやすく、魅力的な発想となってアウトプットできるようになり、仕事の企画にも使えるようになります。そこまでを目標としてカリキュラムができています。

 

若林は情報の収集→関係づけ→構造化→演出という4つのプロセスをそう説明した。【守】のコースは、それをさらに38のお題に細分化して段階的に学べるようにできている。学校説明会は体験型だ。ここで、若林のテンポ良い語りは、実際に「型」を体験するワークへと参加者を誘う。

 

■「ズラし」で気づく可能性

この日は、38のお題のうち、赤いマルで囲った5つの型に触れたワークに取り組んだ。最初に取り上げたのは、お題04「地と図の運動会」だ。地=分母が変わると、その上にある図=分子が同じでも変わって見えるというもの。同じモノを見ていても、地が違うと見える風景が全く違う。例えば、キッチンで見るコップは水やお茶を飲むものだが、店にあればコップは商品となる。もしも、コップが砂場にあったら?・・スコップの代わりにもなりそうだ。

「砂場にあったら?」と急に聞かれ、最初は返答に困った参加者も、地をズラしていくことで見え方が変わることに気づいて面白がる。それに、必ずしもスコップが正解というわけではない。「コップの素材が紙や木だったら?」と連想も広がる。この後のワークでも、何度も「ズラしてみましょう」と若林はヒントを出した。視線が変わると急にたくさんの可能性が見えてくることに参加者の目は輝き、最後のワーク、お題25番「即答ミメロギア」では次々と回答が集まった。

 

「地」をズラして視界を広げ、「才」を引きだす「型」の世界がここにある。別様の可能性を探る、編集の「型」に興味を持たれた方は、ぜひココで体験していただきたい。次回の学校説明会は1月28日に予定されている。ナビゲーターはもちろん、イシスのアイドルだ。

 

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【守】のコースに参加するのは10代から80代までと年齢層は広く、小・中学生から教師、医者、音楽家に主婦、と属性も様々だ。1つの教室は8〜10名で構成される。多様な視点をもつ仲間と共に15週間の編集稽古に挑まんと思う方々は、こちらからお申し込みを。


  • 安田晶子

    編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。