蛹の胸部にせっかくしつらえられた翅の「抜き型」を邪険にして、リボンのような小さな翅で生まれてくるクロスジフユエダシャクのメス。飛べない翅の内側には、きっと、思いもよらない「無用の用」が伏せられている。
日本の古典の難解な作品を読み解こうというのが輪読座だ。輪読師であるバジラ高橋(高橋秀元)の図象を手すりに、声を出して読むことで解読力を高める。だからこそ、初見では読み方すらわからないような難読古典を取り上げてきた。
今季の輪読座は一味違う。講座の開催をオンライン仕立てにしただけではない。輪読座「世阿弥を読む」第二輪では、なんと「絵図」すら読む対象にした。
絵図を観るのではなく、読む。
輪読師バジラ高橋が選んだのは『二曲三体人形図』だ。能の基礎が「二曲」と「三体」の上に築かれると示した「二曲三体事」を、絵図を用いて説明した能楽論である。「二曲」は舞・歌であり、「三体」とは、気品の表現である老体、美そのものの結晶である女体、動きのおもしろさの軍体をさす。『二曲三体人形図』には、「三体」も含むさまざまな風体ごとに立ち姿や舞姿が描かれ、演じるときの心持ちや演技のあり方が具体的に示される。能の稽古の基礎「三体」から『二曲三体人形図』は始まる。

『二曲三体人形図』の絵図抜粋。左から老体、女体、軍体。
絵図もあるし内容も読みやすいからすぐ読もう! と、ならないのが輪読座。
第二輪でも輪読の前に、バジラ高橋オリジナルの図象解説が行われ、『至花道』と『二曲三体図』について語られた。

『至花道』は、「二曲三体事」などを通じ、能の本質や構造を説き、「体用事」では概念を生み出す「体」と、そこから派生する「用」まで指し示す。「体」は「型」であり真似ぶべきもの、そこから生じた「用」は型ではない。
いつの時代も真似、模倣はおきる。バブル時代、日本でシャネル・スーツが一世を風靡し、街中に「シャネル風スーツ」の女性が多くあらわれた。残念なことに、彼女たちが着ている服にはココ・シャネルの美への哲学、方法までは模倣されていなかった。「用」だけを真似て、根底にあるモデルや型を見逃していたのだ。
室町時代に世阿弥は、「体」と「用」の違いを示し、稽古で何を学ぶべきかを説いた。バジラ高橋は参加者に学ぶとは何かを提示するため、世阿弥とのインタースコアを起こしたのだった。
バジラ高橋は、読んで受け取ったものを図示することにも重きを置いてきた。講義中の図像ワークだけでなく、講義後の宿題として、読んだ内容を1枚の図像にまとめさせている。図像にすることでイメージが残り、記憶に残る。つくった図像が無くても、誰かに内容を話せるようになったら読書が完了だ、とバジラ高橋は語る。
図や絵の力を用いるのはバジラだけではない。
ルドルフ・シュタイナーが講義にドローイングを用いたのも有名であり、松岡正剛校長も校話のおりに黒板にチョークを走らせる。視覚からも情報を取り入れることで思考はスピーディーに深化する。バジラ高橋は絵図の力を意識して『二曲三体人形図』を取り上げたに違いない。これぞ松岡校長に「学者10人力」と言わせたバジラ高橋のワザなのだ。

オンライン開催にも慣れ、意気揚々と語るバジラ高橋(左)と、バジラの知を吸収しようと貪欲な吉村林頭(右)
イシス編集学校唯一のリアル読書講座「輪読座」には、このようなバジラ高橋の知が、そこかしこに張り巡らされている。日本という方法をとらえながら、絵図さえ読もうと輪読座は進化している。古を稽えながら、講座の新しい風姿を絶えず作っているのだ。
変わりつづける輪読座。次回、第三輪は6月28日(日)だ。バジラ高橋が知の渦を用意してあなたのお越しをお待ちしている。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
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岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)