発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

■年の始めのためしとて
時代は進む。物語は変わる。もう作れない映画がある。雪のちらつく大晦日のゆうべ、NHKラジオで校長松岡正剛とヤマザキマリ氏が対談していた。日中戦争で28歳にして戦死した山中貞雄監督の遺作「人情紙風船」を例に、寄る辺ない悲しみを描いたあの映画は、もう現代では決して作られることはないだろうとヤマザキ氏は語る。その理由を問う松岡に、ヤマザキ氏は「ハイクオリティの悲しみを感じられる人がいなくなったからじゃないですか」と間髪入れずに答えた。
イシス編集学校47[破]では、物語アリスとテレス賞のエントリーが1月9日夜半に締め切られた。課題映画5作品から1作を選び、その物語構造を取り出し、その骨格に肉付けして3000字の物語を書きあげるこの稽古は、破のなかでも屈指の難関だ。
年があけて1月1日深夜3時、親戚と年越しを祝ったその手で、学衆T(時たま音だま教室)は物語の翻案方針を提出。元旦になれば、「人情紙風船」を見ながら年を越した師範代山口イズミ(泉カミーノ教室)が、年の始めのためしとてと歌いながら指南に励む。
年末年始を返上しての回答・指南の応酬に、律師八田英子は「お年玉のよう」とつぶやく。渡すほうは嬉しくもあり、苦しくもあるポチ袋。イシスのお年玉には、未知にのネガティブ・ケイパビリティが満ちていた。
■初日のひかり さしいでて
元日、大阪の生國魂神社への初詣から帰った北原ひでおは、307夜「説経節」の千夜を破魔矢のように携え勧学会に現れた。「モノをカタルとは、『語る』でも『騙る』でも『象り』でもあります。もともとは、琵琶法師や説経節のように声の象りも物語の一部でした」
説経節を聞いていると胸がつぶれる。あの声、あの節、あの絞りだ。[…]
説経節は哀切きわまりない。それだけでなく主人公や登場人物の一部が予想をこえる宿命に冒されている。たいていは身体を冒されている。千夜『説経節』冒頭
学衆たちは、5作の映画から「英雄伝説」の型をそれぞれ読み取った。稽古をした者は知っている。英雄といえど、完全無欠な強者ではないことを。むしろ、欠けたものや負を背負うからこそ、物語世界を動かさざるを得ない力が生まれ、世界の裂け目を超えてゆける。もともと、「カミ」は「カゲ」と対であった。ミタマノフユに47破学衆はお雑煮そっちのけで、父無し子ルークの抱えるダークサイドと対峙していたのであった。
いま「いたわしさ」という言葉はすっかり死語になってしまった。ぼくは、その「いたわしさ」のためだけのカタリとフシを今日の日本のどこで聞けばいいのか、まだわからない。
千夜『説経節』結句
参考千夜
451夜『正月の来た道』大林太良
307夜『説経節』荒木繁・山本吉左右編注
1215夜『日本語に探る古代信仰』土橋寛
協力:北原ひでお
【47[破]物語アリスとテレス大賞】課題映画ランキング
物語AT賞、エントリーは、全80名中58名。どの課題映画が人気だったのか?!
1位 ミッション・インポッシブル 15名
2位 男はつらいよ 14名
スター・ウォーズ 14名
4位 クレヨンしんちゃん 6名
5位 エイリアン 6名
毎期人気を誇るスター・ウォーズを、ミッション・インポッシブルが僅差で上回る意外な展開。課題映画のなかでもっとも複雑な人間関係を理解し、翻案できたか、講評が待たれる。選評会議は今週末16日(日)。A4用紙244枚が選評委員11名の手元に積まれている。
■課題はこちらの5作
神話がルークを生んだ!物語づくりはSTAR WARSに学べ【46破 物語 課題映画リスト】
■学衆はどんな物語を書いたのか
■祭りのあとこそ振り返れ
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。