▼怒涛の卒門から約一か月前、一月十四日の見聞録である。52[守]の合同汁講が開催された土曜日、全9教室から学衆や師範代、[守]指導陣にマレビト花伝師範らも連なって総勢46名が本楼に参集した。師範ロールの醍醐味は、フェーズの異なる講座に顔を出したり、編集学校のいまを横断的に俯瞰できること。何をおいても花伝所から送り出した師範代の勇姿に立ち会う愉しみがある。
▼豪徳寺にある「本楼」は本の楼閣を象徴したものでワークに没入するには格好の場所となる。同日汁講が9つも折り重なって本というメディアを貪る一日。三部に分かれた寄合のハコビ・つながり・ダンドリは、独特の空間構成と汁講コンテンツを活かすべく周到にコーディネーションされていた。師範代らはホストとして次第のプランニングから、当日のリハーサルまで念入りだ。編集学校の師範代になると教室のほかにも、勧学会や汁講といった別の場を仕切り、企画発案したり調整するスキルも身に着くよう出来ている。この日は[破]のプログラムで培う、ハイパーミュージアムの構想力が充分に活かされた。
▼冒頭「用法4の大海原へ~」と激励する鈴木康代[守]学匠から、次に進むべき[破]を見通したメッセージが込められた。大航海の先に何があるのか。モードチェンジは用法4後半の、お題の変調ぶりにもみてとれる。アウトプットが圧倒的に増えることも勘のいい学衆ならピンと来ただろう。[守]を終えて、まだまだ物足りないと感じたら、それは進破のサインだと受けとってほしい。
▼花伝所は師範代を養成するプログラムを提供しているため、自然と観察ブラウザーがはたらき、師範代になっていきそうな学衆のふるまいにもアテンションが向く。ユニークネスや課題意識は、絶好の編集機会だ。早々に進破を決めていた学衆や古典数奇を語るもの、現代演劇のインプロビゼーションに編集思考素をかさねる輩まで、学衆の突出ぶりは好機に映る。夫婦受講で編集力を磨き喫緊のプロジェクト実装に活かしたいという、快活な学衆はすでに師範代オーラが漂っていた。前のめりな姿には感染力が宿り、まわりも熱くする。
▼子どもの教育や新しいプラットフォームに焦点をあてる学衆が少なくないことも特筆だ。スパンの長い子育ても、不確実な世の中を生きることにも、編集力が効く。「すぐに答えを出さないこと」、「わからないことをわからないまま包摂する」ケイパビリティが必要だからだ。共感できそうにないことに耳を傾けたり、違和感も異質も、編集契機として多様性を受容するきっかけになるだろう。共振する場こそ、学びの種が詰まっている。学校といえば、参加者の間で軽井沢にある風越学園がにわかに話題にのぼっていた。
▼かわるがわる本棚の説明をする師範代たちのふるまいは従容で、緊張しつつも誇らしげで、それぞれの顔に喜色が滲んでいた。はじき・おはじき教室/野崎和彦師範代は、テンポよい軽快な場回しで終始和やかに対話を促す。傍で見守る小椋加奈子師範は師範代から錬成師範、そして今期52[守]の師範へと次々ロールチェンジし、チーム師範のふるまいでその先を照らす。学衆だけでなく、自らも敢えて変化に向かっていくのが編集学校の特色だ。この日の客人はかつての45[守]師範を担当し、今期40[花]むらさき道場から嶋本昌子花伝師範も見守った。一期一会のあとさきには、かならず再会が待ち受ける。
▼昼すぎに始まった4教室合同のワークショップの目玉といえば、”跳躍52[守](Go To Adventure)3冊トラベル“と題された3冊の本の選択と、そこからキーワードを抽出しネーミングする編集ワークだ。「自分と関係がない本」を選ぶことで、世の中にないものをつくるというお題が投げられた。校長ヴァージョン教室の名を冠した町田有理師範代がこしらえた。図解も指南も「世界制作」の信念からブレないリプリゼンテーションが持ち味だ。この問いは、学衆の頭の中を大いに揺さぶった。
▼印象深いのは、新しい世界にふれたときの子どものような表情だ。学んだばかりの型を使いお題と偶然を掛け合わせて、想定外のアウトプットをなんとか絞り出す。千離衆から師範代へ着替え、39[花]の花伝所恒例キャンプでは一気呵成の活躍をみせたノート結索教室/大和丈紘師範代は、柔和なナビゲーションで粒揃いの学衆を盛りたてた。
▼新しいモノや見方をもたらすには、良好な関係性を築いたり、教室や場での“傾聴力”が武器になる。わずか半年前に39[花]わかくさ道場を放伝し、群を抜くスピード回答で圧倒的な筆力をみせていたカミ・カゲ・イノリ教室/内村放師範代の亭主ぶりも眩しい。難解なことを「教える」のではなく萌芽的に、発見的に手渡す方法に磨きがかかる。
▼濃縮された時間に、本と対話によるインタースコアにいそしむ一日。共振力が随所にあふれる汁講は、あっという間に過ぎていった。変化よりも“変容”をうながす学び。編集学校のプログラムが深遠なのは、視野や視座そのものが変化するからだろう。卒門の[守]から未踏の[破]、そして花伝所へと汁講文化は受け継がれ連環する。ここで宿した種は、それぞれの蕾となっていつか花になるだろう。卒門・突破の先へ、編集に焦がれる学衆を次の門が待ち受ける。
写真/阿久津健(52[守]師範)
平野しのぶ
編集的先達:スーザン・ソンタグ
今日は石垣、明日はタイ、昨日は香港、お次はシンガポール。日夜、世界の空を飛び回る感ビジネスレディ。いかなるロールに挑んでも、どっしり肝が座っている。断捨離を料理シーンに活かすべくフードロスの転換ビジネスを考案中。
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