花伝式部抄::第13段:: スコアからインタースコアへ

2024/05/21(火)08:10 img
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花伝式部抄_13

<<花伝式部抄::第12段

 

 「発言スコア」は、学衆や師範代の「ふるまい」を定量スコアする試みとして始まりました。そして、その試行を重ねるなかで得たフィードバックの一つは、計測され可視化された数値データが、意図しないアフォーダンスをもたらすことでした。

 それは、数値による「ふるまい」の可視化が、暗黙裡に「適正値」の存在を予感させてしまうということです。もしも発言スコアを不用意に編集稽古の現場に持ち込めば、学衆や入伝生の編集的なふるまいは数値データによって適否を評価され、「正しい編集」のための「正しいふるまい」を指導され、個性的な編集は矯正されることになってしまうでしょう。数値データは、良くも悪くも「評価」を保証する威力を持ち過ぎるのです。

 

 そうした懸念があったため、これまで発言スコアを無闇に開示することを控え、私自身が[29花](2018年)以降は[守]から[花伝所]へ移籍したこともあって、水面下で花伝所の入伝生を対象に試行錯誤を重ねてきた次第です。

 

 下に、花伝所での「式目演習スコア」を紹介してみましょう。

 花伝所は「師範代養成講座」としての特性上、カリキュラムのなかで学衆ロールから師範代ロールへの着替えが求められます。ですから、放伝生が師範代登板した際にどの程度の編集パフォーマンスが期待できるかをシミュレーションできるようなスコアを考えました。凡例で示したように、丹念に集計した基礎データを基に「e-指数」を算出したところが私なりの工夫です。「e-指数」は、初期に構想していた「問感応答返率」の進化形です。

 

式目演習スコア

式目演習スコア

(↑クリックすると大きく表示されます)

 

凡例1:基礎データ

 道場

応答速度
 各課題の出題から初応答までの日数(即日回答は1とカウント)
発言数
 不規則発言を含めた全投稿数(削除された投稿は除く)
関係量
 演習本体,振り返り,FB,宛名,署名を除いた1投稿あたりの発言文字数
考察量
 振り返り及びFBの、1投稿あたりの文字数(コピペ引用は除外)

 錬成場

指南速度
 回答から初指南返信までの平均日数(即日指南は1とカウント)
発言数
 ラウンジへの全投稿数(削除された投稿や修正投稿は除く)
自由発言量=自由発言量累計÷発言数
 指南本体,振り返り,FB,宛名.署名を除いた、冒頭挨拶,マクラ,ナビゲーションの1投稿あたりの発言文字数
指南量=指南量累計÷発言数
 稽古ポイント,引用文を除いた、指南本体の1投稿あたりの発言文字数
FB(フィードバック)=FB量累計÷発言数
 振り返り及びFBの、1投稿あたりの文字数(コピペ引用は除外)

 

凡例2:e-指数(教室編集力を測る指数として)

 道場

冗長度=関係量÷(関係量+考察量)
e-馬力(発言頻度)=発言数 ÷ 応答速度
e-トルク(言語発信量)=発言頻度 ×(自由発言量+考察量)

 錬成場

冗長度=自由発言量 ÷ 指南量
 指南量に対する自由発言量の比率
e-馬力(発言頻度)=発言数 ÷ 指南速度
 単位期間(=1お題サイクル)あたりの発言数

 →(師範代登板した際の「担当可能学衆数」をシミュレートする指数として
e-トルク=冗長度 × 発言頻度 ×(自由発言量 + 指南量 + FB量)
 単位期間あたりの言語発信量

 →(師範代登板した際の「期待できる情報発信力」を測る指数として

 

 編集稽古における「評価」について、花伝式目は「編集的価値の描出」であると教えています。「描出」という語によって示唆しているのは、評価が価値の優劣を格付けする方向へ向かうことを戒め、「評価」という文字通りの意味において「価値の多様」を「可能性の拡張」へ転換しようとする編集姿勢を求めるところにあります。

 したがって発言スコアの数値データを、入伝生の優劣を評価する材料とするのではなく、「編集的な個性エディティング・キャラクター表れ」として捉えることが「式目演習スコア」のねらいです。

 

 そこで、数値データによって短絡的な一喜一憂を招いてしてしまわないように、実測値から偏差値を算出して示すことを考えました。実測値は絶対量を示しますが、偏差値は相対的な差異の度合いを表すからです。

 言うまでもなく「編集八段錦」の1〜3段は情報的自他の差異を共読するプロセスについて記述していますから、式目指導のなかで偏差値を効果的に提示することが出来れば、入伝生に編集八段錦の起動を促せるかも知れません。ひいては編集的自己の自立を導くことに繋げて行ければ注文通りです。

 

 さらに、入伝生個々のエディティング・キャラクターの特徴を可視化し、それらの多様な有り様を直感的に把握するためのツールの開発を目指して、偏差値をレーダーチャートに表すことを考えました。レーダーチャートとは、複数のメトリックによるスコアを正多角形上に描いたグラフのことで、情報の全体像や多面性を一望するのに適しています。

 

放伝生のエディティング・キャラクター

 

式目演習スコア_レーダーチャート

(↑クリックすると大きく表示されます)

 

上図左側は、道場での5種類のデータに基づいた〈学ぶモデル〉のチャート。右側は、錬成場での6種類のデータに基づいた〈教えるモデル〉のチャートそれぞれ下の計算式によって、平均を「5」に設定した偏差値を求めて作図した。描かれた五角形または六角形の頂点が外へ行くほど「速い / 多い / 大きい」を、内へ行くほど「遅い / 少ない / 小さい」を示す。

 

偏差値の算出式

【応答速度,指南速度の偏差値】=5-(実測値-平均値)/標準偏差
【速度以外の偏差値】=(実測値-平均値)/標準偏差+5

 

尚、レーダーチャートは、精密な数値データを求めないまま定性スコアとして描画することも可能である。だが、スコアを式目指導のためのツールとし、編集学校内で共有するところまでを視野に置いたときに、数値データのもたらす客観性は不可欠だろうと考え、定量スコアによるレーダーチャートの作成を試みた。

 

参考までに、レーダーチャートの導入は絵本シリーズ『大ピンチ図鑑』(小学館)に着想を得た。ただし、作中のレーダーチャートは定性スコアである。グラフには測量されたデータや指数は示されておらず、[015番:マンガのスコア]のように独自の単位が設定されることもなく、感覚や感情の度合いが定性的にスコアされている。作者の主観的な感覚に依拠して作成されたスコアでありながら、読者の共感を誘う訴求力を持っている点に注目されたい。

 

 いかがでしょう。たんに数値を生のまま羅列するよりも、こうしてグラフやチャートに描画することによって、一人一人の「ふるまい」の特徴は直感的に視認できるようになるのではないかと思います。

 実際、花伝所の入伝生に発言スコアを試験的に開示した際の反応を観察してみても、数値だけのスコアに対しては、どう解釈すれば良いか分からない様子でしたが、レーダーチャートに対しては、互いの「らしさ」について仲間同士で言及しあう場面が見られました。数値情報は、どうしても数字の多寡が価値の優劣と等価交換されやすいですが、正多角形のレーダーチャートは、描画された図形の整い方/歪み方が「人となり」を暗示させるのかも知れません。

 何より、スコアを跨ぎながら人々が意味や価値を交わし合う姿には、場面設営として編集的な可能性を感じます。スコアは「メディア」であるべきなのです。


 しかしこれまでは、こうした定量スコアに基づくチャート類を式目演習の現場で充分にメディア化できていないことが課題でした。目論見としては、入伝生が定量スコアを活用して(そのツールは必ずしも「発言スコア」でなくても構わないのですが)、自身の「ふるまい」を客観視し「離見の見」を育むところへ持ち込みたいのです。

 そこで現在進行中の[41花]では、式目カリキュラムを大胆に見直して「得番録」を指南編集トレーニングの一環として組み込むことにしました。今にして思えば、これまで得番録が式目演習に含まれていなかったのは盲点だったかも知れません。

 

 師範代が学衆の「ふるまい」を記述するためには学衆の「ふるまい」を読み解く必要があり、そのうえで師範代自身が「ふるまい」について自己言及する必要があるでしょう。このとき、師範代の「ふるまい」は「まなざし」と同義です。つまり、師範代が学衆の何を見て(What)、何をもって記述するのか(How)ということです。

 学びの場において「ふるまい」をめぐるスコアリングは、それがスコアラー(師範代や師範)による一方的な記述である限りは機能しません。スコアラーが既存の価値基準と記述方式を用いてスコアリングするのなら、スコアされる者は既存の価値観の内に留まり続けてしまいます。学習者を編集可能性の拡張と解発へ導くことと、指導者が自身の「ふるまい」と「まなざし」を更新することとは、まったくもって相互連関しているのです。

 

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花伝式部抄(スコアリング篇)

 ::第10段:: 師範生成物語

 ::第11段::「表れているもの」を記述する
 ::第12段:: 言語量と思考をめぐる仮説

 ::第13段:: スコアからインタースコアへ

 ::第14段::「その方向」に歩いていきなさい

 ::第15段:: 道草を数えるなら

 ::第16段::[マンガのスコア]は何を超克しようとしているか

 ::第17段::「まなざし」と「まなざされ」

 ::第18段:: 情報経済圏としての「問感応答返」

 ::第19段::「測度感覚」を最大化させる

 ::第20段:: たくさんのわたし・かたくななわたし・なめらかなわたし

 ::第21段:: ジェンダーする編集

 ::第22段::「インタースコアラー」宣言

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