花伝式部抄::第11段::「表れているもの」を記述する

2024/05/07(火)08:03 img
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花伝式部抄_11

<<花伝式部抄::第10段

 

 かくして「原郷からの旅立ち」を迎えた私は、茫漠と散逸するばかりの問題を一つの「問」に集約させようと考えました。

 

編集稽古の充実は、何をもって測れば良いか?

 

 この問いを動機づけているのは、編集におけるプロセスと成果の不整合への着眼です。
 第10段で共有した事例のように、師範代の力量や仕掛けは必ずしも編集稽古の進捗を促進しませんし、そうでなくても学衆の側の「カマエ」と「ハコビ」は往々にしてチグハグなものです。この現象を敷衍して捉えるなら、生命が示す「遺伝型」と「表現型」の関係にも相似率を見出せるように思います。

 

 いったい、そこに「表れているもの」は、実のところ何を表しているのか。それが表れるまでの過程が「表れているもの」に反映していないように見えるとしたら、「表れているもの」の何を記述すれば「表れているものが表そうとしているもの」を表すことができるのか。


 この問いに回答するために、私は「スコアリング」の方法を採用しようと考えました。その理由は単純で、[37守]で新規導入された【015番:マンガのスコア】を、私は学衆としても師範代としても体験していなかったからです。ISISがNEXTヘ向かうために不可欠な編集術を、私は実践のなかで稽古する必要がありました。
 とはいえ、この編集方針は複雑な事情も孕んでいて、私が定量スコアの手法に少なからぬ疑念を抱いていることを申し添えておかなくてはなりません。
 私は生業である美容師として、客数や売上の多い美容師が必ずしも「良い美容師」ではないことを目のあたりにしてきていますから、仕事の質を数値や対価によって測ろうとする現代社会の価値観に並々ならぬ抵抗感があるのです。同時に、そうした疑念と抵抗感の一方で、未知のスコアリングを開発しようとする015番の志には、身を捨ててでも賭けてみたいと思わせる可能性を感じたのです。

 

 そこで私は、何はともあれ数えられる情報を手当たり次第にモーラするところから試行を始めました。

 

編集稽古の現場で定量スコアし得る情報

 

稽古の進捗
 回答速度(出題から回答までの日数)…a
 指南速度(回答から指南までの日数)…b
 問感応答返率A(回答速度:指南速度)…a:b
  ※それぞれ「学衆別」「お題別」「週ごと」「教室総合」で計測

 

稽古の傾向
 冒頭挨拶文字数(自由発言量)…c
 振り返り文字数(考察量)…d
 問感応答返率B(自由発言量:考察量)…c:d
  ※それぞれ「学衆別」「お題別」「週ごと」「教室総合」で計測

 

勧学会
 学衆別発言数 …e
 学衆総発言数 …e’
 師範代発言数 …f
 指導陣総発言数 …f’
 問感応答返率C(学衆発言数:指導陣発言数)…e’:f’
 
番ボー
 エントリー率
 再回答数 …問感応答返率D
 受賞数

 

総合
 卒門率
 進破率

 

 尚、編集稽古の様相を定量スコアしようとする試みは、私が最初に始めたことではありません。
 私が承知している限りでは、竹川智子番匠(当時)が[39守]以前から全教室を対象に「回答数」「指南数」「期限内回答数」などを計測したグラフを作成し、稽古の進捗を可視化しています。さらに[40守]では師範ボードでスコアリングの可能性について意見交換する場面もありました。このあたりが師範による定量スコアの事始めとなるでしょう。

 

 以下に、守ボードの取り組み事例の一部を紹介します。

 

[40守]竹川智子番匠による定量スコア

 

 プロジェクトマネジメントの現場では定量評価が当たり前。事前になにをスコアリングするのかを決めて、開発作業に支障のないようにいかに効率的にスコアを取っていくかを開発のプロセスの中に組み込んでいる。(何をはほぼ決まっている。粒度を決めている)

 日々生の現場に接している感覚は大切で、それを具体的に言葉にするものが定性評価。定性評価をスコアで表せるように関係性を分析して導き出したものが定量評価。定量評価はこれまでの蓄積をもとに現場の感覚で気づく前に不具合の予兆を察知するために用いる。

 

インタースコアグラフ_竹川


◆出題してすぐに回答がたくさん届けば、青い期限内回答数のグラフより赤い回答数のグラフが上回る。◆回答、指南ともに勢いがあり、青いグラフが一番下にあるのが理想的な形。回答数のグラフ線が寝てくると要注意。◆指南数グラフが回答数グラフに近づいて押し上げていくのがよい。

(スコア作成/コメント:竹川智子

 

[40守]師範によるスコアリング問答

 

 なかなか数値にしにくい所も取り出す糸口を掴みたいですね。
 テキストのやり取りなので難しいですが、テキストを目指す者として例えば、入門時と比べ、

・言葉の多様さ(言い換え率)
・編集術用語の使用率
・文体の変え方(語法、品詞の種類等)
・相手の言葉の引用率
・学衆同士、師範代との言葉の相関度

などが変化率として見れないかとも思います。
 後半は関係モデルの作り方が大きいですが、コミュニケーションにも絡むかと。

(発言者:廣瀬良二

 

 自分の師範活動で、特に師範代を見る時にどんなことをやっているのか「マンガのスコア」っぽく考えてみました。

 師範代一人一人についての評価軸は、どの師範でも持っていると思います。たとえば、どんな指南ができるか(深さや程)、1日にできるであろう指南数、1日の師範代活動時間、対学衆のコミュニケーションや教室の運営力などですね。師範代一人一人異なる評価軸です。その評価軸に対する師範代の動きをアタマの中でスコアらしきものにしています。
 どういうことかというと期待以上の指南や指南数、勧学会運営など評価軸を上回る動きがあればOK。ホッとするので単位を仮に「ホット」。目標に届かなかったり、動きが悪いとアッ…と感じるので「アット」。ここまでは師範代の動きですが、学衆さんと連動させた方が教室をみるためには肝心ですね。回答や感想が来た、勧学会がにぎやか。
 対して稽古が止まる、動きが少ないなど。こちらは「ドット」と仮にします(ドッと動いてほしいので)。

 

 すると、なんとなく、こんな二軸四方ができそうです。

インタースコアチャート_景山

 もちろん実際に作っているわけではなく、経験を基に、アタマの中で動かしています。ここに師範代や教室の流れを見ながらいつ動くか短期、中期、長期視野を重ねる感じですね。特に守の場合は、師範代のちょっとした変化や学衆の些細な動きで教室の流れも変わりやすいのでカーソルを動かし、軸を動かし続けなければいけませんね。

 Aは理想ですけど、それが絶対いいというわけではなく、Bの方が学衆の動きがいいということもありますよね。CDの学衆が動かないときは、師範としても何とかしたいですね。

(発言者:景山和浩

 

 上に引用した発言の中で、竹川番匠はマネジメント業務に従事する者の視点からビビッドな定量評価を目指し、廣瀬良二師範からは定量スコアのための計測項目を開拓する必要性が言挙げされ、景山和浩師範はやわらかな定量スコアの可能性について言及しています。
 第一感として私は景山師範のイメージメントに最も「イシスらしさ」を感じましたが、私の構想に最も近い印象を受けたのは廣瀬師範からの提案でした。
 とはいえ、廣瀬師範や私の構想を実行するためには、データを計測するための技術やツールの開発を待たなければならないことを認めざるを得ません。2024年の現在なら、それこそAIの導入を現実的に検討すべきところでしょう。このあたりは、費用対効果の面からも定量スコアの有用性を議論しなくてはなりません。

 

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花伝式部抄(スコアリング篇)

 ::第10段:: 師範生成物語

 ::第11段::「表れているもの」を記述する
 ::第12段:: 言語量と思考をめぐる仮説

 ::第13段:: スコアからインタースコアへ

 ::第14段::「その方向」に歩いていきなさい

 ::第15段:: 道草を数えるなら

 ::第16段::[マンガのスコア]は何を超克しようとしているか

 ::第17段::「まなざし」と「まなざされ」

 ::第18段:: 情報経済圏としての「問感応答返」

 ::第19段::(準備中)

  • 深谷もと佳

    編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。