守のお題で一席――尾崎公洋のISIS wave #44

2025/03/04(火)08:40
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守の38番のお題を全部、落語仕立てでフィードバックした学衆がいる。54[守]で学んだ尾崎公洋さんだ。なぜ落語? そのモチベーションはどこから?

 

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は尾崎公洋さんの[守]×落語体験をお送りします。

 

■■イシスは落語作家養成講座だった?

 

 なんでワイの噺が選ばれへんねん。

 落研の先輩に誘われ、実に40年ぶりに人前で落語を演ることになって、感覚を取り戻そうと通い始めた落語作家入門講座。受講生の作品の中から一つだけ選ばれてプロの落語家が実演してくれる。絶対自分の噺が選ばれると思っていた僕は不満げな顔をして教室を出た。

 翌週、選ばれた作品の実演を聞いて打ちのめされた。見事に落語世界が繰り広げられる。気になるところはことごとく実演する落語家によっていい感じに変えられていた。クスグリも追加され、キャラは見事に立っている。

 自分の噺を読み返したら違いは歴然だ。落語家がやりたくなる魅力に欠けているのだ。手も加えにくい。選ばれなかったことがよくわかる。

 失意のままISISの門を叩いた。

 次から次へとお題がワンコそばのようにやってくる。《地と図》を入れ替える? そうだ、噺は落語家の視点でも書くべきだ。自分の噺にはシソーラスの発展が足りない。メタファーの展開が弱い。ベースを明確にし、ターゲット(おち)に向けていかにプロフィールを展開していくのか。分岐させろ、対比させろ、らしさや匂いは身に纏いながら、とんでもないところまで飛躍せよ。常識サイドのシステムにアナロジーを効かせ、貧乏長屋のキー公や船場の若旦那や色街のお姐さんが生きる世界と、つまらぬ我々の常識世界との編集的対称性を発見せよ。

 なんだ、ISISって落語作家養成講座だったのか。『知の編集術』の「キーノートエディティング」には会話型の要約編集が載っている。ならばと、お題を元ネタにした「復習落語」を勧学会に投稿してみた。師範代が面白がってくれる。学衆のみんなから声がかかると嬉しい。師範まで期待してるよとコメントを入れてくれた。

 元々調子に乗るタイプだ。お題の回答だけでも辛いのに、次々復習落語も投稿する。師範代から最後まで行けと叱咤激励が来る。自分の書いた落語をプロが自在に演じてくれる日を思い描きながら卒門を迎えた。

 以前の自分の作品のどこがあかんか、わかるようにはなっている。今度の作品の方がよくなっているのもわかる。しかし、自分がまだまだであることもこれまで以上によくわかっている。しかし、僕はまだまだ成長していく。編集を人生する方法を手に入れつつあるのだから。今年の落語台本大賞に落ちてもきっと僕は落ち込まない。来年にはもっと面白いものを自分は書けるだろうから。

▲落語を披露する「須波気亭銭魔」こと尾崎さん

尾崎さんの54[守]での暴れっぷりは、教室や勧学会だけにとどまらず、別院特別講義に、そして大惨寺にと、それはもう目を見張るものがありました。その根源には、「不足」があったのですね。そして何より「楽しむ」というカマエがあった。[破]では物語も書きますし、[物語講座]では実際、落語を書くお題が出されます。「書く」というメディエーションの根本に向かっていってほしいと思います。

文・写真/尾崎公洋(54[守]やぶこぎ博物教室)

編集/角山祥道

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。