空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。

幼な子の寝息が聞こえ、やっと東の空に月がのぼりはじめた頃、zoom画面に現れたのは43[花]放伝生たちと[守][花]の指導陣だった。その数、ざっと30名弱。松岡正剛校長の命日である8月12日に、初の試みである放伝生と師範が共に学び合うお題共読会が開かれた。
発起人でありこの大所帯を仕切るのは、今期、花伝所では初の錬成師範を担った角山祥道だ。30名がそろうメインルームで、まずは角山による用法語りが始まる。
角山は「たくさんのわたし」状態での指南を提案した。【地】を変えながら「わたし」をみると、「わたし」という情報は分節化される。学衆も師範代も「たくさんのわたし」状態をつくるのだ。そのために、「編集は遊びから生まれる」「編集は対話から生まれる」「編集は不足から生まれる」を三位一体とするのではなく、遊び→対話→不足の三間連結にするのがいい。まずは思いっきり遊ぶこと、楽しむこと、無我夢中になることを強調した。「たくさんのわたし状態で回答する」心理的な安全性を担保する場作りとなるのだ。たった5分の用法語りを皮切りに、誰もが校長の命日であるこの日がさらなる特別な時となっていくことを予感した。
その後、4チームに分かれ、対象お題を実際に声に出して読む。今回のお題は、004番、006番、009番。放伝生への事前アンケートをもとに師範会議で決定した。
声に出して読むと相互に思いもよらない気づきをもたらす。先の冠界式で〈あやすじデスティーノ教室〉の教室名を授かった板垣美玲師範代は、最初は「地と図」の「地」のことを「ち」と発音したが、音になって聴くと「ち」ではなく「じ」だと感じたと言う。些細なことだが、板垣師範代は脳内で再生されているままでは気づかないイワカンを察知した。イワカンは、3A(アフォーダンス・アナロジー・アブダクション)を発動させる師範代には欠かせないフィルターだ。
木佐陽師範代(本音かいな教室教室)は、らしさは日本独特の表現だから、脳が感じる質感を言語化することが大切なのではないかと言挙げした。それを受け、集まった者たちの言葉に対する感度が高まっていく。
60分間のブレイクアウトタイムは、あっという間に過ぎていった。メインルームへ戻ると、各チームでの気づきを共有する。共読の重ね塗りだ。各チームから1人が指名され発表。言い足りないところは、同じチームだった者が補足・追加する。学衆時代は読み飛ばしていた一文に気づいたり、一人で指南している時には気づかなかった多様な見方を発見したり、互いの言葉が重なることで、お題理解は深まっていった。というよりもお題の懐の深さへとのめりこむうちに、お題が持つ温度に気づいてしまったようだった。画面越しに、眉を曇らせ、目を見開きエウレカする放伝生たちの表情がそのことを物語る。
三尾夏生師範代(あみめみくりや教室)は共読会を通して、「回答のズレや違いをいかに言語化し、面白がれるかがポイントだと思った」と振り返る。38番のお題では、不思議なことに全く同じ回答というのは存在しない。001番【コップは何に使える?】のコップのように、お題も回答もアフォードされるのを待っているのだ。
初試みの師範×放伝生(新師範代)によるお題共読会は、師範による一方的な解説を届けるものではなかった。互いにわからなさや気づきを交わし合い、見方を差し出すエディティング・モデルの交換だ。そして、知れば知るほど、知っていること、知らないこと、知りたいことを伝え合わずにはいられない、そんな繋がりの連鎖が、私たちをその先へと連れていく。
▲新師範代代表挨拶をした杜本昌泰師範代(トージ瀬戸際教室)の“Open Perspective ”のヨミトキに笑みがこぼれる
お題共読会日程と次第は以下の通り。
〈開催日程と対象お題〉
・第一回 8月12日(火)21時~23時
用法1中心/004番、006番、009番
用法語り 角山祥道
・第二回 19日(火)21時~23時
用法2中心/012番、015番、017番
用法語り 新垣香子
・第三回 26日(火)21時~23時
用法3中心/019番、022番、024番
用法語り 大濱朋子
・第四回 9月2日(火)21時~23時
用法4中心/031番、036番、037番
用法語り 古谷奈々
〈次第〉
※師範は事前に、対象お題と回答事例を花トレ56ラウンジへ投稿。
・メインルーム
師範による用法語り。
・ブレイクアウトルーム
指定お題(3題)を実際に声に出して読む。
お題のヨミトキ、指南方法などを議論する。
回答事例(1つ)を使って注目箇所などを交わし合う。
・メインルーム
ブレイクアウトルームでの気づきを共有する。
※参加者は終了後、共読会のFBを花トレ56ラウンジへ投稿。
■お題共読会に参加した新師範代が登板するのはこちら。
第56期[守]基本コース
【稽古期間】2025年10月27日(月)~2026年2月8日(日)
申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/syu)から。
■[ISIS花伝所]編集コーチ養成コースはこちら。
第44期[ISIS花伝所]編集コーチ養成コース
【ガイダンス】2025年10月5日(日)
【入伝式】2025年10月25日(土)
【開始日】2025年10月25日(土)
【稽古期間】2025年10月26日(日)〜2025年12月21日(日)
申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/kaden)から。
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●43[花]「つもり」のままその先へ【花伝敢談儀─ようそこ先輩─】
●知れば知るほど、なお知りたい――43[花]師範×放伝生 お題共読会
大濱朋子
編集的先達:パウル・クレー。ゴッホに憧れ南の沖縄へ。特別支援学校、工業高校、小中併置校など5つの異校種を渡り歩いた石垣島の美術教師。ZOOMでは、いつも車の中か黒板の前で現れる。離島の風が似合う白墨&鉛筆アーティスト。
43[花]はちょっと違った。ちょっと? いやいや、だいぶだ。来たる56[守]新師範代として20人を超える放伝生が名乗りを上げたのだから、そのぶっちぎりっぷりが想像できるだろう。こんな期はそうそうない。演習を行う道場での […]
海と山の間から太鼓の音が聞こえてきた。 ここは、沖縄県のさらに南の離島のそのまた外れのとある中学校。校舎からは綺麗な湾が見渡せ、グラウンドには孔雀や猪の住む山が差し迫る。全校生徒は23名。夏の終わりに行 […]
うつらうつらしていると、何かが聞こえてきた。あたたかな音。ああ、雨だ。長男は小さな頃、「雨の音をききながらねるのがすき」と言って丸くなっていた。その姿に、幼かった彼はお腹の中にいることを思い出しているのかなと、愛おしく […]
世界は書物で、記憶を想起するための仕掛けが埋め込められている。プラトンは「想起とは頭の中に書かれた絵を見ること」と喝破した。松岡正剛校長は「脳とか意味って、もっともっとおぼつかないものなのだ。だから『つなぎとめておく』 […]
52[守]師範代として、師範代登板記『石垣の狭間から』を連載していた大濱朋子。今夏16[離]を終え、あらためて石垣島というトポスが抱える歴史や風土、住まいや生活、祭祀や芸能、日常や社会の出来事を、編集的視点で、“石垣の隙 […]
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