幼な心の不足を感じたら、昆虫の世界に分け入ってみるのがお勧め。そこには、小粋な読み替えや愉快な見立てを促すツワモノがひしめいている。
写真は、都市郊外でも見つかる巨大イモムシ、シンジュサンの幼虫のお尻。

何だかわからないけれど、面白そうな方へ。
幼い頃は当たり前のようにやっていたことが、大人になるにつれていつの間にかできなくなる。8月2日、真夏の東京・豪徳寺で、たくさんの大人たちが面白そうな方向へ向かっていた。
この日、イシス編集学校の本拠地である本楼では、編集コーチ養成講座である花伝所修了のための最後のプログラム、花伝敢談儀が行われていた。その1コーナー「ようそこ先輩」に登壇したのは、基本コース[守]、応用コース[破]師範代を経験し、現在は師範として活動している高本沙耶さん。50[守]登板時の教室名は〈とれもろドローン教室〉だった。「トレモロ(tremolo)」とは、同じ音や複数の音を素早く反復・連打する奏法のことで、イタリア語の「tremare(震える)」が語源といわれている。
ー共振する教室ー
37[花]、50[守]、50[破]、16[離]と、高本さんと長く同じ座をともにしてきた筆者には、師範代自身が振動し続けながら学衆の振動と共鳴していく〈とれもろドローン教室〉は、名付けることで編集を自由にするという松岡正剛校長の編集ミームをまさに体現しているような教室模様に見えていた。Edit Cafeに放たれる言葉の数々は、いつも肩の力が抜けていていながらも一本芯が通っていたのだ。
平野しのぶ花目付との掛け合いで、時折関西弁を交えながらテンポよく進んでいくトークの中で、最初のお題である「001番:コップは何に使える?」でのエピソードが語られた。コップの使い道を、20個以上を目安としていろいろに言いかえるお題に、ある学衆は100個の使い道を、別の学衆は5個の使い道を回答してきたのだという。既存のスコアである「数」で評価すれば、100個の回答はハナマル、5個の回答はバツとなってしまう。でも、そうはしたくない・・・。最初から学衆それぞれの振動がまったく異なる、矛盾含みの教室運営だった。高本師範代は、その時「8人いる学衆が全員違う、8人分それぞれの指標で指南を届けよう」と決めた。師範代と学衆が互いに編集し、編集される〈とれもろドローン教室〉のスタート地点がここだった。
ー変化し続ける師範代ー
話を聞きながら、師範代研鑽会である50[守]伝習座での一幕を思い出した。高本師範代の教室で回答が途絶えていた学衆から、その日久しぶりに回答が届いたと目を潤ませて話してくれたのだ。これまでのイメージである思い切りの良さ、大胆さ、軽やかさに加えて、高本師範の中にあった熱さや細やかさが、数カ月の師範代の体験を通して表にあらわれているように感じた瞬間だった。
でも、きっと師範代をやる中では歯を食いしばった時もあったはず。聞いてみると、「めっちゃ、ありましたよ~」パッと顔を上げて答えてくれた。届いた回答を前に数時間空中を見つめ考えた続けたことも、気が付いたら夜が明けていたことも一度や二度ではなかったという。バックヤードでは時に深く思い悩むこともあったのだ。師範代を経験する中で去来したいろいろな想いを、その都度すべて“つもり”にしてきたのだろう。
ー新たな編集道へー
今回、「虚実と皮膜」と書かれたTシャツを着てあらわれた高本師範は、編集を人生するため、この秋、また面白そうな方向へ舵を切るという。新たな一面が見られそう、と思いながら、そんな彼女に私もまた影響されながら進んできたことに気付く。
5月からの約3カ月、入伝生それぞれが振動しながら周囲と影響しあい、自己組織化をおこしてきた43[花]は、この日の敢談儀をもって全プログラムを終了した。このさしかかりを機に、放伝生となった27名はそれぞれ新たな編集道へと進んでいく。
目的の方向ではなく、「兆し」の方向へ。
一人ひとりが違うリズムを、すでに奏で始めている。
アイキャッチ、写真:森本康裕(43[花]花伝師範)
文:森川絢子(43[花]錬成師範)
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森川絢子
編集的先達:花森安治。3年間毎年200人近くの面接をこなす国内金融機関の人事レディ。母と師範と三足の草鞋を履く。編集稽古では肝っ玉と熱い闘志をもつ反面、大多数の前では意外と緊張して真っ白になる一面あり。花伝所代表メッセージでの完全忘却は伝説。
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コメント
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2025-08-05
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縁側で西瓜を食べた日が懐かしい。縦にカットすると見えないが、横に切ると見える世界がある。維管束の渦巻き模様が現れて、まるで自然の芸術。種はその周りに点在する。王道を行ってはいけない。裏が面白い。さて、西瓜の皮はどうする?僅か果肉を残して浅漬けにすると、香りと歯ごたえが何ともいえず絶品だ。
2025-07-29
昆虫の巨大な複眼は、360度のあらゆる斜め目線を担保する無数の個眼の集積。
それに加えて、頭頂には場の明暗を巧みに感じ取る単眼が備わっている。
学衆の目線に立てば、直視を擬く偽瞳孔がこちらを見つめてくる。