かつて「大人マンガ」というジャンルがあった(詳しくは「マンガのスコア 園山俊二」参照)。この周辺には、ファインアートと踵を接する作家たちが数多く存在する。タイガー立石もその一人。1982年、工作舎から刊行された『虎の巻』は、まさしくオトナのためのマンガの最極北。いいお酒といっしょにちびちび味わいたい。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
AI時代に、イシス編集学校の「学び」はどう生かされるのか。情報の編集にはどのような価値があるのか。こんな疑問を胸に、基本コース[守]に入門した佐藤龍太さん。その探究心はとどまるところを知らず、ついに編集AIを作ってしまった。その顛末とは?
イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は、佐藤さんのAI×編集研究記です。
■■AI時代に情報の編集は必要なのか
不足は完全を凌駕する。
不足とは欠けることではなく、創造のために必要な余地である。
そのような不足の価値を知らしめたのは、[守]の稽古での経験だった。
私はもともとソフトウェアエンジニアでシステム開発を専門としてきた。いまはデータやAIを利活用しながらクライアント企業の生産性向上や、業務効率を支援する会社を立ち上げて取り組んでいる。そんな私が[守]を受けた理由の一つに、「これから確実となるAI中心の社会で情報の編集にはどのような価値があるのか?」があった。AIがこのまま進化すれば、膨大な知識をもとに人間の言葉を自由自在に扱っていくだろう。この時勢に情報の編集が本当に必要なのか? 実際に[守]を体験することでその是非を確かめたかった。
[守]の稽古は38のお題からなるが、そのお題すべてに正解は用意されておらず、正解を求められることもなかった。すべて自分の頭で考えて、自分が納得したら回答する。番ボーと呼ばれるエントリー型講評お題の「即答・ミメロギア」もそうだ。ミメロギアでは、6つのお題が出る。一対の言葉に形容をつけて関係づけ、新たな「対比」を発見するお題だ。例えば「ひややっこの漱石・テリーヌの鴎外」というように、異なる要素に共通点を見出し、新たな視点を提示する。
何度も回答を推敲してお気に入りの作品をエントリーすることができたが、入選作品はそのうち1つのみ。なぜ選ばれなかったんだろうと、悔しさを抱えながら他の守学衆全員のエントリー回答と講評をAIで分析した。同時に分析結果をAIに与えてミメロギア回答を相当数作らせてみた。
例えば、AIは「草枕の漱石・舞姫の鴎外」「千円札の漱石・医学書の鴎外」といった回答を弾き出した。理解・技術ともにクリアしているが、「ひややっこの漱石・テリーヌの鴎外」と比較するとわかるように、どこか奥深さが表現できていない。面白味もない。入選している作品には人間特有の不完全さから生まれる遊び心や活き活きとした偶発性が存在していた。人間は知識や論理に穴があるからこそ、思いがけない発想の飛躍や意外な組み合わせを生み出せる。その「不足」が創造の余白となり、そこに奥深さが宿るのだ。
さらに[守]の指南をAIで再現できるかを試すため、卒門と同時に復習を兼ねて「ISIS Dojo」というAIシステムを自分用に開発した。過去のお題すべてに対して、何度でも自由に回答ができ、師範代の言葉を学習して指南をしてくれるAIである。それも数秒で指南が返ってくる。
▲佐藤さんが個人用に開発した指南AI。「AIコミチコ師範代」が数秒で指南を返してくれる。
けれど、これも何かが足りない。[守]の稽古では必死に考えて回答をした後に、指南がくるまで少なくとも数時間はかかる。その間、PCの向こうにいる人間の師範代は回答からみえる《たくさんのわたし》のプロフィールを読み取り、今回はどの「わたし」が顔を出しているのかということを踏まえて指南をしてくれる。師範代と私の関係がそこに存在するのだ。AIは師範代の指南の言葉を容易に真似ることはできるが、私との関係線をそこに引くことができないし、そこに余白や遊びを付け加えることもまだまだ難しい。
[守]の稽古と師範代の指南を通して、私は「不足の価値」を改めて認識した。AIを自在に扱えても、まだまだAIは人間の不足から生じる奥深さは表現できないし、人間の中に「らしさ」を見出したうえで指南することは難しい。AIで追求できる「完全さ」よりも、人間特有の不足が生み出す予測不能な創造性や関係性にこそ価値がある。そこに情報の編集を学び続ける意義を感じた。
AIが進化していく時代だからこそ、人間同士が「不足」を介して響き合い、互いの「らしさ」を映し出す情報編集の場に、私は新たな可能性を見出している。
文・写真/佐藤龍太([54守]チリモンどんたく教室)
編集/チーム渦(大濱朋子、角山祥道)
◆イシス編集学校 第55期[守]基本コース募集中!◆
稽古期間:2025年5月12日~8月24日
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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