半端と中途の編集学校【松岡正剛 revival 06】

2025/08/22(金)12:00 img img
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2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読むたびに【REVIVAL/再生】するかのようだ。そこで今回、寄せられたコラムの数々をふたたびご紹介したい。お一人お一人からいただいたコラムには、編集部が千夜千冊から選んだフレーズを付け句している。読者の皆様にさらなる編集の契機としていただけるよう、36のコラム+蔵出し写真&映像をふくめ、8日にわたって公開する。

 

 

◇◇◇

06:半端と中途の編集学校

 

「誰にだって、人生や仕事のなかでは、いくつもの中途半端があるわけでしょう」と松岡正剛校長は言う。

その半端を見極め、別の半端とつなげていくこともできる。編集とは、そうした未完を無視しない営みなのだ。半端と中途がある限り、私たちは編集し続ける。これからも校長の言葉は、半端と中途を超えるトリガーとなり、「遊学」し「編集工学」するための道しるべであり続ける。

 

 

寄稿者:

井上麻矢(ISIS co-mission/劇団こまつ座 代表)

鈴木康代(イシス編集学校 基本コース[守] 番匠)

鈴木 健(ISIS co-mission/スマートニュース株式会社 取締役会長)

白川雅敏(イシス編集学校 師範)

山田 仁(イシス編集学校 第一期 師範代)

中野由紀昌(九天玄氣組 組長)

 

◇◇◇

 


【追悼】松岡先生が亡くなった後

ISIS co-mission/劇団こまつ座 代表 井上麻矢

 

松岡先生が亡くなった後、先生のことを追悼文に書いてもらいたい…とイシス編集学校の諸先輩に言われて、こうして机に向かいました。そして段々誰に対してということではなく、無性に腹が立ってきました。松岡正剛という人が、たった数百字の中に書く事が不可能な存在だったからです …

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

ぼくも『空海の夢』(春秋社)の「あとがき」に書いたことだが、われわれはどんなことも「代わる代わる」に見るしかないようになっている。真実らしいものがどこかにあるとすれば、それは「かわる」と「がわる」のあいだにあるはずなのだ。いや、そこにしかないはずなのである。井上ひさしは、そのことを存分に知っていて、それを「国語護持」問題にひそませた。なんという妙法であることか。もっともこの妙法は最初からこの作家に宿っていた。


【追悼】松岡校長 人も情報もひとりにしない。

 

ISIS co-mission / イシス編集学校 基本コース[守] 番匠

鈴木康代

 

今日は、53守卒門日。松岡校長は、53守開講前に師範代らが作成した教室名フライヤーをみながら、「今期のフライヤー、すごくいいね。」と褒めていた。校長は旅立ってしまったが、守お題や教室名に宿る校長の面影を感じながら卒門日をむかえている …

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 情報編集世界論である。
ぼくよりずっと適確に「編集」という言葉をつかっている。冒頭の序章から、「情報の自己組織化と分散の、そして自己編集化の動きを見ようとする態度に由来するような宇宙観を考えてみたい」との提起があって、今日の文明がいまだサナギ段階にあることが確認される。そのサナギをどのようにチョウに創発させることができるのか。著者はそれを客観的な世界像や宇宙像にするのではなく、身体性を入れこんだものにしたいと考える。それを「差異」をめぐる物語にするのではなく、情報を主人公とした編集の物語にしたいと考える。


【追悼】半熟の松岡正剛

ISIS co-mission/スマートニュース株式会社 取締役会長

鈴木健

 

ぼくは半熟の議事録係だった。

君にぴったりな面白い会があるから参加してみないか? 大学生だったぼくは、いまから考えても不思議な会に誘われた。参加者は当時三十代の官僚やビジネスマンが中心で、彼らを束ねる塾頭という立場にいたのは当時、経済産業省の官僚だった鈴木寛(すずかん)で、ぼくを誘った張本人。その会の塾長として毎回、講話をされていたのが松岡正剛さんだった。塾の名前は半塾といった。30代だから半熟というのはぴったりだろうというしゃれだ...

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

これを別の見方でいえば、日本人は「時」や「時間」そのものを深く考察しなかったかわりに、「時がたつ」「時が変化する」ということに思惟を傾けていたということになる。三枝はそれを「気語をつかう日本文化」とも「気文化」とも言った。ぼくの言葉でいえば、それが「うつろひの文化」というもの。


【校長相話】あの声が聴こえるところ

イシス編集学校 師範

白川雅敏

 

これは徹夜になるな。

 その日私は、ツトメ帰りに会場である本楼上階の学林堂に向かった。到着し準備を始めたところに、松岡校長がふらりと現れ、離れたところに腰を下ろし静かに耳を傾ける。そして、私はうれし苦しい気持ちになる。

 

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

…ちなみにぼくは10歳のときはお寺の好きなトリスタン・ツァラだったし、20歳ではペディキュアをした裸足のアナーキスト、30歳で量子派ヴァスバンドゥになっていて、40歳では絶望の生物物理学者めき、50歳からは探恋の編集的日本人になっていた。隻影、それで60歳のあとは、きっとルール変更をしつづける耄碌アスリートになって、70歳まで生きていられるかどうかはわからないが、もしまだ余命があるなら、そのときは“物語する広域暴走族”か“打身する彫塑家”をかこつことになるだろう。
そこで、唐突、イタロ・カルヴィーノを書くことにした。不在の騎士が真っぷたつの子爵を書いてみる。いま、ぼくはそんな気分になっている。


【追悼】松岡校長と千夜千冊に愛を込めて

イシス編集学校 第一期 師範代 

山田 仁

 

千夜千冊と編集学校が始まって2年程経ち、松岡正剛校長の外部セミナー後に編工研等のメンバーと食事に出かけたときのこと。当時新銀行立上げ等の企画で激務だった仕事や編集学校のメールに埋もれて、なかなか「千夜千冊」を読む時間が取れないとこぼしたときに、松岡校長から投げられた一言は衝撃だった。

「ちゃんと原本を読まなきゃだめだよ。」

 

松岡正剛

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

...それでいいじゃないか、せつなくなる必要などないではないかという意見もあるだろうが、それがせつないのだ。なぜかというと、ちょっと読むというわけにはいかないほど熱中してしまう本が少なくないからである。そんな本は山ほどある。こうなると、どうしていいかわからない。すぐには読み切れない。そこで、ありとあらゆる時間の隙間にその継続読書をはさんでいく。


【追悼】松岡正剛という懐で遊んだ四半世紀

九天玄氣組 組長 中野由紀昌 

 

 イシス編集学校に入門した2000年6月、EditCafeに届いた初めての投稿は「私が校長の松岡正剛です」でした。松岡正剛という人を知らずに入門したので「ふうん、この人が校長か」とさらっと受け止める程度でした。

 初めて本人と会ったのは4期の師範代試験で、まだ編集工学研究所が赤坂にあった頃です。黒い衣装に身を包んだ校長の松岡正剛さんは煙草をふかしながら師範代候補生5、6人と対面しました...

 

中野組長が8[守]師範の際に贈呈された色紙

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

ついでながら「松岡正剛」という名前は、どうみても堅すぎるとおもっている。だいたい「岡」がたった4文字のなかに二つも入っている。そこんとこ、両親は検討しなかったのかと文句を言いたくなるが、お察しのとおり、正剛は中野正剛から父が採った名で、妹は敬子といって、原敬から採った。中野正剛も原敬も暗殺された人物の名で、これはなんとひどい命名をするのかとおもったが、父の言い分としては「人から暗殺されるほどの宿命を背負ったほうがいい」ということらしい。きっと三人目が生まれていたら多喜二に、四人目は栄とか稲次郎になっていたにちがいない。

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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