金宗代モデルデビューという狂風

2023/03/09(木)08:28
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2023年1月初旬、まだ正月の空気が残る中、都内の某スタジオで、撮影が行われた。遊刊エディストでもおなじみの写真家であり師範であり、教育系会社員でもある後藤由加里が、エディストの副編集長にして、読書講座・多読ジムの代将、また数々のプロジェクトを担当するプロ編集者、金宗代をモデルに抜擢した。後藤は、普段はイシス編集学校のイベントや松岡正剛校長の仕事ぶりを撮影しているが、金をモデルにいつか撮影してみたいと密かに温めており、ようやく実現することができたのだ。きっかけとなった出来事は2年程前「Yohji Yamamoto POUR HOMME」春夏2021コレクションの服を金が纏い、川本聖哉に撮影されるシーンを見た時だった。かつて舞台に立った経験もある金の表情や立ち姿には、独特のおもむきがあり、しなやかにして瞬発力ある身体表現は、写欲を刺激するのだ。

 

ねらいは「雑誌のモデルを擬いてみる」。どのような作品が生み出されたのか、1日の記録と作品をご覧いただきたい。

 

スタジオの隅に腰かけながら、雑誌を開いてイメージを共有する後藤。撮影において相互編集は欠かせない。

 

ステレオの前で自分を奮起させるべくお気に入りの曲を選ぶ金。アップビートの音楽が鳴り響く中、撮影は行われた。自分が乗れるモード作りも大切なプロセスなのだ。

 

やわらかい声かけをしながら、シャッターを切る後藤。金の自然な動きや表情を引き出す。金は日頃プロのモデルとして活動しているわけではないが、感度が高く、イメージをキャッチすることも自ら新しいイメージを作り出し、身体表現に転換することも巧みにできる。

 

後藤による、この日のベストショット。

 

 

 

 

 

 

あえて影や隠れた所をつくることで、あらわれるモノ、ほとばしるモノがある。実はこの日、金は体調が優れず、パフォーマンスに不安を抱えていたが、撮影に入るとみるみる回復し、終わる頃には、むしろエネルギーはチャージされたようだ。撮影の場には不思議な力が宿る。後日、後藤が写真仲間に金の写真を見せると「この人誰?すごい雰囲気、プロのモデル?」とのコメントが飛び交ったそうだ。モデルが褒められることは、写真家にとって誇らしいこと。次の二人のコラボレーションにも期待したくなる。

 

写真 後藤由加里

文・記録写真 林朝恵

 

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg