飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

問答は花伝所の骨法なり。テキストに留まらず相手を目の前にしたアドリブも当意即妙、師範の腕が鳴る。編集学校でも三本の指に入るユニークネスで誰もが度肝を抜かれる発話といえば、錬成師範・新垣香子の右に出る者はいない。三期連続登板した43[花]では、身体派のベテラン花伝師範・吉井優子を逆指名し、くれない道場に一番乗りを果たした。「憧れ」を編集エンジンとする方法は正統である。だが、新垣の肝はそこではない。師範から各放伝生へと評価と餞を言祝ぐ「一刻一辞」のコーナーで、新垣が投げた放伝生Uへのメッセージを披露する。
「…う〇こもお〇っこもおっぱいも、学衆から出てくるものはなんでも全部拾って下さい。子どもは皆、それなんです(抜粋)」
ビビっ! と戦慄が走ったのは、直立不動のUだけではなかった。敢談儀のクライマックスで、メタファーなのかガチなのか、はたまた別様の可能性か? 新垣の一撃は、本楼に居合わせた全員の脳内回路を巡り、ジャックした。この日、千夜千冊エディションの図解ワークに選ばれた『少年の憂鬱』(角川ソフィア文庫)を彷彿させるやいなや、むしろその奥にあろう幼心をも鷲掴みする勢いだ。少年どころか生まれたばかりの赤子まで遡り、師範代のなんたるかをテーゼすると、受容の原型に潜む、母なるもののアーキタイプに迫った。
編集にはインとアウトがある。起点から作用点までのプロセスは自由だ。意訳翻訳抄訳された脳内描写のイメージをどう語るかに発話者の数奇が表れる。意味を拡張する問いは、根本を揺らす破壊力をもつ。新垣が得意とするのは排泄にみせかけた代謝、つまり生物の営み、見えないものの互酬だろう。本質から目を逸らさないのがモットーだ。
元小学校教師の新垣は、個人塾を経営している。自宅の居間を寺子屋のごとく開放し、お腹を空かせた子らには沖縄そばを振る舞っているという。不登校も不足の一種である。対話からはじまりどんな子どもにも、ぬちすぐいで応接するのが編集儀式なのだ。大らかなコミュニケーションは、万人の臓物に直接働きかける。
式目演習中、併行して錬成師範から禅師ならぬ「花臨頭」(本人の命名)に着替えた新垣が「花伝ラボ」に投下した問いはこれだった。
【43花Q林-2】 遠慮の奥に何がある?
そして、松岡校長が遺したあまたの箴言からくれない道場生へととっておきの餞に選んだのは、
「花伝所をなめんなよ」
新垣は、本楼に吊るされた松岡校長のバイクをみて以来、70代になったら憧れの校長と暴走族になることを夢想したという。彼女の愚連隊、もとい編集臨戦態勢は、仲間と交流と交換の三位一体だ。さらなる武器はこれから[離]で調達するという。新垣は琉球王国の血を引いている。海を越え、いずれ代謝の女神となり崇められる新スタイルを纏いながら見えない何かを交換しまくるだろう。
アイキャッチ/大濱朋子(43[花]花伝師範)
★新垣師範も登場! 花伝所・エディットツアーは、8月23日開催です★
■花伝所・エディットツアー「ISISの宝刀、師範代の編集術」
■日時:2025年8月23日(土)14:00~16:00
■費用:1,650円(税込)
■会場:オンライン(お申込みの方にZoomアドレスをご案内します)
■人数:限定20名様(先着順)
■対象:どなたでもご参加いただけます
■ナビゲーター: ISIS花伝所 師範(吉井優子、森本康裕、新垣香子、森川絢子、林朝恵、平野しのぶ)
■内容:編集学校の花伝所で学べる方法をわかりやすくご説明します。独自の「編集稽古」をワークショップ形式で体験いただけます。
■お申込み:こちらから https://shop.eel.co.jp/products/es_tour_250823
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平野しのぶ
編集的先達:スーザン・ソンタグ
今日は石垣、明日はタイ、昨日は香港、お次はシンガポール。日夜、世界の空を飛び回る感ビジネスレディ。いかなるロールに挑んでも、どっしり肝が座っている。断捨離を料理シーンに活かすべくフードロスの転換ビジネスを考案中。
沖縄本島は6月8日、例年より2週間も早く梅雨が明けた。わずか17日間の雨季は異例だが、雷雨に始まり夏至南風(カーチベー)と呼ばれる季節風とともに、晴れ上がる夏が音連れることは変わらない。 期を同じくして、43[花]入伝生 […]
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2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。