「日本はヤバイ。かなりダメになりました」
松岡正剛校長は、足元へ目を落とす。10月24日(土)、本楼にて行われた34[花]入伝式の冒頭だった。
「なかでも、日本人がいちばん下手くそなのは『コーチ』です」
ラグビーでもサッカーでも海外から監督を招いてはじめて強くなったように、日本人は教えることがうまくない。だからこそ、才能を開花させるためのコーチングメソッドが必要だ。
イシス編集学校花伝所は、世阿弥の『花伝書』を骨組みに肉付けされた日本独自のコーチ養成機関である。この日は14名の指導陣が本楼に、そして18名の入伝生がZoom上に集まり決起式を行った。
34[花]の入伝生は、2021年春に編集学校のコーチとして教室に立つことが予定されている。
松岡は続けた。
「諸君は、オリンピックも万博もどうなるかわからない情勢のなかで師範代になる。そこで時分の花を咲かせてほしい」
新しい時代に独自のコーチを体現せよと、希望を託す。
その入伝生をひきうけるのが、腕組みする二人の総大将。花伝所には、彼らを一挙に束ね、持ちあげ、背負い投げ、イシスの最前線へと送り込む「花目付」が待ち構える。
今期34[花]は、黄袈裟で編集的衆生を導く三津田知子にならび、深谷もと佳が初就任。深谷は、29[花]で錬成師範に抜擢。そこからブルドーザーのごとく花伝所革命を推し進める。その改革は、20年後の社会を見据え、いま必要とされる方法を花伝式目に落とし込むものだ。
ISISネオンを妖しげに背負う深谷は、ドスのきいた声で煽る。
「今や私たちは、社会全体でコミュ障です」
SNS上には、他者を想定せず一人称にもなりえない「0.5人称」のつぶやきがあふれる。「自分事」にもなれなければ、かといって「他人事」では冷たすぎる。一人称の危機・二人称の未成熟というこの世界のなかで深谷が提案するのは「おたがいごと」という関わり方だ。
「イシスの編集稽古は、自分事と他人事のあいだにある『おたがいごと』という関わり合いをするものです。師範代ロールは、そのコミュニケーション作法を実戦の場で学ぶプロジェクトだと言えます」
深谷はどしりと言い切った。
「社会的コミュ障にあらがうメソッドが、編集工学であり、花伝式目です」
花伝所で身につけるのは、小手先のマネジメントメソッドなどではない。他者とともに生きていくためのたしかな足腰を鍛えあげるのだ。背骨に編集工学を通した凛々しい立ち姿は、日本社会での手本となるはずである。
花伝所の意義をうけとった入伝生は、すかさず応じる。
「『春と修羅』に寄せて、抱負をかたります」
「意気込みを、イシスの折句で吟じます」
自分の思いを、なにかに仮託して伝える。自分事と他人事のあわいを攻めるインタースコアの実践が、Zoomの小窓からあふれでた。
2021年春の47[守]開講まで、あと6ヵ月。
18名の入伝生はあごをあげ、未知なる地平にむかって走り出す。
(撮影:後藤由加里)
◇参考:遊刊エディスト連載/深谷もと佳 [髪棚の三冊vol.4-4]見知らぬものと出会う■「0.5人称の私」とN次創作
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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