「三冊屋」スタイルの輪読で日本古代史“空白の4世紀”に迫る【輪読座「『古事記』『日本書紀』両読み」第一輪】

2024/10/30(水)22:00 img
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日本古代史には“空白の150年”とか“空白の4世紀”と呼ばれる時代がある。日本国内で漢字による記述が始まるまでの歴史は発掘調査や中国の文献によって知るしかないのだが、この期間、中国の公式記録からぱったりと倭(日本)についての記載が消えてしまうのだ。空白の150年、日本では巨大な前方後円墳がつくられ、日本各地に広がっていく時代である。

 

 第三段階の日本は「謎の四世紀」である。仁徳天皇の血脈をうけた“河内王朝”が胎動しているのだが、半島には新たに百済・新羅が勃興し、日本列島にいちばん近い南部には「加羅」あるいは「加耶」とよばれる諸国が活力をもった時期になっていく。北方では高句麗の勢力がやたらに強くなっていた。

 

千夜千冊#1491夜『古代の日本と加耶』 田中俊明

 

2024年10月~2025年3月の輪読座は『古事記』『日本書紀』の両読みをテーマに据えている。「記紀」とまとめて扱われることの多い2つの書物。『古事記』『日本書紀』の編纂が始まったのは共に7世紀の天武朝であり、まとめられたのは8世紀前半である。『古事記』が神代から推古天皇(629)までの期間を扱うことに対して『日本書紀』は神代から持統天皇(697)までと扱っている年代には70年ほど差がある。『古事記』は伝承されてきた歴史を仮名文字で書き起こされているが、『日本書紀』は漢文で書かれた日本史で近隣諸国にも提示できる対外的なツールの一面もあったとされている。輪読座で『古事記』『日本書紀』を両読みするのは2度目だが、2024年バージョンではなんと『三国史記』まで重ね合わせた3冊屋読みで「空白の150年」、そして「日本文明の自立」に迫っていく。

 

輪読座には、輪読師バジラ高橋が毎月オリジナルで作成する図象資料がある。第一輪の図象解説のタイトルは「神功皇后神話と伽耶の鉄」。神功皇后は応神天皇の母にあたる。夫の仲哀天皇の急死(200年)の後、201年から269年まで政事を執り行った。九州で熊襲を討伐すると新羅征討の託宣に従い、お腹に子ども(のちの応神天皇)を妊娠したまま海を渡って新羅の国を攻めた。新羅は戦わずして降伏し、高句麗・百済も朝貢を誓ったということになっている。

月岡芳年筆「大日本史略図会 第十五代神功皇后」(1880年)

 

「伽耶の鉄」とは何なのか。朝鮮半島に目を移すと、紀元前58年に新羅が、紀元前37年に高句麗が、紀元前18年に百済が建国される。遅れて伽耶が成立したのは42年である。これらの国々から倭国を守る必要はあるが、神功皇后は防御に留まらず半島平定に動いた。伽耶の国には、当時倭国ではまだ算出されなかった鉄鉱石があった。さらに言えば伽耶の職人は溶融した銑鉄を棒でかき混ぜて空気(酸素)を加え、炭素を二酸化炭素にすることで鋼鉄を精製する技術を持っていた。鋤も鍬も鉄からつくられる。農業に鉄は必需品だった。鉄を求めて周辺各国は伽耶と交易をしていたが、やがて新羅は伽耶と敵対していくことになる。鉄が入ってこないと倭国の民たちは生活ができない。鉄を守るために、倭は新羅の制圧に向かったのである。これが、神功皇后の三韓征伐の物語を発生させたのだ。

第一輪図象解説資料より:伽耶六国は鉄の産地だった

 

バジラ高橋
バジラ高橋
神功皇后はなぜそんなに半島にこだわったのかというと、伽耶の国の地盤には膨大な鉄鉱石があったからです。地層が真っ赤、赤鉄鉱の固まりなわけですね。この時代の話が韓国で『鉄の王』というドラマになっているから見てみるといいですよ。

 

神功皇后についても一言加えておくが、この女帝の実在性についてはずいぶん疑われてきた。とくに「熊襲征伐」と「三韓征伐」があやしいとされてきたのだが、とはいえ神功皇后の勇猛な活躍に仮託されたさまざまな事跡を見ると、すべてをフィクションとして片付けるのは、多くの古代史の「陥没」が浮上させられないことになって、さてさてどうかと思わせる。

千夜千冊#1796夜『天皇の歴史(01) 神話から歴史へ』 大津透

 

倭国は百済とはなんらかの同盟関係にあったようである。370年から連続三年にわたって百済の使いが倭国に朝貢し、七支刀一口、七子鏡一面などを献上している。七支刀は奈良県天理市にある石上神宮に伝わる国宝だ。七支刀の表面には日付が刻まれ、裏面の二七文字は「先世以来、未有此力、百済王世子、奇生聖晋、故為倭王旨造、伝示後世」と読むことができる。百済王の世子(貴須)が晋の聖王の世に生まれあわせたことをよろこばしく思い、とくに倭王のためにこの刀を造らせ、後の世までの記念としたという意味である。

 

 奈良天理の石上神宮にある「七支刀」

 

バジラ高橋
バジラ高橋
神功皇后は神話なのかと思っていたら、七支刀とかが出てきたので俄然真実味を帯びて、本当のこともあるじゃないかという話になってきているんだよね。

 

記紀に残る記述は何が史実で何が創造された神話なのか。3月までの半年間、謎に包まれすぎている古代にイメージサークルを広げながら複雑系の関係線を引き合わせたい。

 

第一輪を終えたばかりの【輪読座「『古事記』『日本書紀』両読み」】。輪読座は毎月最終日曜日の13:00、本楼での対面・オンライン配信のハイブリッド形式で開講中である。アーカイブもあるので、リアルタイム参加できなくても記録映像でキャッチアップ可能である。

 

 


日本古典シリーズ「輪読座」2024秋冬

『古事記』『日本書紀』あわせ読み(+『三国史記』)

 

●日時 全日程 13:00〜18:00

 2024年10月27日(日)

 2024年11月24日(日)

 2024年12月22日(日)

 2025年1月26日(日)

 2025年2月23日(日)

 2025年3月30日(日)

●受講資格 どなたでも、お申し込みいただけます。

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 ◎リアル参加◎6回分 55,000円(税込)

 ◎リモート参加◎6回分 33,000円(税込)

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  • 宮原由紀

    編集的先達:持統天皇。クールなビジネスウーマン&ボーイッシュなシンデレラレディ&クールな熱情を秘める戦略デザイナー。13離で典離のあと、イベント裏方&輪読娘へと目まぐるしく転身。研ぎ澄まされた五感を武器に軽やかにコーチング道に邁進中。