●[破]はとうの昔からハイパーだった!
「ハイパーはすでにして[破]であり、[破]はとうの昔からハイパーだった」!47[破]評匠の中村まさとしがP1グランプリの口火を切った。[破]の総決算ともいうべき稽古がプランニング編集術だ。ミュージアムをハイパーへと磨き上げ、そしてその中から指導陣が3プランを厳選。「REMIX 編集草子」を銘打つ感門之盟でプレゼンする。これはお祭りでなく発表でもない。47[破]のハイパーリミックス宣言だ。テーマはモノにこだわり、モノへのフェチズムを大事にした。これは見たことがない、しかし確かにこれが見たかった。監査社会に抗いアナーキーに奔る。リスクをテイクして夢や誇りへの共感を生み出すドリーミーなリミックスプランが本楼で堂々開陳された。
3作品を審査するのはこの3人。九天玄氣組組長中野由紀昌、[破][綴]師範森美樹、そしてあの「井寸房」を手掛けた構匠三浦史朗が審査委員長を務める。プランニングの現場を監督してきた匠たちがP1グランプリを決める。
●取るに足らないものがセカイを制す『FURIKAKE Museum 粒が織りなす世界』
ふりかけにはルル3条がある。友となり他者を求めるロール、閉じ込めて放つというルール、そしてリミックス自由なツールだ。ふりかけプランナーの脈診カーソル教室の三浦一郎は、ホームステイを受け入れた際の食習慣のちがいによる擦れ違いを機に、世界をまたいでインタースコアが成せる手法を「ふりかけ」に求めた。お弁当の白飯やおにぎりと合わせて食されるふりかけは、いくら背伸びしてもおかずとは呼ばれない「負」の側面をもつ。ジャンク品、取るに足らない、かつ他者依存型でRNAウィルスにも似た構造をもっている。が、世界の食材をフリーズドライして1mm粒にし、粒のリミックスで味の組み合わせが無限という超過激な思想も持ち合わせていた。そんなふりかけの粒々に歴史的な「わたし」を凝集させたのがこのプランである。フラジャイルな反撃だ。ふりかけの地、瀬戸内海を行き交う「家船」を模した移動型のミュージアム。「わたし」らしい味を封入した「ふりかけ名刺」の発案。さらに名刺交換を行えば、味覚の交わりと遊びが生れるのだという。今や「エディティング・モデルの交換」が「ふりかけ」によって語られる時代に突入した。三浦はプレゼンの最後にこう豪語した。「世の中はふりかけを振ったときから始まる」。脈診カーソル教室学衆のアイコンは五色のふりかけ小袋を擬いていた。三浦の背景はお茶漬け柄だった。
▲教室仲間のふりかけアイコンと脈診カーソル教室学衆の三浦一郎
●ソールに潜む魂(ソウル)にハイパーをみた『湘南シューズ・ミュージアム』
ピンヒールの先にみえるはエレベーターの扉。これでハイヒールが未知への回廊にみえてくるから不思議だ。案内役は湘南を思わすスカイブルーの着物で登壇した八客想亭教室師範代の清水幸江だ。最上階に上がってまもなく観客は靴を脱ぎ、シューフィティさながらに紐に吊るす。宙吊り状態の靴に「注意のカーソル」を向けると清水が問う。「靴が私たちを見捨てて去っていく。靴のソウルに耳を傾けていないからだ」。ソールこそソウルというモジリから各部屋のネーミングが一気に花開く。靴でないモノは「靴ずれ」、フットパッドにみる「靴かもね」、スニーカーの断面がみれる「正踏派」、ハイヒールは「究靴」、かんじきは「負靴の人」、地球最初の藁沓は「発靴」だ。最後の部屋ではプランナーの八客想亭教室の鈴木悠也がスニーカーのソールをとめどなく語る。筋金入りのフェチ語りだ。それでは出口へ。同じ靴を履き直してみるとわかるのだ。「わたし」のアフォーダンス・アブダクション・アナロジーがとっくに変わってしまったということが。
▲ハイヒール型ミュージアムを案内する八客想亭教室の清水師範代
●マスクの機能は膜に通じる『わたしのマスク展~相、層、喪、装なんです~』
時たま音だま教室の高本沙耶の語りが本楼の7分間を包み込んだ。まず高本が告白する。「2年近くマスクをつけてるうちに顔が隠された状態に慣れていたんです。それに気づいてからは会議中に忍び笑いや変顔もしてみたり。しばらくマスクに隠れた一人遊びを楽しんでました」。マスクは身を守ることのみならず、隠すことも装うこともできる。いま将来のポストマスク生活の可能性を問うなら、その答えを示すのがこのマスクの見立てミュージアムだ。チケット代わりのミラーマスク、床一面のCOVID-19、上半分の狐面、間を仕切る雪見障子、光線を遮る御簾。白い布に覆われた凱旋門の写真は、記憶の中の凱旋門を想起させる。隠されているのに見えている。暗示は明示なのだ。南の島に来た都会人は心に非日常を感じる、心にマスクをしているかのように。網走の流氷と空と海とがマスクのなかのレイヤー構造と重なる。宇宙ステーションから、地球を守るマスクである大気圏が見えてくる。地球もずっと前から包まれていた。そして「わたし」もマスクっぽいものを探す旅人だ。自分のマスクミュージアムを持ち込んでここに展示することも可能だという。この託された余白を巡り、さし掛かるあなたとさし出してカワルわたしが共話する場が生まれる。マスクはマク(膜)の機能と通じている。語り部もまた膜の化身であった。
▲マスクっぽいものの謎に迫る時たま音だま教室学衆の高本沙耶&細田師範代
●「ふりかけ→靴→マスク」の演出で見えたものは?
三体三様のリミックスされたハイパープランニングだった。P1グランプリを制したのは、2票獲得した「ふりかけ」だった。審査委員長の三浦は「種が花を出す。その種を含めてふりかけとして捉えること」に新たなふりかけの将来をみたと評した。同じくふりかけを推した森は「人生の節目にふりかけ名刺を、というアイデアが面白い。ふりかけに合っている」と企画力の手際を讃えた。靴に票を投じた中野は「みたことないものだ。構成もネーミングも練られていて、靴の奥底にある世界を思わせる可能性を感じた。あるなら行く!」と太鼓判を押した。
惜しむらくは「靴のあとにマスクだというのが残念。マスクの次に靴だと両方が光ったかもしれない」と語ったのは松岡校長だ。「マスクは面白かった。もっと大きいモノで勝負するとか、拡げたモノを全部入れるのは大変だけども、拡げて絞ることをやってみてください」と断然のマスク贔屓ぶりを開示した。
優勝賞品である校長直筆の『松丸本舗主義』の見開きが映し出された。
P1グランプリ
ふりかけМ(○で囲んだМ)
脈診カーソル
三浦一郎どの
校長松岡正剛
МはミュージアムのMであり、脈診カーソルのМ、三浦のМであり、松岡校長のМだ。三浦が師範代登板した暁には、教室名に「ふりかけ」が入るのは確実である。
▲P1GP審査員は(左から)中野組長、森師範、三浦史朗審査委員長
▲松岡校長「いままでのP1グランプリで一番いい3チームでしたね」
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
齋藤シゲノリ
編集的先達:梶原一騎。編工研バイトがきっかけでイシスに出会う。レスリングマニアで、編集学校イベントでは必ずプロレスTシャツで登場。学衆が師範代を娶る逆イシス婚を寝技で決めた。妻は納富師範代。
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