【田中優子の学長通信】No.03 イシス編集学校の活気

2025/03/01(土)08:00
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 師範代開始が迫っている私に、「2日に1題、8-10名の学衆さんに指南!」という檄(げき=ふれぶみ)が入ってきました。決して脅しでも励ましでもなく、これは「守」の師範代の「現実」です。


 イシス編集学校はこの極めて高い集中を要する指南を中心にまわっていますが、それだけではありません。たとえば「感門之盟」は昨年までとは異なる方法で実施することになっています。その準備も活気を帯びています。さらにイシスのことを外に知らせていくための、さまざまな方法が実施されていて、「遊刊エディスト」はその筆頭です。連載、各種賞の発表、新しく始まった「多読アレゴリア」の紹介、そして『情報の歴史21』を遊ぶ方法など、盛りだくさんです。

 

 アドヴァイザリー・ボードである、イシス・コミッションメンバーのディスカッションもすでに予定されています。座談会や対談や本の執筆など、学長である私のお仕事も、山盛りです。

 

 そして何より、今年度の「守」の開始が迫っています。その緊迫感を嫌が上でも高めてくれているのが、師範代予定メンバーたちの自主的トレーニングです。毎日、模擬回答と模擬指南の大量メールが飛び交っています。中学や高校の教育実習は、これほど活気を帯びてはいませんよ。

 

 ちなみに皆さんそれぞれ、お仕事を持っておられます。それがイシス編集学校の特徴で、師範も師範代もコミッション・メンバーも、編工研のAIDAボードも、多読アレゴリアの主催者たちも、収入を得るための仕事ではないのです。ではなぜ、そういう場に活気が生まれるのでしょう?

 

 たとえて言えば、江戸の火消しは「仕事」ではありませんでしたが、歌舞伎に取り入れられるぐらい知られていて、人気があり、自ら望んでなるものでした。その理由は恐らく「活気」です。時間との競争による緊張感、他者のために尽力する心意気、活動によって生まれる連帯感です。寺子屋の教師も、生活のための仕事ではありませんでした。ほとんどの人は生活基盤となる仕事をもっていて、それ以外の時間を使って、子供達に読み書きと算術と、時には礼儀作法まで教えていました。寺子屋は子供達が学ぶ場であると同時にともだちと遊ぶ場でした。寺子屋の絵を見ていると、こちらまで楽しくなります。教師(師範)たちも同様だったと思います。


 なぜこのような活動が活気を帯びるのか? これは今後の社会を考えるにあたって、研究に値します。

 

イシス編集学校

学長 田中優子

 

 

田中優子の学長通信

 No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)

 No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)

 No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)

 

アイキャッチデザイン:穂積晴明

写真:後藤由加里

  • 田中優子

    イシス編集学校学長
    法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。

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コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025