近視の人に道をおしえるのは、むずかしい。なにしろ、「ここから十マイルさきの、むこうのほうに教会の塔がみえます。その方向に歩いていきなさい」などとは、いえないからである。
私にとって、ヴィトゲンシュタインは哲学者ではなく詩人でした。18歳の春に出会った上の言葉は、青春のもどかしさをあまりにも射抜き過ぎていたのです。私にはハッキリと見えているヴィジョンなのに、それを誰かと共有することが出来ないのは何故なのか?「相手の目が悪いのだ」と哲学詩人は言うけれど、私は自分の言葉の拙さを呪うばかりの蒼き日々でした。
そこで、花伝所の入伝生が場のなかで互いにアタマの中のイメージを共有しあう様子を観察してみることにいたしましょう。ここでは発言の内容にまでは踏み込みませんが、入伝生の「ふるまい」を定量スコアでスケッチしたものを紹介します。
シーンは講座の最初期で、出会ったばかりの仲間同士が、手探りながらも「問」を分かち合い、コーチングし合って「応」「答」へ向かおうとしています。指導陣は基本的に介入せず、入伝生がEditCafe上で自発的に発言を連ねる場面です。
◎共読スレッドの様子
◆下図左のツリー状のチャートは、EditCafeでの発言スレッドの様子をそのまま模写している。横方向へのスレッド展開は先行発言への返信で「情報の進化や熟成」を示し、縦方向への連なりは親発言へ応じる回答で「情報圏の拡大」を示す。◆それぞれの方向へ進展する際のハブとなる発言者の振る舞いに着眼すると、横方向(情報の進化や熟成)と縦方向(情報圏の拡大)では異なるエディティング・キャラクターが関与していることが窺える。
※レーダーチャートで「馬力」「場力」とあるのは、いずれも「発言頻度(e-馬力)」のこと。意図的に道場と錬成場とで表記を変えている。(数値データの計算式は前段を参照)
(↑クリックすると大きく表示されます)
◆スレッド1では、入伝生Aと入伝生Bが対話を展開させ、互いに言葉を重ね合いながら情報を深化させている。AとBは、後々の演習でも高い「発言頻度(馬力,場力)」をスコアしている。◆同じように、スレッド2では入伝生Eが横方向への展開に寄与しており、Eの演習スコアも「発言頻度」が高い。
◆スレッド2〜4は、入伝生が自主的にテーマを設定してスレッドを立て、問感応答返のホストを担おうとしている。◆入伝生BとFは縦方向への展開(情報圏の拡大)を積極的に誘うものの、ホスト役としては横方向への進展(情報の進化や熟成)には充分に関与できていないように見える。二人のふるまいをレーダーチャートのスコアを眺めながら分析すると、Bは豊かな「発言頻度」のわりに関係性の構築が限定的であり、Fは「冗長度」と「発言頻度」のアンバランスとして描出されている。
◆また、この事例では入伝生Gの視野の広さが印象的だった。自らスレッドのホスト役を担うことはなかったものの、自身の発言への返信を丹念に拾ってスレッドを横方向へ進展させている。Gの安定感あるふるまいは、「トルク(e-トルク)」の太いレーダーチャートからも読み取れるだろう。
共読スレッドでのふるまいと関連づけながら着目したいスコアは「発言頻度」と「冗長度」です。いずれのスコアも、他者や場との「関わり合い」の度合い(関係量)を定量計測した数値です。(注:「発言頻度」は「発言数÷応答速度」ですから、たんに発言数が多くても速度が遅い場合は低めにスコアされます)
これら「関係量」をめぐるスコアは、高くても低くても、その者が他者や場と関わる際の特性や傾向を如実に表す指標となります。その数値が高ければ、周囲との関係を拡充しようとする意図や意欲(たとえば、わかりたさ/関わりたさ/確かめたさ等)を読み取ることができますし、低ければ何らかの理由で他者や環境との交流が不活性であることを示します。
また「速度」と「トルク」からは、インタースコア編集の際に動く「感」「応」の度合いを、そのレスポンスの量として窺い知ることが出来るかも知れません。
さらに、こうしたインタースコアへ向かう際の編集態度については、凸型と凹型の2つのモードが想定できるように見えます。
すなわち凸型は「自身を積極的に場へ投企させようとする態度」で、凹型は「場を設えて周囲を招き入れる態度」です。前者は持ち前の動体視力を活かして場へ突出することで関係的な優位性の獲得を目指し、後者は視力に頼らず場から編集資源を掘り起こして共同知を築こうとする戦略といえるでしょう。
上で紹介した事例で言えば、入伝生A、B、Eは3人とも関係”量”が高スコアを示していますが、関係”性”に着眼すると異なる様相が表れています。Aは共読スレッドを横にも縦にも伸ばしており、凸型凹型ハイブリッドな特性が見てとれます。入伝生BとEは横方向への展開は活発ですが、縦方向への拡張は限定的で、凹型の態度は控えめに見えます。
その点、入伝生Fは縦方向の拡張を誘うように積極的にふるまい、凹型の特性が顕著ですが、自ら設えた場のなかで充分な「もてなし」をもって応じるまでには至りませんでした。冗長度は高いものの、トルクが細いため、横方向へ対話を進展させる馬力を生み出せなかったのでしょう。
また入伝生Gは、局所的な存在感を発揮しつつ、レーダーチャート上では式目演習を通して平均値をやや上回る「ふるまい」をスコアしています。
花伝式部抄(スコアリング篇)
::第10段:: 師範生成物語
::第11段::「表れているもの」を記述する
::第12段:: 言語量と思考をめぐる仮説::第13段:: スコアからインタースコアへ
::第14段::「その方向」に歩いていきなさい
::第15段:: 道草を数えるなら
::第16段::[マンガのスコア]は何を超克しようとしているか
::第17段::「まなざし」と「まなざされ」
::第18段:: 情報経済圏としての「問感応答返」
::第19段::「測度感覚」を最大化させる
::第20段:: たくさんのわたし・かたくななわたし・なめらかなわたし
::第21段:: ジェンダーする編集
::第22段::「インタースコアラー」宣言
深谷もと佳
編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。
一度だけ校長の髪をカットしたことがある。たしか、校長が喜寿を迎えた翌日の夕刻だった。 それより随分前に、「こんど僕の髪を切ってよ」と、まるで子どもがおねだりするときのような顔で声を掛けられたとき、私はその言葉を社交辞 […]
<<花伝式部抄::第21段 しかるに、あらゆる情報は凸性を帯びていると言えるでしょう。凸に目を凝らすことは、凸なるものが孕む凹に耳を済ますことに他ならず、凹の蠢きを感知することは凸を懐胎するこ […]
<<花伝式部抄::第20段 さて天道の「虚・実」といふは、大なる時は天地の未開と已開にして、小なる時は一念の未生と已生なり。 各務支考『十論為弁抄』より 現代に生きる私たちの感 […]
花伝式部抄::第20段:: たくさんのわたし・かたくななわたし・なめらかなわたし
<<花伝式部抄::第19段 世の中、タヨウセイ、タヨウセイと囃すけれど、たとえば某ファストファッションの多色展開には「売れなくていい色番」が敢えてラインナップされているのだそうです。定番を引き […]
<<花伝式部抄::第18段 実はこの数ヶ月というもの、仕事場の目の前でビルの解体工事が行われています。そこそこの振動や騒音や粉塵が避けようもなく届いてくるのですが、考えようによっては“特等席” […]