紫~ゆかり~への道◆『光る君へ』を垣間見る 其ノ十

2024/08/17(土)19:00
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事実は一つ。であっても、それに対する解釈は無数に。「なぜ」と「どうやって」は見る人の数だけあるのでしょう。大河ドラマもまた、ある時代・ある人物に対する一つの解釈です。他の解釈を知れば、より深く楽しめるに違いない。
冒頭、雨乞いをする安倍晴明。既に引退したのに道長に引っ張りだされ、道長の命10年と引き換えに雨乞いに挑む。タイトルの「つながる言の葉」を引き取り、見事、ことのはで雨を呼び寄せました。



◎第30回「つながる言の葉」(8/4放送)


 「つながる言の葉」でありながら、実は「すれ違う気持ち」に焦点があてられていたように思います。


◎まひろ(後の紫式部)とまひろの娘・賢子


 藤原公任の妻のサロンで和歌を教え始めたまひろは、そこに集う女房達に聞かせる物語「カササギ語り」を書くのに夢中。
 娘の賢子は、為時じいじに甘やかされて、相変わらずお勉強を嫌い、まひろを苛立たせます。
 母と遊びたいのに、書き物に没頭していて振り向いてもくれないので、賢子はついに母の作品に火をつけてしまう。「この書き物さえなければ…」というところ。もちろん、まひろに見つかって大目玉をくらいます。木造の家ですからね、そりゃ、火事になったら大変だ。
 でも、小さな子がそこまでしたくなるほど、放っておくのもどうなの? とまひろも少し反省した模様。
 それにしても、作品を燃やす、というのは『若草物語』を彷彿とさせますね。母子でありながら、ジョーとエミーの姉妹であるかのよう。為時は、さながら二人の仲を取り持つアーチー夫人、ですね。

 そして、まひろが書いたという「カササギ語り」。カササギが人間の世界で見聞きした出来事を語るという物語、どんなお話なのでしょうか。
 「体が小さくて病がちな男と、ふくよかで力持ちの女。いつの世も男は女よりも上でいたい。そして男は女の振りをし、女が男の振りをしていた? しかも二人とも心から別の性になりたいと思っていた?!」
 …「とりかへばや物語」のようなお話だったのでしょうか。


◎彰子と一条天皇/倫子と道長


 定子が産んだ敦康親王と遊ぶ一条天皇。ますます定子に似てくることに喜びをおさえられない一条天皇に対し、養母ではありながら、その父子の楽しげに遊ぶ様子にのりきれない彰子(にしても、彰子を演じる見上愛さんの、まぁ、「気分、のりませーん」な表情の「らしさ」ぶりときたら。画に描いたような「かたくな」ぶりに思わず拍手、です)。
 ついに、倫子は一条天皇に直接、訴えます。このままでは彰子がかわいそうすぎる、どうか、一条天皇から優しい言葉をかけてほしいと。しかし一条天皇は彰子が自分を受けいれないのだといいます(自分が笛を吹いた時に、それを見もしなかったこと、まだ根に持っているんですねー)。
 倫子から天皇への直言を一緒に聞いていた道長は、倫子を叱責しますが、倫子は「私の気持ちなどわからない」と言って立ち去っていきます。


 何もかもがうまくいかない苛立ち、すれ違う気持ちのやり場を求め、安倍晴明に会いに行く道長。心の中に浮かぶ人に会いに行け、それが貴方を照らす光だ、という安倍晴明の諭しにより、道長はまひろに会いに行こうとします。
 なんと…。「光る君へ」の「君」は道長かと思いきや、その道長の「光」はまひろだったのですね。


 今回、初登場にして画面をぱーっと華やかなものにしたのが和泉式部。本編の「光る君へ」紀行と重なろうとも、ご紹介せずにはいられません。

 

◆『今ひとたびの、和泉式部』諸田玲子/集英社文庫◆

 「あらざらむ/このよのほかのおもひでに/いまひとたびのあふこともがな」。百人一首に入っている和泉式部の歌だ。もうすぐ死んでしまいそうな私、あの世に持っていく思い出として、あなたにもう一度会いたい。死を目の前にしてなんと激しい歌だろうか。
 その「いまひとたびの」を題名にひいたこの小説では、和泉式部の育ての親であり、庇護しつづけた赤染衛門、その娘である江侍従と、和泉式部本人がかわるがわる語り手となって話を進める。当事者の目から見たものを、後日、別の目が客観的に綴ることにより、ともすると女の一人語りになりそうなものごとが深みを増したように感じられる。
 最初の結婚の破綻、和泉式部日記の元となる二人の皇子との恋愛と死による別離。後ろ指を指され辛い時に、いつも赤染衛門は歌を詠め、と励ました。夫にだまされたり、恋人に裏切られたり、など、和泉式部にしかけられた様々な罠が彼女を打ちのめしたとしても、歌が和泉式部を救った。平安きっての女流歌人の歌に迫力がある理由がよくわかる。

 


 

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  • 相部礼子

    編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。

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